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13-61:第十代勇者と第九代勇者の戦い 下

『少なくとも、私が知る範囲では心変わりしてはいない……という答えになるかと思います。私自身、あの人が高次元存在に手を伸ばしているのか、その理由を当人の口からは聞いたことは無いんです。

 一応、生まれてこれなかった子供を蘇らそうと誘われたのですが……ずっと疑問ではあったんです。あの人は私を病院に迎えに来た時点でDAPAの深部に潜り込んでいたようですから、時系列としては違和感がありました。

 ただ、深海のモノリスに同調し、全てのデータベースにアクセスできるようになった時、アナタの最後の時の映像を見て……』

『なるほど……いや、それも違和感があるな。アイツ、なんでそのデータを消しておかなかったんだ? または、どうして改竄しなかったのか……』


 右京の保持する情報を含む全てのデータベースにアクセスできるようになるというのなら、事前に金字塔の屋上における暴挙に関する情報を晴子に見られてしまうことも予見できたはずだ。単純に消し忘れたとかいうこともあり得なくはないが、他人の目を異様に気にする右京にしては少々詰めが甘いようにも思う。


 もしも晴子が――レムが過去の出来事を知ることが無ければ、自分は蘇らせれることも無かったはずであり、右京からしてみれば事態はもっと単純に運んでいたはずなのだ。もし単純なミスでこの事態を引き起こしたのなら、ある意味ではそれは右京の自業自得とも言えるのかもしれないが――アイツにはもっと別の意図があったのではないかと思われる。


 とはいえ、アイツが何を思ってレムに過去の映像を共有したのか、その意図までは自分には分からない。そんな風に考えていると、右京と添い遂げた晴子の魂の残滓が、どこか寂しげな調子で語り掛けてくる。


『思い返せば、私を連れ去った後のあの人は、いつも悲しそうにしていました。どれだけ言葉を重ねても、身体を重ねても、あの人の孤独は癒すことはできなかった……晴子にとってそれは悲しいことであり、辛いことでもありました。

 ただ、一つの仮説として……あの人はアナタを手にかけてしまった時点で、もう引き返せなくなっていたのでしょう。アナタを殺めてしまった罪は、世界をリセットすることでしか解消されないから……』

『……それで、罪に罪を重ね続けた結果がこのディストピアってんなら、笑えないぜ』


 過去の自分は、少年に虎を殺したことなど気にしないで、晴子と共にやり直してくれれば良いと祈った――それなのにいつまでも罪の意識を引きずって、それから逃れるために上位存在に無意味を返そうというのなら本末転倒だ。


『それだけ、彼にとってアナタの存在が大きかったということなのでしょう。それこそ、もし晴子が生きていたら、妬いてしまうほどにね。

 ともかく、彼は引き返すことはできなかった。アナタを手にかけ、二課を裏切った時点で……もう救われるには世界から消え去るしかなかったのでしょう』

『だが、アイツは……』


 お前を迎えに行って、何かを見つけようとしたんじゃないか――そう言いかける直前で、塔の外周でシニカルな笑顔でこちらを見ている少年の姿が目に入ってきた。なんだかんだで、あの顔を見るとぎゃふんと言わせてやらなければすまないという気持ち以上に、懐かしさがこみ上げてきてしまう。


 右京は再びこちらに向かって剣を横薙ぎにしてくる――その剣戟を上半身を逸らしてすれすれで躱した直後、少年の立つのと同じ外周まで辿り着く。しかし変な姿勢で着地したので少し間抜けに体制を整えた後、ちょうどADAMsの持続に限界が来て――できるだけキリっとした顔に切り替えて、二本のナイフを構えながら少年の方へと向き直る。


「……辛気臭い顔をしていたじゃないか、先輩。晴子に何か吹き込まれたのかな?」

「うるせぇな……テメェを逃してイライラしてただけだ。いつまでもちょこまかしてないで、そこに直りやがれ!」


 相手を指さして奥歯を噛んだ瞬間、右京はまたJaUNTを起動していずこかに消えた。すぐに次の出現地点である塔内を目指して駆け始める。


『アランさん、彼の狙いは……』

『あぁ、分かってる。隙を見てこっちの仲間を狙い打つつもりだろうが……そんなのは出たとこ勝負だ。アイツはせこせこと裏で計画を練るのは得意だろうが、行き当たりばったりは俺の独壇場だってことを思い知らせてやる!』


 右京は一度、ホールの三階部分の最奥に出現するが、それは敢えて狙わない。右京があそこに現れたのは、状況を確認するためだ――レムの予想通り、恐らくアルジャーノンとやり合っているチェン・ジュンダーを狙っているのだろう。


 それならばと――少年が目をつけたであろう次の出現地点に先回りをし、左腕のとっつきを再び構え、少年が現れるのに併せて打ち杭のトリガーを引く。相手が姿を現したのと同時に加速を解くと、ちょうど少年が振りかぶった剣と虎の牙がかち合い、ホールに強烈な音が響き渡った。


 右京は衝撃に身体をふらつかせ――だが剣を手放さないガッツはなかなかだ。それに、向こうも何やら決意に満ちた表情をしている。良いだろう、こちらも仕上げだ――手甲から巨大な薬莢が自動で排出され、次の一撃に備える。


「くっ……だが、こちらも動きは読んでいたんだ! このまま、アナタごと……!」

「いいや、コイツで終わりだ!」


 少年は踏み込み、もう一度剣を振り抜いてくる。こちらも相手の大剣に狙いを定めて左腕を突き出してトリガーを引く。先ほど杭が大剣に当たった位置と寸分狂わない場所を目掛けて杭が飛び出て、再度ホールに巨大な音が鳴り響く。今度の音は金属が割れる破裂音――こちらの打ち杭と相手の持つ大剣とが、何発も打ち合ったことで疲労を起こし、それがこの一撃で限界点まで達し、双方の武器が粉々に砕け散ったのだ。


 硝煙の向こう側で、少年が驚愕に目を見開く。相手が動揺している今こそ、その顔面に一発くれてやるチャンスだ。そう思って右の拳を突き出すのと同時に、右京は目を細めて唇を引き締め――結果、こちらが振り抜いた右の拳は宙を切った。


 精神的な動揺がある状態では、JaUNTは失敗する。それをアイツは知っているはずだ。それでも敢えて転移したということは、右京はあの一瞬で腹を決めたのだ。そしてもし転移に失敗すれば身体がバラバラに砕けるはずだが――しかし動揺を克服して気を強く持ったのだろう、右京は一度塔内の奥に姿を現し、しかしすぐにまたハッとした表情を浮かべてどこかへと消えていった。


 転移先の気配を感じられない所から、右京はこの場を離脱したのだろう。逃げれば敵側のトリニティ・バーストが解かれてしまい、残りの七柱も不利になるはずなのだが――右京が最後に見ていた視線の先を見て状況は理解した。別の場所で一つ決着がついており、既に七柱側のトリニティ・バーストは解かれていた。それが原因でアイツはこの場から離脱した――そういうことだったのだ。

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