表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
824/992

13-53:虎と技術者の激突 下

『射出の準備ができましたよ。どちらへ出せばいいですか?』

『あぁ、戦艦の方へ頼む! 今度こそ、本丸ぶち抜いてやる!』

『了解しました。三秒後に射出しますよ……三、二、一……』


 ADAMs込みの速度なら、射出された後を追いかけた方がキャッチしやすい。ゼロが聞こえるのと同時に奥歯を噛み、再び屋根を走って空へと飛び出す。既に発射されていたそれを空中でつかみ取り――以前の物はナックル規格のものだったのに対し、今回のは腕に装着する形の長物で、その先端には鋭い杭が備えられている。


『以下、クラウディア・アリギエーリからの説明をそのまま読み上げます。一号から改良を重ね、火薬と火力を増し増しにした最強のとっつき。打杭型吶喊兵器試作二号・猛虎、もとい……』

『タイガーファングよ!』


 クソガキ感のある声が脳裏に響くのに合わせて左腕にそれを左腕に装着し、目掛けていた戦闘機に対して虎の牙を撃ちだす。かなりの量の火薬を積んでいるのだろう、生身では腕が粉々に砕けてしまいそうな程の衝撃が左腕を通して全身を駆け巡るが、逆を言えばそれだけの威力で鋭い牙が撃ちだされていることを意味する。杭が一気に戻る反動を活かして近場の戦闘機の軌道を読み、腕の機構から薬莢を吐き出しながらそちらへと跳んで二機目にも同様に杭を撃ちだす。


 そんな動きを三機、四機と繰り返したタイミングでノーチラスの軌道へと戻り、足が天井に着いたタイミングでADAMsを切る。杭を撃った順番に戦闘機がほとんど同時にへしゃげて空中を蛇行し、そのまま順番に空中で大きな爆発を引き起こした。


「こりゃいいな! 浪漫ってもんが分かってるぜ!」

『うわっ、本当にテンションが上がってるわ、アイツ……』

『でも、確かにメンタルには良い影響が出ているようです。そもそも別にあの速度でぶつかれば戦闘機を落とすことは可能であり、打ち杭で攻撃する必要性まったく無いとは思いますが……』


 脳内に響く言葉は可愛げが無いが、熾天使達はやはり優秀なのだろう、うだうだ言いながらも適切に艦の攻撃と防御を展開し、ダメージを最小限に抑えながら飛行タイプのアンドロイドや戦闘機を的確に落としている。


 ともかく自分は再び思いっきり暴れまわってもう一度エネルギーを溜め、ノーチラスが十分に近づいたタイミングで敵旗艦に必殺の一撃を打ち込むことだ。自分も引き続き周囲の戦闘機を接近戦で仕留めて、来るべきチャンスを待つ。


『敵戦艦を追い詰めます……スピードを上げますよ』


 イスラーフィールの声が聞こえるのと同時に、ノーチラスが前進する速度をあげた。必殺の一撃を出すためのエネルギーは、戦艦に向けて飛び出せば溜まるだろう――船の速度に振り落とされないように踏ん張っていると、徐々にキーツの戦艦が近づいてきた。


「しゃあ! 覚悟しろよ、オッサン!」


 自分の声も聞こえないほどの風圧の中で奥歯を噛み、音の消えた世界で走り始め、フレデリック・キーツの操る船を目指して跳躍する。接触する直前でベルトのボタンを弾き、先ほど重巡洋艦を落としたときと同じ要領で、超加速による物理攻撃とエネルギーとを敵旗艦にぶち込む。


 しかし、今度は手ごたえが無かった。どうやら先ほどと違って、物理バリアと合わせてエネルギーを防ぐバリアが同時展開されているようだ。こちらの体は斥力に弾かれ中空に放り出されてしまう。


 更に、バリアはこちらを弾いてから形を変え、木の枝のように急速に伸び始める。それらは光の刃となり、接近を試みた相手を串刺しにしようとしてくる――なるほど、これこそが近接攻撃を仕掛けてくるであろう自分に対するキーツの答えか。確かに斥力で弾かれた現状では軌道をコントロールするのも難しい。クラウディアの新兵器を発射する反動で幾分か自分の軌道をずらすものの、それでも完璧に避け切ることは出来ず、伸びてきた無数の刃が自分の体を刺し貫いていく。


 なんとか急所にもらうことだけは避けたが、それでも貫かれた場所が燃えるように熱い。しかし同時に、フレデリック・キーツが本気で作ったレッドタイガーこそが、自分を守る最強の鎧となっている。身体細胞を活性化させる変身機構と、レムがかけてくれているリジェネレーションとが掛け合わさり、焼かれた組織が急速に回復していくためだ。右腕と左腹部で刺し貫かれて空中に制止してしまった身体を無理やりに捻じり、筋組織を抉りながらも磔から脱出し――そして上空へ向けて虎の牙のトリガーを引き、反動で海面への離脱を図る。


 落下していく間も焼かれた部分が煙を上げ、急速に回復していく。落下していく間もこちらへ向けてホーミングミサイルが発射されるが、それは発射タイミングを見切って、予めその軌道に合わせてナイフを投擲しておくことで直撃を避ける――そして爆風によってこちらの体はより吹き飛ばされて海面へと激突した直後、再びノーチラスより射出されたアンカーによって拾われる形になった。


 アンカーが巻き上げられ、もう一度ノーチラスの屋根に戻ったタイミングで、レムの声が聞こえだす。


『アレは……巡洋艦や駆逐艦には無かった物理、エネルギー完全両対応のバリアを展開し、同時に攻撃に転じる機構のようですね。私にもその情報は共有はされていませんでしたが……恐らくアレが、キーツの切り札なのでしょう』

「ちっ……それなら力比べだ! エネルギーを溜めてもう一回ぶつかりに行ってやる!」


 バリアに刺し貫かれた傷も爆風で焼かれた皮膚もある程度は回復しているが、結局は極限まで代謝を高めて無理やり修復しているのであり、もう一回磔にされた身体も持たない感覚もある。とはいえ、安全圏から攻撃する手段は自分にはなく、結局は体一つでぶつかっていくしかないのだが――次で仕留めなければやられるのはこちらだろう。


 だが、どうすればアレを突破できるか――そんな思考を中断させたのは、久々に聞く男の声だった。


『アランさん! ちょっと待ってくれ!』

「シモン! 男の戦いに水を差すつもりか!?」

『そんなんじゃない……そんなんじゃないんだ』


 返ってくるシモンの声は小さいが――同時にどこか信念が籠っているものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ