13-57:虎たちの共演 中
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アラン・スミスが復活してからの七柱たちとの戦闘も決して楽なものではなかった。こちらのせん滅に専念するためなのか、星右京とダニエル・ゴードンの両名がホールに戻って来たせいで、数で劣る自分たちが押され始めてしまったのだ。
とはいえ、悲観することばかりではない。ゴードンが片腕を失っているおかげか――それでも魔法で構成された浮遊する闇に包まれた手を使いつつ魔術杖を上手く扱っているが――動きがやや鈍い。また、原初の虎が復活したという動揺があるせいか、上手く連携が取れていないらしく、敵側のトリニティ・バーストの発現には到っていないことはこちらにとって追い風だった。
併せて、こちらは虎の復活に鼓舞されたのか、T3とブラッドベリの士気が上がっているようだ。魔王も一度はT2を纏った身として、アラン・スミスに対して何か感じる所があるのかもしれない。
ともかく、数で劣っているのを補うべく、自分も再度前線に出てローザ・オールディスと打ち合っている最中、外で巨大な爆発が起こった。その衝撃波に全員が防御姿勢を取り、爆発の中心点を見つめた。
「何が起こった!?」
そう慌てたように声をあげたのはローザだった。塔自体にもバリアがあるため建物自体は無事なのだが、むしろ確かな距離があるのにも関わらず塔のバリアを揺るがすほどの衝撃が来たのだから、慌てるのも無理もないだろう。状況を把握するためか、みな一度攻撃の手を止めており――。
「……キーツの無敵艦隊が全滅したようだ」
ローザの疑問に対して返事をしたのは星右京だった。
「なんじゃと!? あの戦艦には最新鋭の多重位相バリアが搭載されていたはず……どうやって破ったのじゃ!?」
「先輩が……原初の虎が蹴りをかましてぶち破ったんだ」
「そんな話があるか!?」
「……そんな話があるんです!」
ローザの叫びに返答したのは、少年の声ではなく少女の声だった。直後、強烈な熱線が話し合っていた右京とローザの方へと照射され――少年はJaUNTでそれを躱し、ローザは結界でそれを防いだ。
熱線の走ってきた方を見ると、崩落した壁に一人の少女のシルエットが浮かんでいた。
「ナイチンゲイル! セブンスは無事か!?」
少女の姿を見て、真っ先に声をあげたのはT3だった。先ほどの衝撃波を考えると、外に置いてきたセブンスが心配になったのだろう。
「はい! まだヘロヘロしていたので連れては来ませんでしたが、先ほどのショックウェーブの時は私と一緒に居ましたので、七星結界で護りました!」
「……恩に着る!」
二人は互いに頷き合い、すぐに武器を構えて戦闘へと戻った。T3はリーゼロッテと再び交戦を始め、ナイチンゲイルはアルジャーノンの相手に回ったようだ。
「おい右京! どうするつもりなんじゃ!?」
「アラン・スミスの変身は切れたようだ。原初の虎を倒すのなら、今しかない」
「それなら、さっさとこの場を……ちぃ!」
右京と会話をしていたローザは、放たれた漆黒の衝撃波を結界で防ぐために言葉を中断した。
「あやつの手を借りるまでもない。この場で貴様らと決着をつけてくれよう!」
「虎が一匹戻ってきた程度で……調子に乗りおって!」
魔王と偽りの女神が交戦に入ったことで、場は騒然とした空気を取り戻した。ブラッドベリと自分が相手をスイッチした形ではあったが、今の状況は悪くはない。現在のメンバーの中で、星右京の相手を一番まともに出来るのは自分であろうから。
自分が操る機械布袋劇の中には、敵を感知して自動で敵を攻撃できるセンサーが組み込まれている。そのため、JaUNTで瞬間移動を繰り返す右京が出てきたタイミングに合わせて攻撃することも、同時に相手の攻撃に合わせて防御することも不可能ではない――向こうもそれ込みで動いてくるのだし、上手く布袋劇の死角をつくようにヒットアンドウェイに徹されれば有効打にはならないが、こちらとしても味方が右京に奇襲されないように援護をすることができる。
ただ、それも長くは続かないだろう。右京自身の素体も強力であり、死角から布袋劇を各個撃破するなど容易であり、実際にそのような動きに切り替えられてきている。ただせめて、どこか一点が突破できれば状況は良くなるのだろうが、それは相手にも言えることであり――先ほどと比較すると互いに攻めん気が増しているものの、逆に自体は再び膠着しつつある。
右京に三体目の布袋劇を破壊され、こちらのセンサーにかなり穴が出てきてしまったタイミングで、右京がナイチンゲイルに目掛けて黄金色の剣閃を放つ。
「……甘いわよ、右京!」
相手からの一撃はグロリアが七星結界で防いだが、彼女が手を止めたことによりこちらの攻撃に更なる穴ができる。恐らく、右京の狙いはそれだ――リーゼロッテとローザも一度相手から距離を離し、中央に現れた右京を取り囲むように三柱が陣を組んだ。
「皆、一気に決めよう。トリニティ……!?」
精神感応デバイスを掲げた右京が言葉を切ったのは、崩落した壁の向こうからノーチラス号が凄まじい勢いでこちらへ飛んできているのが見えたからだろう。一応、トリニティ・バーストの起動には成功したようだが――それを発現させるために向こうが攻撃の手を緩めたことが、あの男の接近を許したということになるのだろう。
艦から撃ちだされたミサイルに何者かが乗っており、そのまま情け容赦なく塔へとぶつかってくる。ミサイルの爆発は塔のバリアによって打ち消されたが、それに乗っていた者は爆風に乗じて落下してきて、崩落した壁付近に着地する。
そしてソニックブームの破裂音が聞こえたかと思うと、直後に金属同士が打ち合う轟音が響き――音の発生源を見れば、瞬間移動をして場所を入れ替えている右京と、右の拳を少年の持つ大剣に突き出している男の姿とがあった。




