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13-30:二つの宝珠 上

「長い歴史の中で、この塔のバリアを破ったのは、夢野七瀬とアナタくらいのものですよ」


 最後に自分の横に降り立ったアガタの肩に座るレムがそう呟いた後、一同で辺りを見回した。ここは海と月の塔のホール部分であり、一階から三階まで吹き抜け部分にあたる。内部にも相当な防衛線が引かれていることが予想されていたが、内部はビックリするくらい静かだった。このホールには多くの信徒たちが集い、共に祈り、共に歌った想い出の場所でもあるのだが、今は人どころか敵の気配すらない。


 しかし、異端審問にかけられてここを追放されてもう四年ほど経つのか――再び中へ入る時の侵入方法としては少々乱暴だったことは否めないが、追放された憂き目をガラス一枚で晴らしたと思えばきっと安いものだろう。


「……どちゃくそに静かですわね」

「でも、先ほどの攻撃から察するに、ハインラインとアルジャーノンが塔に居るのは確実です。それこそ、今に……」


 噂をすれば何とやら、アガタに返事をしている間に三階の天上が崩落を始める。とはいえ、殺気はない――単純にダイナミック登場をしたかっただけなのだろう、穴の開いた天上からリーゼロッテ・ハインラインが舞い降りてきた。


「あのですね! ここは私が育った想い出の場所なんです! むやみやたらに壊さないでもらえますか!?」

「そういうアナタは、家に帰るのに毎度窓ガラスをぶち破るの?」


 確かにガラスを破ってのダイナミック帰宅もなかなかだが、床を破ってくるよりはマシなような気もする。いや、この塔の構造的には、もしかしたら外壁の方が床よりもお金は掛かっているかもしれない。


 ともかく、一階部分に降り立ったリーゼロッテ・ハインラインは、呆れるような目線をこちらに浴びせかけてくる。あの立ち位置は意外と厄介であり、地下へと続く階段への扉が近くにある――恐らくハインラインはそれを分かっていてあの位置に先んじて降り立ったのだろう。


 そんな風に考えている自分をよそに、T3が階下の武神に向けて光の矢を番えた。


「しかし、リーゼロッテ・ハインラインが一人の内なら、逆にチャンスと言えるかもしれん」

「生憎じゃが……」

「全員そろっているんだよね」


 その声がしたのは、三階部分のエレベーターの扉の奥からだった。視線を上げると、そこにはアレイスター・ディックと見知らぬ女性が――しなやかな筋肉の目立つ、エルよりも二回りほど巨大な体躯をしている――立っていた。後者の方は口ぶり的に――。


「ローザ・オールディスにダニエル・ゴードン……」


 自分が二人の名を上げると、魔術神は静かに首を横に振る。


「いいや、これで全員じゃないよ……今日はもう一人来ているんだ」


 そう言い終わるのに合わせて、何者かの気配が二階に突如として現れる。今度は視線を正面へとむけると、背に巨大な剣を携えている勇者シンイチに瓜二つの少年がいつの間にか姿を表していた。


「右京さん……」


 彼の名を呼んだのはレムだった。彼女はアガタの肩から離れて浮遊し、ちょうど自分たちの前、少年を真正面に見据える様な位置まで移動した。対する星右京はシニカルな笑みを浮かべながら妻の方を真っすぐに見据え返している。


「やぁ、晴子。元気そうで何よりだよ」

「えぇ、おかげさまで。誰かさんのおかげでおもーいシステムを切り離されて、人格部分だけ容量しかないので、実際に動作も軽いですよ」

「そうかい……それで、御足労いただいたところ悪いんだけれど、大人しく引き下がってくれないかな?」

「熱烈な歓迎を受けたのに、帰るだなんて恐縮ですわ。受けた分はきっちりと返さないと……まぁ、お返しするのは私ではないんですけど」

「はは、相変わらず面白いね、君は」


 腰に手を当てて挑発するレムに対し、右京はくつくつと笑い返して見せている。以前から彼は何を考えているか分からないという風にも思ったが、レムから彼のことは幾分か共有されているので、どちらかと言えばアレも本心を悟らせないようにするためのある種の演技なのだろうとは思う。


 それでもなお、まだどこか底知れないという風に思うのは、星右京という人物がそれだけ一筋縄で無いということの裏返しなのだろうし――実際万年掛けて熟成されたその人格を、自分程度が推し量ることも難しいということなのだろう。


 何より、基本的に前に出たがらない彼が――神話に語られるよう、彼はその姿をくらまし、何者か悟られないようにする――自分達の前に出てきたということは、それだけの準備をしてきており、勝ちを確信してきている時のように思う。はたまた、人前に出たがらない彼ですら出て来ざるを得なくなったほど、自分たちが七柱の創造神を追い詰めたととらえても良いのか――願わくばそうであってほしいと思う。


 ともかく、星右京は一度言葉を切り、今度は感情の読めない無表情を顔に浮かべ、またレムの方を注視する。その視線の在り方は、まるで他の者たちなど意に介していないかのようである。

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