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13-37:セブンスの焦り 中

「T3さん、ごめんな……うぅ……!」


 自分の失態を謝ろうと声をあげるが、身体が痛んで思わずうめき声をあげてしまった。直撃こそ免れたものの、T3の救援があと少し遅かったら自分の体は胴から真っ二つにされていただろう。


「喋るな……内臓をやられていて、傷は浅くはない。だが、そこまで出血しないうちに傷を塞ぐことはできた。命に別状はないはずだ」

「あ、あはは……私、この塔とは相性が良くないのかもしれないですね」


 夢野七瀬は海と月の塔で散り、自分もあわやという所まで追い詰められてしまった。とくに、今は重大な時なのに――実際、借り物の力で戦っている星右京に対する驕りがあり、それ故に勝負を焦ってしまったというのは否定できない。


 もっと正確に言えば、自分は星右京やダニエル・ゴードンという人達の執念を甘く見ていたのだろう。焦りと油断が軽薄な行動を後押しして、このように皆に迷惑をかけてしまった。自分の不甲斐なさに、思わず視線が金色の海へと落ちてしまう。


「そうだな……だが、今回は間に合ってよかった」


 今まで聞いたことないほどの柔らかい声に顔をあげると、T3は優し気に目を細めて自分の方を見つめていた。しかしその優しい微笑みは、すぐに自虐的な笑みへと変わり、T3は髪を揺らしながら首を横に振った。


「とはいえ、完全に守れたわけではないからな。私の方こそすまなかった」

「いいえ、元はと言えば私がへまをしたのが悪いんです……ともかく、早く戻りましょう。チェンさんたちが……ピンチなはずですから……」

「今のお前では戦力にならん。少なくとも、七柱を相手にするにはな」

「でも……」

「お前の代わりに私とナイチンゲイルが合流する」


 そう言いながらT3が見つめる先には、赤く流れる流線が空を走っているのが見えた。どうやらソフィアの方も外での戦闘に一段落をつけて、こちらの方へと向かってきているようだった。


「お前はこの場で自分の身を護ることに専念するんだ。いけるか?」

「はい……第五世代型相手をするくらいなら、何とかいけそうです。それで、せめて……これを持っていってください」


 剣の溝に嵌めていた調停者の宝珠を取り出し、T3の方へと差し出す。七柱の創造神たちに対抗するには、この力が必要なはずだ――トリニティ・バーストの強力さは勿論だが、一つの目的に向かって心を束ねることが必要になると思う。ソフィアが合流してくれるのなら、ちょうど四人担って扱えるはずだ。


 今回の戦いにおいて、仲間たちに厳しい局面を預けるのは心苦しいが――T3の方も驚いたように目を見開き、しかしすぐにこちらの手から宝珠を受け取って、強く頷き返してくれた。


「今回だけだ……私はお前以外に背中を預けるつもりはないのだからな」

「それって、どういう……?」


 こちらの質問を最後まで聞くことなく、T3は文字通り風のように去っていってしまった。


 ◆


「……すれすれのところで逃げられた、か」


 刃で宙を切った後、星右京はクラウディア・アリギエーリが開け放った大穴を見つめながらそう呟いた。


 状況から察するにT3がADAMsでセブンスを救い出し、一時的に離脱したということなのだろう。しかし、状況としてはかなりマズい。四人で戦って押されていたところに、二人が離脱してしまったのだから。もちろん、いたずらに戦死者を出さなかったのは幸いと言えるが、自分とブラッドベリの二人で四柱の相手をしなければならないというのは、あまり現実的な状況とは言い難い。


 今は四柱はそれぞれ手を止めており――いつでもこちらを御せると思っているのか――右京は階下にいるリーゼロッテ・ハインラインの方を黙って見下ろしている。対するハインラインは肩をすくめて微笑みを浮かべていた。


「私はあの男が離脱できないよう、重力波を設置していたわ。単純にT3がその執念で、楔を振りほどいたというだけよ。そういう意味じゃ、彼の決意と行動力を褒めるべきところだと思うけれど?」


 女の返答に対して右京は小さくため息を吐きながら首を横に振り、今度は虚空を見つめながら――恐らくこちらに視認できない映像で他の場所の状況を確認しているのだろう――話を続ける。


「一気に畳みかけたいところだけれど……どうやら最下層まで侵入されてしまったみたいだ。僕は晴子を止めなきゃならない。残りは皆に任せるよ」


 そう言いながら、星右京は忽然と姿を消してしまった。彼の言い分が確かなら、ひとまずレム達が最下層に着くまでの時間稼ぎは成功したということになる。


 もちろん、稀代のハッカーである右京とデータにしか過ぎないレムとでは、その相性は最悪と言っても良い。JaUNTはクラウディアが対処をしてくれるだろうが、あとはレムさえ間に合ってくれれば――。


 それに、人の心配などしている暇はない。敵側もトリニティ・バーストが切れたといえども、依然として数の違いは覆せていないのだから。ブラッドベリは持ち前の再生能力を宝珠の加護で加速させて、なんとか魔術神の猛攻に耐えていたのだから――実際、今は傷の治りも遅くなっている。彼の不死性を考えれば絶命はしないかもしれないが、これ以上のダメージを負えば戦闘不能になってしまう恐れもある。


 しかし、最も警戒すべき相手である魔術神アルジャーノンは大穴へと飛翔をしていき、外へと飛び立つ前にローザとリーゼロッテの方へと一度振り向いた。

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