13-51:虎と技術者の激突 上
『変身の残り時間は五分ほどです』
フレデリック・キーツの無敵艦隊がこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる直前、こちらがADAMsを起動して相手の攻撃に備えたタイミングに合わせて、脳内にレムの声が響いた。
『以前のように、エネルギーを使い果たして変身が途切れたりはしないようですが……生身の部分というより、機械部分の限界的に、ずっと変身という訳にはいかないようです。インターバルとしてはできれば一時間、最低でも三十分は間隔を空けてください』
『それまでの間にオッサンと右京の野郎をぶっ飛ばさないといけないのか……なかなかのハードスケジュールだな』
『そうですね……それで、ノーチラスの内部から通信が入っています。思考してくれれば私の方で言語化して向こうに伝えますよ』
ついで、レムに変わって有無を言わさず少々無機質な声が聞こえだす。
『アラン・スミス。クラウディア・アリギエーリからの贈り物があります。どうしますか?』
『イスラーフィールか。俺が指さす方に撃ちだすことはできるか?』
イスラーフィールは第五世代型なので、ADAMsを起動しながらでも会話を出来るのはありがたい。それに、この有事にわざわざ通信してきたというのなら、きっと新しい武器か何かだろう――これから艦隊を相手にするというのだから、武装は多いに越したことは無い。
自分が指さす方向は、自分が見出している道筋の途中にある。しかし問題は、撃ちだして大丈夫な物かどうかだが――艦内のイスラーフィールは「まさか本当に?」と狼狽したようだが、すぐに言葉を続ける。
『その、できなくはないですけど……』
『それじゃあ、準備ができたらもう一度連絡してくれ!』
通信を切って意識を集中し、視線を中空へと向ける。既に何機もの戦闘機と、それらに撃ちだされた機銃の弾丸やミサイルとがこちらへ向かって接近してきているのが見える――サイボーグとしての力にレッドタイガーの能力が上乗せされて加速装置の性能が向上しているのだろう、今まで以上に世界がゆっくりに見えている。
それらの軌道を寸分なく予測すれば、空中を走っていくことは可能だろう。唯一の難点は、武装はナイフくらいしかなく、戦艦どころか戦闘機を落とすのすら難しそうな点だが、速度で当たっていけば何とかなるだろう。
『……アランさん? アナタの考えていることは私には分かりますが、それは無茶です。私は無敵艦隊の編成や武装のデータを熟知しています。ですから、ノーチラスと連携を取って……』
『いくぜ!』
ノーチラスの屋根を走り抜け、その先端で一気に跳躍する。まず目指す先は、二隻残っているうち、小さい方の艦も――重巡洋艦というらしい――狙いを定める。その道筋は、動き回っている相手の戦闘機やミサイルだ。
こちらの速度と戦闘機の速度が噛み合うタイミングを見計らい、接触するのに合わせてそれを蹴って月の足場へと向かって行く――互いに超音速以上の速度でぶつかり合っているのだから、その衝撃は本来なら互いにバラバラになってもおかしくはないだけの威力になっている。
だが、今の自分ならその衝撃にも耐えられる。むしろ、衝撃が大きいほど次への推進力になるくらいだ。グロリア曰くの馬鹿みたいな速度で最初の戦闘機にぶつかり、そのまま踏み台にして次の戦闘機を目指す。
そのまま追いかけてくるミサイルを速度でぶっちぎり、大口径の機銃の弾丸をカランビットナイフで切り落としながら飛び続け、光線を身を翻しながら躱し、勢いで戦闘機を乗り継ぎながら重巡洋艦を目指していく。
三機目を踏み台にして跳び、相手の攻撃が一瞬緩んだ隙を使ってADAMsを解除すると、自分の体が空気を裂く音がけたたましく鳴り響くのが聞こえ始めた。それと時を同じくして、キーツのいる戦艦の方に膨大なエネルギーが集まっているのを感じる。成程、戦艦の主砲で巻き込んでこちらを落とすつもりか。更に二の矢として、自分を敢えて上へと誘導し、足場を奪う作戦だろう。
『そっちがその気なら……!』
四機目を蹴って水平に跳び、主砲に巻き込まれない座標まで移動する。直後、自分に蹴られて空中で爆発を起こしている戦闘機が光の粒子の中に呑み込まれ、自分の真横を極大のレーザーが過ぎ去っていく。
安易に上へと跳んでしまえば相手の思うつぼだっただろうが、この位置ならまだまだ足場はある――五機目を蹴り飛ばしたタイミングで、頭にレムの声が聞こえ始める。




