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13-36:セブンスの焦り 上

「さて、続きをしようかセブンス。僕のこの力は全て借り物……ローザと同じように、戦闘力の高い素体に様々なプログラムを組んでいるだけで、君のように自らの研鑽で培った力じゃない。でもね……!」


 そこで言葉を切って少年の姿が消え、再び瞬間移動からの猛烈な攻撃が始まる。


「JaUNTを扱う精神力は……」

「ストレイライトを創り出す技術力は……」

「僕自身のものだ!」


 右京の声は前後左右上下様々な方向、しかも様々な距離から聞こえてくる。ひとつひとつは反応できないほどの速度ではないものの、それでもその変則的な攻撃には対応するのが難しく、また防戦一方になってしまう。


 しかし、なんとなくだが星右京の感情の正体が見えたかもしれない。端的に言えば劣等感だろうか。彼がこちらに対して抑止力と言ってきたのはクラークと自身を比較した結果なのだろうし、自分を目の敵にしてくるのは同じ聖剣の勇者としての経歴を持つ者として――修行して技を会得したこちらに対し、借り物の力で戦っている自身の不甲斐なさからくる劣等感に苛まれている、と言ったところだろうか。


 そしてその劣等感から来る怒りは、何故か他者に対してでなく、彼自身に対して向かっているようにも見える。クラークに適わない自分、借り物の力で戦っている自分――それが不甲斐なくて情けなくて、それが自身に対する怒りになっているような印象を受ける。


 成程、自分がやりにくいと思っていた正体はこれだったのだろう。彼は確かに怒りを力にしているが、それはこちらに対するものではなかったのだ。こちらに対しての感情より、彼自身に対しての感情が強い――だからいまいち殺気を読みにくい。それが不思議な威圧感の正体だ。


 しかし、相手の理解が深まったところで何ができるわけでもない。星右京は確かに怒りを抱えているものの、だからと言って精神的な動揺をきたすタイプでもない。恐らく彼自身は常態化した自己嫌悪に陥っており、ある意味ではこの状態こそが彼にとっての当り前なのだろうから。


 ともかく、今は下手に反論をするよりも、現状の打破を試みるべきだ。何度かラグナロクのエネルギーは右京に向けて放っているが、それはいとも簡単に瞬間移動で躱されてしまっている。恐らく、ルーナが使っているのと同様の防御プログラムが発動しており、自分が相手の気配を察知するのと同じように、向こうもこちらの攻撃の気配を察知し、瞬間移動をできる様にしているのだろう。


 そうなれば、狙うべきは星右京ではなく、他の誰か――防御プログラムを搭載していないのは恐らくリーゼロッテ・ハインラインのみ。ただ、彼女は自前の戦闘センスがあるし、何よりあの身体はエルのものだ。そうなれば、狙うべきは――。


(……一か八か!)


 剣を強く握って刃に想いを込め――右京の出現地点を予測して移動し、ある地点で剣を思いっきり振り上げる。そこは右京が発射してきたブラスターの射線とアルジャーノンとが重なる地点――相手の攻撃を斬撃によるエネルギーで巻き込み、そのまま魔術神を巻き込むのが狙いだ。


 もちろん、アルジャーノンが宿っている身体もソフィアの師匠のものというのは分かっているが、既に人格も消去されており、残っているのは肉の器だけ。アルジャーノンを倒すことが出来れば、かなり事態は改善する、そう思っての攻撃だったのだが――。


「ちょいさぁ! 危ない危ない……でも、その動きはこっちも読んでたんだよねぇ」


 轟音が響いた直後、その人を小ばかにしたような声が自分の横から聞こえてきた。黄金色の剣閃は何者をも巻き込むことなく、空振りに終わってしまった。


 右京がアルジャーノンを転送させたという訳ではなく、彼自身が言っていたようにこちらの動きを読んでおり、物理的に躱した。あの轟音は、ADAMsが起動する時と同じもの――アルジャーノンは加速装置を搭載しているのではなく、飛行の魔術で無理やり音速を超えて移動をしたということなのだろう。


 背後から気配を感じる――剣を振り上げてしまったせいで、相手の動きに対して対応することができない。せめてダメージを抑えようと身を翻し、何とか急所への一撃は避けられたが――背面から突き出されたブレードが脇腹を抉る。


「勝負を焦ったね、セブンス。君は均衡を破るべきではなかっ……」


 背後からの声が途中で途切れたかと思うと、自分の体が何者かに抱きかかえられて凄まじい速度で移動をした。気が付けば塔の外へと出ており――どうやらT3に窮地を救ってもらったようだった。淡い光を放つ男の義手がこちらの脇腹に添えられており、傷も徐々に塞がってきているようだった。

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