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13-60:第十代勇者と第九代勇者の戦い 中

「大方、テメェはクラークが怖かったんだろう!? ハッカーとしての腕は見込まれていたようだが……テメェのその矮小な性根を見抜かれて、見下げられるのが怖かったんだ!」

「それに関しては否定しないよ。だが、彼と僕とは目指す先が違ったんだ……同じ高次元存在を求める者同士であっても、いつか袂を分かつなら、それは早いか遅いかの差だったんだ!」

「それで俺を利用したってんだな!?」


 振り抜いた刃が宙を切ると、今度は少年の気配が遠くなった。相手の攻撃の気配を感じ、後方にバク転しながら一回転、二回転、三回転と移動すると、海の向こうから放たれた剣の光波が一本、二本、三本と、塔の外壁を切り裂いた。


 自分がすぐさま右京を追いかけなかったのは――正確には追いかけられなかったのは――右京が海を漂う瓦礫の上に居るからだ。どれだけ加速しても落下速度は上げられないし、下手に足場を蹴って速度を持って足場を目指せば、水中を漂う瓦礫に凄まじい速度で激突して、そのまま海に沈んでしまう――足場が存在しない水中では、ADAMsなど勿論役に立たなくなってしまう。そう思うと、意外とあの位置に陣取られるのは厄介であり、今のままでは一方的に攻撃をされてしまう訳だ。


「テメェ! ちょこまか逃げ回ってんじゃねぇぞ!」

「地の利を使っていると言って欲しいね。狭い空間でわざわざ不利に付き合うことも無いんだからさ」

「俺を舐めんなよ、右京!」


 相手との距離は百メートルほど、膂力が上がっている今なら投擲でも届く距離ではあるが、こちらの動作で射線は読まれるし、何より防御プログラムを展開している右京なら避けるまでもなく簡単に弾き落としてくるだろう。


 そうなれば、リスク込みで海面まで移動し、肉弾戦を仕掛けるしかない。相手が姿を消したタイミングに合わせて奥歯を噛み、塔の外壁を全力で蹴ると、こちらの攻撃に塔の防御機能が働きバリアが展開され――音速で踏み抜いた威力に斥力が加わり、猛スピードで自らの体を海面へと撃ちだす。


 狙う先はもちろん右京の次の出現地点だ。空中で一回転し、右足を突き出すようにして海上に浮かぶ一つの瓦礫を目指す。こちら側は姿を現した少年に蹴りをかますのに対し、右京側は防御プログラムでいち早くこちらの動きに反応し、剣を前へと翳すことでこちらの攻撃に備えているが、今の速度なら威力は十分になっている。


 超音速の蹴りにより、右京の立つ足場は海面に沈み、辺りに巨大な水柱が立ち上がるが――少年が踏ん張ってこちらを押し返してくれたおかげで、自分は海面に沈まずに済むこととになった。空中でバク転しながら軌道を整え、手ごろな足場へと着地することに成功し、早々にゆっくりと立ち昇る水柱の方を睨むが、既に少年の身体はそこにはなく――相手の意志が来る方角を手繰ると、今度は上空から気配を感じた。

 

「まさか本当に挑発に乗ってくれるとは……意外だったね」


 右京が上空で剣を突き出すと、黄金色の光が分散し、辺りに雨の如く降り注いだ。再び奥歯を噛み、光弾を避ける様に辺りの瓦礫を飛び乗っていく。水面に激突した光弾がまた巨大な水柱を立ち上げ、そのまま辺りに水滴がゆっくりと降り注ぐ。最終的に相手の攻撃を避けきることには成功したが、周辺に浮かんでいた瓦礫は見事に破壊しつくされてしまった。


「ちっ……やるな」


 向こうとしても今が絶好のチャンスだったはずだが、続く追撃は無かった。先ほど、天上から放った一撃の時に確かに見えた――こちらが何度も何度も刀身にダメージを与えていたせいで、あの剣から煙が立ち昇り始めていたのだ。それ故にこちらに対するとどめを刺すことができず、右京は塔の方へと戻ったのだろう。


 最後に残された瓦礫の上から塔の方を見つめていると、脳裏にレムの声が響き始める。


『アランさん、どうやって戻るつもりです?』

『これくらいの距離なら、跳べば戻れる……ちなみに、アイツの目的は結局一万年前から変わってないのか?』


 奥歯を噛み、僅かに残っている足場で助走をつけながら、塔の方へと跳んで移動しているがてら、レムに気になる点を質問してみる――以前にレムも「右京の目的は宇宙の沈黙」と言っていたし、直感的には右京の目的は変わっていないとも思うのだが、彼本人の口から聞いたわけではないため、もしかしたら心も変わっている可能性もある。


 今更アイツの腹積もりを知ったところでどうもこうもないし、アイツの目的がなんであったところでぶん殴って止めるだけなのだが、気にならないと言えば嘘になる。自分よりも右京との付き合いのレムなら、もう少し踏み込んだ事情も知っているに違いない――そう思ったのだが、レムの方もなんだか煮え切らない調子で声をあげる。

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