13-26:キーツの抵抗 中
『グロリア!』
『不死鳥と恐れられた私の力、見せてやるわ!』
グロリアがそう叫ぶのに合わせ、自らを中心に巨大な火柱が立ち上る。そして炎がこの身を中心に収縮されると、集められたエネルギーが一気に爆散を起こす。それは我が師、アレイスター・ディックのディヴァイン・サンライトノヴァと同等の攻撃力を誇る一撃であり、相違点としては着弾点を指定するか、自分を中心にエネルギーを放出するかの違いがある。
グロリアにより放たれたエネルギーは、戦闘空域のかなりの範囲をカバーし、新型の第五世代やキーツの戦闘機を一気にその爆発へと呑み込む。とはいえ、強力なバリアをもつ戦艦はいまだ健在であり、そこから新たに戦闘機が次々と飛び出てくるので、今のでは雑魚散らしをした、といった程度の攻撃にしかならない。
とはいえ、それくらいのことは想定済みだ。新たに出てきた戦闘機を各個撃破しながらも、自分とグロリアは敵の戦艦を目指して飛行を続ける。しかし、しばらく戦闘を続けていて気付いたことがある。それは――。
『……戦闘機の動きがやや鈍い?』
『私も同じように思っていたわ』
『無敵艦隊を作ったのって、ダンさん……フレデリック・キーツだよね?』
『えぇ。宝剣へカトグラムを作ったのだって彼だし、その他のDAPAが扱っている技術の多くは、その設計にあの人が携わっているはず……それがこの程度のスペックしか出せないなんて、違和感があるわね』
『チェンさんによれば、前回のヘイムダル襲撃時に交戦した感じだと、星右京がハッキングで無理やり動かしているんじゃないかって』
『……そうね、そういうことかもしれない』
グロリアは妙に納得したような声色でそう呟いた。何となく、彼女なりにキーツについて思うところがあるのかもしれない。
『グロリアはフレデリック・キーツとの接点はあったの?』
『話したことはほとんどないけれど、一応面識はあったわ。気のいい優しいおじさんって感じで、嫌いな人ではなかった。まぁ、私がファラ・アシモフの娘だから、変に気を使ってくれていたんでしょうけれど。
他にもアランとのやり取りは何度か見ていた感じだと……DAPAに所属している人にしては変な選民思想も無い人だとも思ったわ。ある意味では七柱として昇りつめたのが不思議なくらいまっとうな人だったとも思う』
『そうだね、ダンさんもそんな感じだったし……レムはダンさんとも組むつもりだった訳だから、もしかしたらフレデリック・キーツは私たちと戦うことに関しては反対なのかもしれない。本来の主が十全の力を出していないから、戦闘機の動きが鈍いのかも』
『だからと言って、こっちまで加減をする理由にはならないわ。向こうが手加減をしているっていうのなら……!』
『そうだね、今のうちにできるだけ数を減らしておこう!』
ダン・ヒュペリオンという人の性格を考えると、もしかしたら自分たちに止めて欲しいとすら思っているのかもしれない。こんな風に考えるなど、都合が良いように相手の思考を勝手に決めつけているとも言えるのかもしれないが――ともかく、自分の第一目的はノーチラスが戦闘空域を一旦抜けるまで敵をかく乱することと、それにもう一つ――敵機を魔術や炎で落としながら進んでいくと、第二目標が徐々に近づいてきた。
『フレデリック・キーツの無敵艦隊は、外宇宙からの襲撃者の迎撃を想定した強力な五隻からなる艦隊。その武装が強力なのは当然として、物理攻撃に対しては半物質バリア、エネルギーによる攻撃に対しては多層移装甲を使い分けることで堅牢な守りを誇る』
『それを破るには二つに一つ。防御機能の入れ替え時の僅かな隙間を縫うか、両方の防御機能をも打ち抜けるだけの超威力の攻撃を放つか、だね。ただ……』
『私たちのシルヴァリオン・ゼロ・レクイエムは威力は十二分だけれど、流石に戦艦級を破壊するには攻撃範囲が足らない。ともなれば、前者による攻撃が必要になる。それはそれで超絶技巧が必要だけれど……』
『私たち二人なら、不可能じゃない!』
機械鳥が融合した魔術杖が変形し、杖の両端にカートリッジを転送できるようになる――以前にダン・ヒュペリオンに改造してもらったように、魔術を二連射する構えだ。
そして杖を一回転させ、前後それぞれに第六階層魔術弾を装填する。以前は片方には高層、片方には低層の魔術を入れていたのだが――それは演算の難しさから第四階層以上を連続で撃つのが難しいという判断もあったのだが、今は詠唱の担い手が丸々二人いるので、第六階層を二連射することも不可能ではない。
演算を完了させると、計十二枚の魔法陣がほぼ同時に自分の周囲に飛び交い始め――超音速を維持したまままずは超巨大な氷柱を魔法陣から撃ちだす。巨大質量に加えて超音速の加速を上乗せした巨大な氷柱は、物理攻撃としてはかなりの威力になる一撃だ。十分な速度で発射されたそれは、重力下にある宇宙船の速度では回避することも叶わず、予想通りに反物質バリアを展開する。
そして氷柱がバリアに激突する直前に、グロリアが演算していた第六階層相当の稲妻の魔術を撃ちだす。強力な物理攻撃とエネルギー攻撃がコンマゼロ以下の差異で着弾し――戦艦はその攻撃を防ぎきることはできず、空中で大爆発を起こしたのだった。




