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3-10:アガタ・ペトラルカと黙秘権 下

「ク、クラウ!? どうしてここに……持ち場、もう少し遠くだったはず……」


 クラウに対して、自分より先にアガタのほうが声を上げた。その疑問に、クラウはアガタを睨め付けるようにして答える。


「なんだか大きな奇声が聞こえてきたので? 何事かと思って見に来たんですよ……そうしたら、お二人が仲良く歩いてましたので? 私がお邪魔なら、退散しますけど……」


 最後の方は、段々と威勢が無くなっており、クラウはアガタから目を逸らしていた。


「ふぅ……クラウ、拗ねるのはおよしなさい。アランさんは貴女に会いに来たの。私は、それで道案内していただけ」

「拗ねてなんかいません!」

「やれやれ、しくじりましたわね……」


 その言い方は、なんだかより誤解を招きそうな気がする。というか、段々とアガタとかいう子、口調が雑になってきているのは気のせいだろうか。そんなことを思っていると、アガタは大きなため息をついて、クラウのほうを指さしながらこちらを見る。


「アランさん、私は退散いたします。この聞かん坊はお任せしますわ」

「だ、誰が聞かん坊ですか!?」

「そういうところですわよ、まったく……それでは、失礼します」


 振り返る紫色の髪に、「案内ありがとうな」とぶつけると、アガタは何も言わずに手だけを上げて去っていった。残されたのは自分と、唇を尖らせているクラウだけだ。


「……アガタさんと何を話してたんです?」


 まぁ、当然それは気になるだろう。そして、実際本当のことは何一つ分からなかった、それだけなのだから、ここは素直に全部言った方が、お互いに腹落ちもいいだろう。


「そりゃ、なんで友達を売るようなマネをしたんだって問いただしてたんだよ」

「……私が見た時はそんな感じじゃありませんでしたけど?」

「アガタのやつ、何も答えてくれなかったからな。雑談に切り替えてただけだ」

「ふーん……」


 尖っていた唇は段々としゅんとなり、クラウは不安げな表情で下を見ている。


「……本当に、何も言っていませんでした? その、私のことが本当は嫌いだったとか、こういうところがダメとか、そんな感じのこと……」


 なるほど、本当の不安はそれか。確かに核心は何もわからなかったが、同時に彼女がクラウのことを憎からずに思っていると感じたのは確かだ。それならば、下手に不安にさせることもない。


「言葉では何も言ってくれなかったが、態度では誰かさんのこと、今でも友達って思ってるように感じたけどな」

「……でも、それならアガタさんは、ちゃんと私に話すべきだと思います。なんであんなことをしたのか……どうしても勇者に同行したいなら、そう言ってくれれば、いくらでも交代したのに」


 そこに関しては、クラウには分からずアガタには見えていた部分があるのだろう。先ほど、クラウは教会内の勢力にはあまり興味がなかったと聞いた――恐らく、クラウやアガタの一存で教会全体の決定が覆る状況ではなかった、だからアガタは強硬策に出たということなのだろう。


 しかし、クラウの言い分ももっともだ。何某か事情があったとしても、それを言えないというのも不誠実だろう。本当に友達ならば、言えない事情があっても言えるラインまでは話して納得してもらうべきとも思う。


 さて、どう声を掛けたものか。こういう時は、大体何を言っても火に油だからな――そう思っていると、クラウはゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい、いま私、面倒くさいですよね……ちょっと待ってください」


 クラウは大きく息を吸って、自らの頬を両手でパン、と叩いた。そしてもう一度大きく息を吸って吐いて見せる。


「ふぅ……少し落ち着きました。それでアラン君、わざわざ何の用だったんです?」

「あー、それなんだが……」


 冷静に考えれば、昼間もこうして仕事をしているクラウに頼みごとをするのもお門違いな気もしてきた。しかし、せっかく彼女も強がって話を切り替えてくれたのだ、無理しない程度にお願いすることにして、ポケットから図面を出すことにする。


「実は、これを造ってほしくてな。忙しいなら、無理にとは言わないんだが……」

「ふむ……見せてみてください」


 クラウは差し出した紙を受け取ると、その図面をじっと見つめてしばらく読み込んでいるようだった。そしてことの次第を理解した後で、呆れ顔で――その感じはいつものモノに少し近いので、多少安心しながら――口を開く。

 

「アラン君、馬鹿なんですか? こんな危ないものを使いたいだなんて……」

「色々考えた結果だよ。それに馬鹿なのはいつも通りだろ?」

「まぁ、それは確かに……というか、アラン君、絵というか、製図は上手いですね。おかげで分かりやすいんですが……ただ、設計自体はお粗末なので、もう少し工夫しないとモノにならないと思います」


 再び図面に視線を落としながらクラウが呟いた。確かに、思いついたら案外スラスラと図面は引けたのだが、如何せん前世でもきっと機械について詳しいわけではなかったのだろう、機構がお粗末なのは仕方がない。


「それで、造れそうか?」

「アラン君の欲しいレベルでは、私の技術では難しいですね。多分、魔術杖を造れる職人なら、可能だとも思うんですけど……一応、一歩手前というか、一発限りのモノなら造れるとは思います」

「成程なぁ、クラウも忙しいだろうし、それなら他をあたってみることにするよ」


 図面を返してもらおうと思い手を出すが、クラウはその手を見つめるだけで図面は返してくれなかった。


「うーん……アラン君、やっぱり私に任せてみません?」

「うん? いいのか?」

「えぇ、その、ちゃんとしたのを造れる確約はないですけど……多分、ソフィアちゃんに相談して、魔術杖のパーツを使わせてもらえば、出来なくはないかと。私もちょっとクリエイターとしてのレパートリーを増やしたかったですし、丁度いいかなーなんて……?

 あと、結界の張り直しはもう数日で終わると思いますし、そうしたら暇になると言いますか。それにほら、約束したじゃないですか。アラン君に何か作ってあげるって……まさかこんな複雑なの持ってこられるとは少々意外でしたが」


 クラウはこちらが口を端挟む余地なくまくしたててきた。こちらとしても知っている人に任せられれば楽だし、本人もやる気なら、このままお願いしてもいいだろう。


「あぁ、それじゃあ頼もうかな」

「はい! でも、さっきも言ったように、単発式でも問題ありませんか? 多分、アラン君、自身の攻撃力のなさを補うために、これを考え出したと思うんですけど……」

「あぁ、問題ない。切り札の一発って言えば格好いいしな」


 何の気なしに言ったのだが、クラウ的にはなかなか心に来る回答だったようだ。一瞬はぽかんとした顔をしたものの、すぐに満面の笑みに変わる。


「アラン君、分かってますね! まぁ、これから作るのは試作一号で、上手くいったら何発か撃てるようにも改良できるかもですし……ともかく、任せてください!」


 その後は、「アラン君、必殺技を作ったりしないんですか?」とか取り留めもない話をしながら解散した。最終的にはクラウの機嫌も直っていたようなのでひとまず良かったか。


 しかし、アガタ・ペトラルカが多くのことを隠しているのは若干気にかかる。彼女に対する不快感があるというわけではないのだが――まぁ、機会があれば知れることもあるだろう、あまりクラウの邪魔をしていても仕方がないので、適当な所で切り上げることにした。

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