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13-40:最下層への強襲 中

「しかし……雑魚は多いですが、今の所は厄介な相手は居ませんわね。ナナコさんたちが星右京らを上手く引き止めてくれているおかげでしょうか」

「それどころか、もう倒しちゃってるかもしれませんよ……所で、アガタさんは塔の最下層まで行ったことってあるんですか?」


 作戦会議の折に海と月の塔の地下構造に関しては共有を受けたが、七年ほど過ごしたこの塔の地下に関しては自分は立ち入ったことは無かった。まず、信徒は基本的には地上階で過ごすことになるし、地下は主に海の女神たるレムの空間として信じられてきていた――そうなると、旧ルーナ派の自分にはこの地下は縁もゆかりもない場所である。


 幾分か知っている情報としては、レム派の上層部は地下でミサや会議を行っているということ。それでも地下の中でも比較的浅い層で行われていたはず。地下五十階にまで渡るその最下層には、レム派の権威でも立ち入れないと以前にアガタ自身が言っていた記憶もある――そしてその言葉に偽りは無かったようであり、先導するアガタは走り続けながらも首を横に振った。そしてアガタの顔の横にレムが並び、浮遊をしながら口を開く。


「それどころか、七柱の創造神や私の守護天使だったミカエルを除いて、三千年の間で塔の最下層へと立ち入った第六世代は存在しません」

「えぇっと、それじゃあ……どうやって行くんです?」

「秘密のエレベーターが一つあります。今目指しているのはそこですね」

「でも、それは既に右京が対策をしているのでは?」

「えぇ。ですが、エレベーターをわざわざ動かす必要はありません。直通している穴があるという事実さえあればいいのですから」

「えぇっと、それってつまり……」

「恐らく貴女の想像している通りですよ、クラウディア」


 なるほど、それなら確かにどうにかなりそうか――そう考えた瞬間、近くの扉の奥から何者かの気配を察知した。意志は平坦でありながら、どこか複雑な様子で在り、その思考の持ち主が通常の第五世代でないことは一瞬で読み取ることができた。


「エレベーターの昇降カゴの床に穴を開け、後はそのまま最下層に落下するつもりですか。しかしそれは私が……」


 新手の敵が言い切る前に結界を踏んで一気に跳躍し、扉が開いたその隙間に向けて全力の掌底を突き出す。八枚の結界を乗せたそれは、拳周りという局所的ではあるものの強大な力を有しており、仮に相手が熾天使であっても装甲を討ち貫くだけの威力はある――相手も流石の反応速度で防御態勢を取ったようだが、完全な威力の減衰は叶わず、こちらの攻撃にそのまま身体ごと背後へと吹き飛ばされて壁に激突した。


 そしてそのまま足元の結界を踏んで跳躍し、男性型アンドロイドの胸部へと追撃の拳を突き入れる。吹っ飛ぶ先が無くなったその身体に膨大なエネルギーが駆け巡ったことにより、機械の体は吹き飛び――そのまま頭部が吹き飛んだ後に音を立てて落下し、しかしルシフェルは涼しい顔をして笑っていた。


「いやぁ、滅茶苦茶に乱暴ですね、貴女は……まさか喋るいとますらくれないとは」

「アナタの相手をしている暇はありませんからね! さぁ、アガタさん……」

「一つ忠告しますが、私の話は聞いておいた方が良いと思いますよ? もっとも、少し命が伸びる程度だとは思いますがね」


 その勝ち誇った表情に確かな悪寒を感じ、慌てて自分の身体と駆け寄ってきたアガタが収まるように結界を展開する。直後、天井や壁の通風孔から何かが噴き出してきた。その気体は無色透明でこそあるものの、状況から察するに――。


「……毒ガスですって!?」


 結界内に残る僅かな清浄な空気を消費するわけにはいかない自分たちの代わりに、レムがそう声をあげてくれた。自分はと言えば、アガタを護っている物とは別にもう一枚結界を張り直し、背後から迫ってきている気配の迎撃に備える。


「この密閉空間で肉の器にあるのは、アナタたち二人を除いていないのです。それならば、毒ガスというのは非情に効果的な手段と言える。それに……!」

「私も一体だけではありませ……」


 もう一体現れたルシフェルが全てを言い切らなかったのは、相手が通路の曲がり角から出てくるタイミングに合わせて、自分が出現地点へ跳んで攻撃を仕掛けていたからだ。とはいえ、先ほどの扉を利用した奇襲と違い、ルシフェルは――学習をしたのかもしれないが――こちらの拳を紙一重で躱してきた。


 超音速戦闘が可能な熾天使級ともなれば、奇襲に失敗すれば相手のターンになってしまう。こちらも相手の攻撃の軌道を先読みしつつ第八階層級の補助魔法を利用すれば、相手の速度に対応すること自体は不可能ではない。しかし自分はあくまでも人の身であり、ADAMsによる神経の加速や高速演算を可能とする第五世代と違って思考速度はあくまでも並だ。そうなれば、もはや持ち前の勘だけでは相手の攻撃をいなすことしかできない。


 しかもなお悪いことに、こちらは毒ガスの影響により呼吸ができない。錬気をするにしても戦い続けるにしても、呼吸を置けないのはかなり厳しい。一応、毒ガスについての対応策はないことも無いのだが、自分の方はルシフェルの対応で手一杯だ。


 なんとかアガタの方がその対応をしてくれればいいのだが――刹那の間をついて彼女の方を覗き見ると、自分の期待通りに彼女は動いてくれている様であり、彼女を中心に淡い緑色の光が立ち昇っている。そしてそれが一機に膨れ上がるのに合わせ、一陣の清浄な風が通路を吹き抜けていった。


 その風に合わせ、自分は一気に呼吸をして気を練り上げて、こちらへ相手が安易に仕掛けてきた蹴りに対して掌底を返す。先ほどまでより威力の上がった攻撃に相手の装甲は耐えられず、そのままルシフェルの足は砕け散り――相手がバランスを崩した所に回し蹴りを入れると、相手の体は粉々に粉砕された。

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