13-39:最下層への強襲 上
地下への扉を通り抜け、しばらく階段を駆け下り続けると、次第に下から第五世代型達がこちらを迎撃するために駆けあがってきた。敵の編成はステルス機能をオミットした強化型がメインであり――時おり不可視の敵がいるのもイヤらしい配置だが、自分ならば見切ることは可能だ――アガタも見える相手ならば引けを取らず、勇猛果敢に戦ってくれている。
彼女が長年相棒としてきた鉄の棒は先日ルーナに砕かれてしまったため、今彼女が振るっているのは新しい相棒だ。以前使っていた棒と同じ規格でほとんど同じ重さであるが、手元のトリガーを引くことでジェットが噴出し、更なる加速でもって超巨大質量が振り抜かれるという使用のものだ。元々の物で十分に第五世代型をかっ飛ばすことができていたので過剰な火力と言えばそれまでだが、自分としてはなかなか浪漫がある仕様で良いなと思っている次第である。
とはいえ、あまりに大勢の第五世代型を相手にするのは自分たちの戦い方的には相性もよろしくはない。階段という足場の悪さも勿論のこと、攻撃魔術や光学兵器を持たない自分たちは、基本的には物理攻撃で相手と戦う必要がある。結界を使えば敵の飛び道具を防ぐことだってできるが、それはそれで消耗戦を強いられる。何より無限とも思えるほど湧き出でてくる第五世代型を逐一相手にしている時間は自分たちには無い。
そんな訳で、今は大行列を作っている階段から離れて地下通路に移動している。こちらは敵の数もまばらであり、少しは息がつける――また、地下の構造に最も詳しいのはレムであり、最下層に辿り着くための策があるとのことで、今は彼女を頼りに道を進んでいるところだった。
「そう言えば、今更何ですけど……レムはアラン君の妹さんなんですよね?」
「えぇ、そうなりますね。正確には、私の人格の元となっている伊藤晴子が、ですが」
「本当に今更ですわね。どうしたんですか、急に?」
質問にレムが答えた後、先を走るアガタが訝しむような声をあげた。
「いえ、そうなると女神レムが、まさかの私の義理の妹になるという可能性もあるのかなと思いまして」
「何下らないことを言ってるんです……まさか貴女、無茶してますわね?」
彼女の言葉にぎくりとし――アガタは振り返り、こちらの疲労を確信したのだろう、足を止めてこちらへと歩いてきた。
「いえいえ! そんなことはありませんって!」
「嘘おっしゃい。貴女はよく下らないことを言いますが、なかなかこんな時までふざけたりはしませんもの。大方、疲れを誤魔化すためにいい加減に振舞ったのでしょうが、私の目は欺けませんよ」
「でも、一刻も早く最下部にたどり着かなくては……」
「えぇ、ですからこれを」
塔にたどり着くまでの間に第八階層級の結界や補助魔法を使ってきたので、さすがに疲労があるのは隠せなかったか。そう思っていると、彼女は懐から一つの小瓶を取り出してこちらへと差し出してきた。その形状には見覚えがある――二年前に魔王城へ突貫した時にも、このように彼女が自分に差し出してくれたものだ。
「エルフの秘薬……実体としては、第六世代の脳内にある生体チップのナノマシンに栄養を送り、脳を活性化する薬です。既に七柱の呪縛から逃れた貴女にとっては、ちょうど脳の疲れを取る良い感じの薬として飲めると思いますよ」
レムの補足を受けながら、それならばと瓶を受け取って、中身を一気に飲み干す。確かに以前と同じように、頭がすっきりとしてきた。
「ふぅ……お気遣いありがとうございます。もう大丈夫です!」
「えぇ、先を急ぎましょう……ですが、貴女は力を温存しておいてください、クラウディア。並の第五世代型なら私でも十分対処できますし、もし強敵が出てきた場合には……どうしても貴女頼りになりますから」
そう言うアガタの調子は毅然としたものだった。いや、毅然としていること自体に何の問題もないのだが、普通なら誰かを頼るしかないという状況は、なかなか受け入れがたいものだとも思う――自分など魂が一つになるまではとくにそうだった。
対してアガタが毅然としていられるのは、自分の役目というものを過剰に評価していないからだろう。すべきことに専念し、できないことは素直に他人に任せることができる――同時に、何が出てきてもこちらがどうにかしてくれると信頼してくれているのだ。
ともかく、自分も精神力を取り戻し、再び複雑な地下通路をひたすら突き進んでいく。方向音痴こそ克服したが、自分は地下部分の構造には詳しくないし、迷路のような構造なので自分としてはアガタの行く方向についていくしかない。しかも相手はこちらの居場所を監視カメラで把握しているので、第五世代型達も大行列を作りながら自分たちの方へと押し寄せてくる中での移動になる。




