13-33:第八代と第九代の勇者の戦い 上
塔のホールに黄金の光が瞬いた直後、奥歯を噛んで音の消えた世界で自分が対峙するべき相手を目指す。向こうもこちらに標的を定めていたようであり、彼女が展開している重力波に抗いながら一気に近づいていく。
敵側もトリニティ・バーストを使うとは予想外ではあったが、概ね戦況は想定の範囲内に収まっているといっていいだろう。元々、自分たちはこの場でアルジャーノンとハインラインを釘付けにする役割があったのであり、ひとまずそれは達されたと言えるからだ。
確かに、敵の数が増えたこと自体は厄介ではあるが――いくらトリニティ・バーストを使用して潜在能力が引き出されるといっても、ここでは互いに二重の意味で制約が科されることになる。
一つは単純に火力の問題。海と月の塔の内部は外部と同様に魔術に対する防御壁と結界が張り巡らされているため頑丈だが、それでもアルジャーノンの第七階層やハインラインの二対の神剣を全力で使えることは抑えられる――これらを本気で使用した場合、塔そのものの崩落を招く恐れがあるからだ。
もちろん、戦闘能力のずば抜けた二柱は力のコントロールも上手いため、出力を抑えながらも効果的な攻撃を仕掛けてきている。自分が主に相手をしているハインラインは、こちらの弓の攻撃を圧縮した重力波で捻じ曲げ、ADAMsによる高速機動もその引力でこちらの動きを上手く制御してきている。アルジャーノンの方はと言えば、妨害魔法など搦手も多く使えるため、決して楽な戦いではないのだが――相手の超火力で一気に全滅とはならないのはこちらにとっては一つのメリットだろう。
もう一つの制約は――こちらも先ほどの火力の話に近いが――四対四で戦っているという性質上、乱雑な攻撃は味方への暴発を招く恐れがあるという点だ。とくに敵側は連携して戦ったことなど無いはずなので、その点においてはこちらに分があると言えるだろう。
もちろん、このような制約は自分たちにも丸々降りかかる。セブンスの剣撃は不思議な指向性を持つために超威力でありながら建物を無暗に破壊することは無いが、ブラッドベリはエネルギー衝撃波を制御して使わなければならないので窮屈そうにしている。
しかし、この状況はどちらかと言えば自分たちにとって有利なものだ。何故なら――。
「……ADAMsと魔術、ヒートホークによる近接攻撃と弓による遠距離攻撃。そのどれもが高水準でまとまっている……しかし、時間稼ぎのつもり? 私たちを討ち倒すんじゃなかったの?」
以前の自分なら仇敵に煽られて逆上していただろうが、今の自分はそこまで甘くはない。復讐の炎は依然として胸の奥にあるものの、自分一人が逆上して戦列が崩れてしまっては総崩れになる。相手を倒すには――正確に言えば、彼我の実力差を考えればというのもあるが――冷静に行動し、相手が崩れるチャンスを待つべきだ。
リーゼロッテの言う通り、こちらの目的は時間稼ぎであって敵の殲滅ではない。レムがモノリスのコントロールを取り戻し、奴らの目的を挫くことにある。この場で全員の首を跳ねてやりたいのはもちろんだが、戦力的には不利と言える状況であり、そう考えれば敵主力をこの場で抑えるという目的が果たせるだけでも僥倖と言えるだろう。
状況によって入れ替わり立ち替わりはあるものの、主な戦況は以下のようになっている――まず、ルーナとチェン、ここの戦況はほとんど五分だ。正確には、トリニティ・バーストと素体の力でローザの方がスペックは上なのだろうが、それをチェンが持ち前の身のこなしと機械布袋戯と連携したサイコキネシスでカバーしている。
次に、アルジャーノンと交戦しているのはブラッドベリであり、この局面はかなりの不利と言っていい。ありとあらゆる超能力を使える魔王と言えども、百万の魔術を扱う魔術の神を相手にしては防戦一方であり――その超能力で致命傷を避けながら、彼の持つ無限の再生能力のおかげで何とか持ちこたえてくれている、というのが現状だった。
本来ならアルジャーノンの相手は音速戦闘ができる自分が――外なら音速超えで飛行もできるようだが、室内空間ならばアルジャーノンも精々ホールの上を取っているくらいだ――するのが望ましいのだが、それを狼が許してくれない。
また、神出鬼没の星右京の相手を出来るのは意志の力を読み取れるセブンスしかいないため、消去法的にアルジャーノンの相手をブラッドベリがせざるを得ないというというのもある。魔術神が自由に動けてしまえば一挙に戦況が変わり、直ちにこちらの全滅を招く――そういう意味ではブラッドベリの耐えるという役目はかなり重要だ。




