13-59:第十代勇者と第九代勇者の戦い 上
トリニティ・バーストを発動した後、自分は真っ先に右京を目掛けて駆けだした。JaUNTに対応するには特殊な勘が要るため、アイツの相手をするのに自分が最適というのは勿論だが、一万年前と一年前の借りを返さなければ――いや、道を誤ってしまった後輩を自分の手で止めたいという思いがある。
何より、他の者の相手は仲間に任せられる。これは一万年前には無かった状況だ。二課のメンバーのバックアップは万全であり、信頼もしていたが、やはり現場に立つのは常に自分一人であったため、こうやって背中を誰かに任せられる状況というのはありがたい。その相手がT3とブラッドベリ、チェンというのなら尚更だ。性格的な所はひとまず置いておいても、その信念は本物であり、その実力は疑うまでもない。
ともかく、加速した時の中で右京が現れるポイントまで接近し、左手を突き出しながら、手甲の中のレバーを引き――。
「オラァ!」
加速を切るタイミングに合わせて掛け声をあげると、丁度打ち杭が射出されたタイミングに合わせて右京が目の前に現れた。浪漫こそあるものの、ADAMsとパイルバンカーの組み合わせは全く噛み合っていないとも思ったが、JaUNTの相手をするとなれば意外と悪くない。このように攻撃を置いておくことで、相手が現れるタイミングを丁度刈ることができるからだ。
右京の方もこちらが何かしら攻撃を仕掛けてきているのを予測していたのだろう、打ち杭は少年が防御のためにかざしている大剣の刃を突き、大容量の火薬が炸裂する衝撃で互いに後方へと吹き飛ばされた。
どんな技術で作られているのか、戦闘機をやすやすと吹き飛ばす威力のパイルバンカーで破壊できないとは、あの剣は頑丈だ。それに、今の威力で剣を手放さず、腕も折れないとなれば、トリニティ・バーストや補助魔法の効果ももちろんだが、右京が宿っている器もかなり頑丈なのだろう。
とはいえ流石にノーダメージとはいかないのか、後方に着地した右京は顔を苦々し気な表情を浮かべながらこちらを睨んできていた。
「くっ……やはり、僕を止めるための抑止力はアナタか」
「うるせぇ! ただテメェをぶっ飛ばしに来たんだよ、俺は!」
相手が姿を消すのに合わせて再び奥歯を噛み、先ほどと同じように打ち杭を突き出す。右京の側は距離を取って形成を立て直そうと考えたのだろうが、その迷いすら自分には見えすいている。ホールの三階に現れた右京は、再度出現した瞬間に打ち杭の衝撃で防御に使った大剣ごと吹き飛ばされた。
そしてもう一度――今度は自分のすぐ背後に向けて打ち杭を突き出す。流石にこれ以上刀身で受けるのがマズいと判断したのか、今後は七星結界でこちらの攻撃を防ぎ――流石にそれを敗れるほどの火力はパイルバンカーにはないため、今度はこちらが一方的に後方へと吹き飛ばされる形となる。
「ちっ……いつもこそこそしている癖して、クラークと並んだつもりか!?」
「いいや、それ以上さ……彼は結局その野望を果たせなかったのだから」
「テメェは実現できるつもりか!? この死にたがりがよ!」
死にたがり、という言葉に対して右京は眉をひそめた。だが、すぐに得心したという感じで頷き――しかし思い出されては恥ずかしいことをこちらが認識したせいか、いつものシニカルな笑顔はなりを潜め、険しい表情で剣を強く握ってこちらを見つめてくる。
「オリジナルと融合して、記憶を取り戻したのか」
「……テメェは今もあの時と同じ考えでいるのか?」
「……話す必要はないね!」
もはやJaUNTで逃げるのを無駄と判断したのか、それとも向こうも珍しく激情のせいで攻めん気を見せているのか、右京は剣を握ってこちらへと踏み込んできた。振り下ろされた一撃を左腕の手甲で受け止め、そのまま右手で投擲用のナイフを取り出し、至近距離から相手に向けて投げる。しかし、投げ出されたナイフは後方の壁を抉り――奥歯を噛んでその場から離脱すると、吹き抜けの反対側から自分が居た場所に複雑な採光の剣閃が走ってきた。
加速を維持したまま虎の爪を取り出し、次の出現地点を目掛けて駆けだす。階段を駆け下り、自分が入ってきた穴の外に姿を現している右京に対し、加速を切らないまま右手のカランビットナイフを突き出した。
その一撃は前面に構えた大剣によって防がれたが、そのまま両手の短剣と言葉を相手に向けて叩きつける。
「はっ! 借り物の力でいきがりやがって! このクソガキが! JaUNTだって戦闘プログラムだって、全部全部クラークのパクリじゃねぇか! そんな奴がそれ以上だなんて、片腹痛いぜ!」
「進化とは、模倣と研鑽の中から生まれる……確かにこの技は僕のオリジナルではないかもしれないけれど……これらは僕自身が研鑽して得た力だ!」
怒りの乗った少年の一太刀は重く、思わずこちらが後ろへ押し込まれてしまう。このままいくと、塔の淵から下へと落とされる――相手の攻撃を交差したカランビットナイフで受けたままADAMsを起動し、そのまま一度相手と距離を離す。
ついで、すぐさま相手がJaUNTを起動し、また背後から強烈な殺気を感じ――塔の内部から放たれた光波を躱すと、すぐにまた前後左右から相手の飛び道具が飛んでくる。それを躱すこと自体は難しくないが、いつまでも遠くからちくちくされていても埒が明かない――比較的近くに出てくるタイミングを読み、加速しながらその地点に一気に駆けつけ、握っている右のカランビットナイフを振りかぶる。
しかし、こちらの一撃は相手が構えていた大剣によって受け止められてしまう。ヘイムダルでは自分達の勝負は決着がつかないとは言われたが――確かにこう防御に徹されるとなかなか埒が明かない。攻撃が届かないフラストレーションをせめて口で晴らしてやろうと加速を切り、怒りの感情を刃に込めながら相手に突き出していく。




