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13-43:アラン・スミスの帰還 中


 ◆


 T3に連れ出された塔の外で飛行型のアンドロイドと応戦していると、不思議な感覚が銀髪の少女の身を貫いた。その感覚の発信源の方を見ると、彼方の海から――金色の海の水底から、何か強烈な意志が発せられていることに気付く。


 それは、彼女にとっては懐かしいものだった。きっと遥かな昔、いつかどこかの場所、どこかの世界で感じた強い意志――それはオリジナルからクローンの少女へと継承される、魂に刻まれた記憶。


 少女がその懐かしさに幾許か放心していると、遠くの海から一層強い強烈な光が海の底から巻き上がった。そして少女は叫んだ。「あの人が戻ってくる!」と。


 塔の地上部分ではチェン・ジュンダーらとハインライン、オールディス両名との戦闘が続けられていた。そんな中、ふとT3と交戦を繰り広げていたハインラインが手を止める。T3も彼女の視線の先に異様な気配を感じ、思わず振り向いてその気配を手繰った。


 気配の先にはセブンスが見たのと同じ、いつの間にかホールで戦っていた者たちは一様に渦を巻いて立ち昇る光の柱を見ていた。


「……来たわね!」


 そう声をあげたのは、リーゼロッテ・ハインラインだった。彼女の顔は狂喜に満ち、渦を見つめる瞳の動向は開ききっている――本来の肉体の主であるエルも同様に、その光の先から感じる気配に胸を高鳴らせていた。


(あぁ、あの人が戻ってくる……)


 自らがしたことが消えるわけではないけれど、それでもあの人が戻ってくるのなら――自分だっていつまでも沈んでいるわけにもいかない。そう気持ちを強く持ち直す。


 ノーチラス号のブリッジからも、海底から立ち昇る光は確認できた。シモンは席から身を乗り出し、その光の柱を指さして見せる。


「あの光が立ち昇っている所まで行くんだ!」

「しかし、敵の動きが……」


 ジブリールがシモンの言葉を否定しようとした瞬間、レーダーを見ているイスラーフィールが「いいえ」と言葉を遮った。


「敵が動きを止めている……正確にはキーツ配下の無敵艦隊が攻撃を止めています。飛行型第五世代型はまだこちらに攻撃を仕掛けてきてますが、これだけなら自前のバリアで何とかいけるでしょう。

 それであそこまで行ったらどうするんですか、艦長?」

「決まってる! あの人が戻ってこれるように、アンカーを射出するんだ! アンカーが海底につき次第、全力で巻き上げてくれ!」


 シモンは高らかに声を上げ、イスラーフィールがアンカーの長さが規定の深度まで届くか試算している傍らで、ジブリールはドワーフの青年をどこか呆れた目で見つめていた。


「艦長って呼ばれて調子に乗っちゃって」

「良いんですよ。肩書一つでやる気が増すのなら安いものです」

「はぁ……アナタ、なんだか人の扱い方が上手くなってきたわね」


 そうぼやきながらも、ジブリールは未だ艦に攻撃を仕掛けてくる飛行型の第五世代を艦に搭載されている武器で的確に落とし続けている。対するイスラーフィールは盛り上がっている艦長の指示通り、安全な航路を計算しながら目的地へと舵を切った。


 塔へと向かっていたソフィアとグロリアは、往く手をアルジャーノンによって阻まれていた。外へと出た魔術神はその勢いを増しており、嵐を呼び、津波を起こし、稲妻を走らせ――その強大な力の渦に鳥は翻弄されるが、ただ一点、速度においては優位性があった。嵐の中に飛び込んでは不利になるため、小夜啼鳥は魔術神から距離を離しながら好機が来るのを待っていた。


 本来なら相手に背を向ければ不利になるのだが、ソフィア・オーウェルには頼れる目がある――グロリアが後方を確認しながら相手の攻撃を避けられる軌道を計算してくれるので、ソフィアは沖の方を見ながら、魔術によって水柱の金色の海の上を超音速で飛び交っていた。


 そんな折、立ち昇る光の渦が少女の視界にも入ってきたのだった。


『あの光は……!』


 あの場所は、女神レムが海底のモノリスが沈んでいると語った場所に一致する。そしてこのタイミングでそこから光が立ち昇るとなれば、恐らく塔へと向かったメンバーが作戦行動を成功させてくれたに違いない――何より、あの光にはあの人の強さが感じられる気がする、そんな確信にソフィアは、そして魂の同居人たるグロリアも心を躍らせた。


「成程、アレが海中に眠っていた不確定因子か!」


 二人が立ち昇る光に意識を奪われていたせいで、声の聞こえる地点まで魔術神の接近を許してしまっていた。振り返ると、ダニエル・ゴードンは少女に目もくれないで、渦の巻きあがるその水底を凝視していた。


「大方、アレが君たちの狙いだったんだろうが、僕が外に出ていたのが運のツキさ! 君達の希望とやらを、この場所から君ごと狙い撃ってくれる……ムスケェンタス!」


 男がレバーを引いた直後、七色の魔法陣がその身の周りを飛び交いだす。アレはピークォド号を落とした魔術であり、その威力は遥か海の底まで到達するだろう。いくらあの人が超音速で走ることができるといっても、海底ではその能力は扱うことができないはずだ。


『私たちが盾になってでも、あの魔術を防がないと……!』

『勝負に出る前から弱気になるんじゃないの! アナタもあの人も、私が護って見せるんだから!』


 ソフィアにとってあの人のために自分の身を差し出すことに何の抵抗が無いのに対して、グロリア・アシモフには守るべき人が二人いる。初恋の人も多感な妹分も、どちらもとても大切な存在になっている――そうなれば、自分が二人を護らなければならない、グロリアはそう考えた。


 体のコントロールをソフィアから借り、グロリアは左手を正面へと突き出す。同時に、魔術神が魔法陣を杖の先端で叩き――そこから撃ちだされたのは圧縮された六属性の複合レーザーだった。


 特殊な波長で撃ちだされたその光線は、海中でも威力を減衰させず、確実に海底にまで届く――端的に言えばセレスティアルバスターと並ぶほどの威力の光線。以前にそれを防いだ時には、チェンとアシモフ、アガタの結界を合わせてギリギリ防げたというものであり、グロリア一人の結界では捌ききれる威力ではない。その証拠に、すぐさま七枚の内五枚は打ち破られ、残りの二枚も悲鳴をあげており、すぐにでも撃ち割られてしまいそうという所まで追い詰められてしまっている。


『……グロリア!』


 同居人の名を呼び、ソフィア・オーウェルが右手のコントロールを取り戻すと、少女はチェンから渡されていた最後の結界札を突き出した。グロリアが張っていた結界が割られてしまう直前に、七星結界がもう一度展開され――最後の一枚が割られる直前ギリギリで、ようやっと撃ちだされた魔術は中空に霧散した。


 突き出した両の掌は焼き爛れ、札も塵となって落下していく――しかし少女が視線をあげたその先で、魔術神はもう一度杖のレバーを引きながら口元を吊り上げていた。

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