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13-50:虎と技術者の因縁 下

「ダンさんの無敵艦隊は、先ほどは一時的に私たちを援護してくれてたんだ。でも、今は私たちに向けて攻撃を仕掛けて来てて、それで……」

「……いいや、船に向けて攻撃を仕掛けてきてるんじゃない。アイツは俺に向かって攻撃を仕掛けてきているんだ」


 そう、アイツは自分を狙ってきている。こちらとしては、キーツに対して特段恨みがある訳でもない。むしろ恨みを持っているとなれば向こうだろう――自分は彼の旧友を何人も葬ってきたのだから。


 しかし、彼方から叩きつけられてくる殺気は、決して恨みつらみの類のものでない。ただ彼は、一万年前につけられなかった決着を、今こそここでつけようと思っている。それだけなのだろう。


「……ソフィア、グロリア。君たちは先に海と月の塔に向かってくれ。俺はオッサンの相手をしてやらなけりゃな」

「え? でも……」

「大丈夫だ、足場ならたくさんある」


 そう言いながら自分は空を指すが、ソフィアもグロリアも納得いかなかったようで首を傾げた。


「アナタが何を言いたいのか全然分からないけれど……それだけじゃないわ。さっきのアナタの速度、大気圏内でも馬鹿みたいな速度が出ていたけれど……それでも、その身一つで敵艦のバリアを超えることは不可能よ」

「大丈夫だ、その辺はなるようになるさ」


 自分はいつだって出たとこ勝負をしてきたが、いつも大体なんとかなってきた。それは勿論、ソフィアたちやべスターたちのサポートがあってこそかもしれないが――今回の戦いは、できれば自分一人で決着をつけたい。


 こちらの意見に納得はいかないのだろう、ソフィアはいかにも「納得してないよ」という目で自分の方を見上げてきている。それがなんだか懐かしくておかしくて、つい小さく笑ってしまうのだが、それが余計に癪に障ったのか、少女の頬がぷくっと膨れ上がった。それにも増して、今はグロリアもソフィアに加担しているから、この手ごわさは二倍にも二乗にもなっている。


 ともかく、今はキーツの相手だ。ノーチラスが敵の戦闘機の攻撃を防いでくれているが、相手も出し惜しみなしで一機に放出してきており、徐々に攻撃も激しくなってきているのだから。


「まぁその、いつも無茶ばっかして説得力もないかもしれないが……どの道、海と月の塔に誰かがすぐに援軍に行かなきゃマズい状況なんだ。だから、ここは俺に任せてくれないか?

 それに、俺なら大丈夫……絶対に勝って、君たちに合流してみせる。約束だ」

「……アランさんはズルいよ。そこまで言われたら、私は何にも言えなくなっちゃうんだから」

「そうね……ここでわがまま言ったら、アランのことを信じてないみたくなってしまうものね」


 二人の少女が代わる代わる話して後、ソフィアの背中から美しい翼が出現し――少女は杖を強く握って遠方に浮かぶ天を衝く塔を見つめた。


「私たちは、誰よりもアナタの強さを知っているから……必ず無事に合流してね、アランさん!」


 少女の身体が飛翔し、音速の壁を超えて一機に飛び立っていく。予想した通り、フレデリック・キーツの艦隊は一機たりとも少女を迎撃することは無く、ただひたすらにこちらに向けて戦力を集めてきている。出し惜しみなしで一気に戦力も放出しているのだろう、先ほどは十数機だったはずの戦闘機は、その数を百に膨らませている。同一の空域でそれほど出したら危なそうの一言だが、それを一挙に制御できるだけの自信があるのだろう――そして実際、あの男ならそれをやり遂げるはずだ。


「オッサンが年甲斐もなくはしゃいでやがるな……それが、アンタの奥の手だっていうんだろ? いいぜ……アンタの望む通り、全力で相手をしてやる……この力を使ってな」


 そう言いながら腰のベルトを叩いて見せる。もしかすると、男はこんな日が来るのを予想して、自分にこの力を授けたのかもしれない。互いの因縁に決着をつける相応しい舞台、そして相応しい力でぶつかり合うことを望み、そして――。


『乗りかかった船なんだ……仮に船頭が間違えているとしても……それを見過ごしてきたオレは、誰かに裁かれるその日まで……最後まで戦い続ける義務がある』


 遥か昔ににそう言った男の顔を思い出す。疑問を抱きながらも、どうしてこの男がDAPAに加担し続けたのか、その理由までは分からないが――彼は実直に戦い続け、誰かに裁かれる日を待っていたのだ。


 それならば、誰かがこの男を終わらせてやらなければならない。進んで誰かの命を奪う気はないが、それでも、この不器用な男を終わらせるのに、この男が用意した舞台で散らせてやるのが、自分にできるせめてもの手向けだ。


 何より、アイツもDAPA要人を暗殺して周った虎との、全力での決着を望んでいる。無敵艦隊と五分に戦えることを想定して、この男はレッドタイガーを自分に授けたのだろう。そうなれば、全力で相手をするだけ――そう覚悟を決めて、遠くに浮かんでいる旗艦を指さす。


「覚悟しろよ、死にたがりのオッサン……ターゲット、フレデリック・キーツ!」


 こちらの声が聞こえていたのだろうか、彼方からまた猛烈な闘気を感じ――男の感情に呼応するように、周囲を飛び交う艦隊の動きが更に切れ味を増したのだった。

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