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13-56:虎たちの共演 上

 三度海面からアンカーで引き上げられ、自分は一度ノーチラス号の中へと移動した。艦内の道すがら、レムから先ほどの加速時は声を掛けらなかったことや――正確には声は掛けてはいたようなのだが、こちらの体感時間に上手く調整できなかったようだ――先ほどの一撃の余波がかなり大きく、周囲数十キロメートルの飛行型アンドロイドやキーツの戦闘機が全滅したこと、最後に全動力をバリアに回したノーチラスは無事だったものの、中はがっくんがっくん揺れて大変だったことが告げられた。


 ブリッジには熾天使の二人とシモンとが居り、とくにシモンは腕を組みながら俯き、無言のままでいる。対して二人の少女型アンドロイドは――ブリッジに入るなり、新しい耐火性の高い外套を手渡してくれた――手元を動かしながら代わる代わるにこちらに向けて話を掛けてきている。


「ブレイジングタイガー……マッハ10の累乗の速度で加速し、その衝撃を手足などの末端から一点集中で浴びせる必殺技。その一撃は、局所的に核爆弾の10倍の威力に達する……接触点にはアルジャーノンの第八階層を上回る威力があると言えます」

「そんな威力でわざわざ身体でぶつかっていくなんて、全く非合理だわ……はいこれ」


 イスラーフィールは先ほどの一撃の解析結果を、ジブリールの方は新たなパイルバンカーを――タイガーファングはブレイジングタイガーのエネルギーに耐えられずに消失してしまったので、次にくれるのは何本か作っていた試作型のさらに試作型らしい――火薬の詰め終わったそれをこちらへと渡してきた。


「あぁ、サンキューな」

「……貴方は私たちのことを恨んでいたのではないですか?」


 こちらが素直に礼を言ったことに対し、イスラーフィールの方は訝しむ様な調子でこちらを見ている。


「怒っていたと言えばその通りだが……クラウディアが許したんだろう? それなら、俺がとやかく言うことは無いぜ」

「はぁ……貴方といいクラウディア・アリギエーリといい、高次元存在と接触した者はあっけらかんとしていますね。でも、なんだか興味深いです」

「そうね。達観してるって言えば聞こえも良いけど、自己が希薄というか……いえ、コイツもワカメ女もどちゃくそに我が強いけど、我欲って面では薄いのよね。ルーナや他の第六世代型にはあんまり見られない傾向だわ。これが悟りってやつなのかしら?」


 イスラーフィールとジブリールは手元を動かしながらも興味深そうにこちらをあまりにじろじろと見てくるので、少々居心地が悪くなってきた。二人から視線を離したタイミングでちょうど鼻と目を赤くしたシモンが視界に入ってきた。


「……アランさん、ありがとう」


 自分は彼の父親にトドメをさしたのであり――それはキーツ本人が望んでいたことはシモンも分かってはいるが――人を殺しておいて自分からどういたしましてもおかしいだろうと思い、ひとまず人差し指と中指を立てて手であいさつを返す。するとシモンは「はは、親父と同じポーズだ」と言って笑い、端末の方へと向かって自分の作業に集中し始めた。


 本来自分とフレデリック・キーツは敵同士であり、ドワーフのダンとは一晩盃を交わしたものの、それでもなお互いに多くを語り合った訳ではない。しかし、彼の生き様を思い返すと、性格的な所は自分と気が合っていたように思う。


 とはいえ、まさか同じポーズを取ってしまうほど気が合うとなれば少々気まずくもあるのだが――ともかく、あまり長く彼の死を悼んでいる時間はない。次なる戦いの舞台へと向かうことにする。


「イスラーフィール、ジブリール。船を塔へと向けてくれるか?」

「それは構いませんが……」

「アナタ、変身は切れちゃったんでしょう? 大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だ。レッドタイガーがあった方が心強いのは間違いないが、この身体とコイツがあれば、変身せずとも結構やれる自信があるからな」


 そう言いながら、自分はジブリールが手渡してくれた施策型のさらに試作型のパイルバンカーを腕に取り付け、空いているほうの手で胸をドン、と叩いて見せる。実際、今の身体ならADAMsを十全に使うことはできるし――何より、あの塔には決着をつけなければならない相手がいる。


 そう思いながらブリッジの窓の先に見える塔を見つめていると、イスラーフィールが横でうなずく気配を感じた。


「了解しました。既に空域に敵影はありませんから、すぐに塔に着きますよ」

「だから、アナタはさっさと外に出て、塔に飛び移る準備をしておきなさい」

「あぁ、了解だ!」


 二人の熾天使に対し、先ほどシモンに「親父と同じ」と言われたジェスチャーを返し、自分はすぐに飛び出せるように再び甲板を目指して駆けだした。

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