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13-31:二つの宝珠 中

「……もう少しで上手くいきそうなんだ。このままいけば現状のストックだけでも、高次元存在を降ろせるかもしれない……それを邪魔させるわけにはいかないんだ」

「まさか、調整は進んでいたということですか?」

「もちろん、当初の予定通りに残ったレムリアの民たちを海に捕らえるのが早いとも思っていたけれど……色々な可能性は追究しておく必要はあるしね。実際、アシモフを中心とする先導者達のおかげで、残ったレムリアの民たちを絶望に落とすのは難しそうだ。研究しておいて良かったとも言えるだろう」


 そこで右京は無表情を一転させ、再び先ほどのシニカルな笑顔へと表情を戻した。


「とはいえ、この塔のコントロールを奪われることは望ましくないからさ……もちろんこうやって一同揃ったんだ、負ける気はない。けれど、荒事をしないにこしたことはないからね」

「頭脳派を気取っているアナタらしいですけれど……こちらとしてはここで引き下がって得がある訳でもありません」


 レムがそう断言するのに合わせて、事の成り行きを見守っていたチェン・ジュンダーが前へと進み、浮遊する女神の横に並んだ。


「何より、私の目的はアナタ達DAPA幹部を倒すことです。この場で全員の首を取れるというのなら、手間が減って幸いだ、くらいの話ですよ」

「ま、そうだよね……ただ、僕らも万全の準備はしてきたんだ」


 そう言いながら、右京は握っていた左拳を開いて見せ――その掌にある琥珀色の宝石が日の光を受けて輝いた。


「調停者の宝珠だと!?」

「でも、あの人たちに共通する意志を持つだなんてできるんですか!?」


 驚きの声をあげたのは、T3とナナコだった。確かに、一人でも強力な七柱の創造神たちがトリニティ・バーストを使うとなれば、その脅威度は計り知れない。だが同時にナナコの驚きも分かる。トリニティ・バーストを使うには術者を取り巻く三人が、心を一つに合わせなければならないのだ。


 この場で対峙している四柱は協力関係にあるとは言っても、共通の目的を持って行動している訳ではないはずだ。もっと言えば、互いに腹に一物を持っている様にすら見える。そうなれば、トリニティ・バーストを起動することはできないのではないか――起動されると厄介というこちらの事情は抜きにしても、そのイメージがわかないのも確かだ。


 とはいえ、実戦投入できないものをわざわざ見せびらかす必要はない。何かしらのブラフの可能性だってあるが、それにしたって起動できないのであればすぐに化けの皮は剥がれる。そうなれば、彼は何かしらの意志を紡ぎ束ねられるということなのだろう――そんな自分の予想を裏付けるように、星右京は声を上げた二人の方を見ながら口元を吊り上げた。


「確かに、僕らは目的も違うし、君たちと違って仲間意識も希薄だ……そういう意味じゃ、共通の目的のために心を合わせるというのに違和感があるのも無理はないね。

 しかし……目的は違っても、僕らには共通する手段がある。それも、一万年もの間、望み続けてきた目的を達するための手段がさ。その手段で意識を一つにすることで、精神感応デバイスを起動することは可能なのさ」


 その言葉は、どこか異様な説得力を持ってホールに響き渡った。確かに、高次元存在を降ろすという手段に関しては、彼らは一万年も共に願い続けて行動してきたわけだ。それを起点に心を束ねるというのは、確かに可能なのだろう。


 しかし、彼らがトリニティ・バーストを使うというのなら、自分がこの場を離れていいものか。手前味噌かもしれないが、ひとまずこの中で――敵も含めて――自分には最高の防御力と補助魔法、それに回復魔法とがある。激戦を想定すればこそ、それらはきっと役に立つはずなのだが――。


 そんな風に迷っていると、ナナコが一歩、二歩と前へ出てチェン・ジュンダーの横に並び、星右京が持っているものと同じ宝珠を掲げた。


「クラウさん、アガタさん。ここは私たちに任せて、お二人は塔の地下を目指してください」

「しかし、あの人たちもトリニティ・バーストを使うなら、戦力の分散は……」


 避けるべきでは、そう言い切る前にチェンが首だけ回してこちらを見てくる。


「いいえ、セブンスの言う通りです。彼らの勝利条件は塔の死守であり、同時に敗北条件は当のコントロールを奪い返すこと……それならば、相手の急所を攻めることこそ、起死回生の一手にもなりえます。それに……」


 さらにT3とブラッドベリとがナナコとチェンと並んだ。


「貴様に心配されるほど、私たちもやわではない」

「彼奴等がどんな技を使おうとも、我らは力にてその計略をねじ伏せ、長きにわたる因縁に決着をつけてくれるのみだ」


 立ち並んだ四人からは、迷いや怯えなどは一切感じられない。ただ自身を、仲間を信じ、目の前の強大な敵を討ち倒そうという気概に満ち溢れている。


 それならば、彼らを信じないのも失礼に当たるというものだ。元々、自分はレムとアガタを地下に連れていくためにここまで来たのだから、それを果たすだけだ。唯一の課題は地下への道を怖いお姉さんが護っていることだが、一瞬の隙を衝くくらいのことは不可能ではない。


 それに、何より――自分には人の意志を読む力がある。そしてこの場に、自分以外がその存在に気付いていない意志が一つある――それはあまりに小さい気配だけれど、確かに強い意志を持ってその時が来るのを待っている。彼女の意志を無為にしないためにも、自分たちは先に進むべきだ。

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