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13-24:海上戦の開幕 下

「……それじゃあ、ソフィアちゃん、グロリアさん、御武運を……」

「うん、クラウさんも……私たちの手で、アランさんとエルさんを取り戻すんだ」


 扉から外に出て、氷炎の羽を羽ばたかせて飛んでいく彼女を見送り、自分はノーチラス号の下層へと降り立った。動力室の扉を悪魔型の魔族が開けてくれ、自分はソフィアたちが運んできた古代種のモノリスの前へと立ち、その黒い直方体に向けて両手を突き出す。


 これに触れても、以前に触れた母なる大地のモノリスほど超常的な何かは感じない。しかし、同時に古代種の意志のような物をなんとなく感じ取れる。一つの進化の果て、自分たちよりも遥か昔に高次元存在より独立した存在となった古代種は、三次元の檻に永久に囚われる形になった絶望と、それでも何かを成そうという強い意志をもって高次元存在に近づこうとした――その一つの集大成がこのモノリスのレプリカなのだろう。


 古代種が今、この広大な宇宙のどこで何をしているのかは分からないが――ともかく、今は悠久の過去に思いを馳せている場合でもない。そう気持ちを切り替えたタイミングで、室内のスピーカーから熾天使たちの声が聞こえ始める。


「敵機確認、識別、フレデリック・キーツの無敵艦隊!」

「敵主砲、エネルギー充填開始……タイミングはこちらから伝えますので、結界の準備をお願いします」

「了解です!」


 そう、自分がわざわざここに来たのは、第八階層級の結界をノーチラス号全体に張るためだ。ノーチラス独自のバリアもあることにはあるが、フレデリック・キーツの無敵艦隊が誇る主砲を耐えられるほどの強度にない――そのために自分がそのバリアの補強に買って出た訳だ。


 もちろん、こちらとしても以前に見せている手の内ではあるし、敵側もこちらが第八階層の結界を張るのは想定はしているだろう。しかし同時に――自分で言うのもなんだが――アルジャーノンの第八階層級を防げるだけの強度を誇る結界なら、相手側のいかなる攻撃をも防ぐことはできる。相手方としては撃たない理由が無いから撃つだけであり、こちらを疲弊させる程度の目的で撃ってることは想定されていた。


 ともかく瞳を閉じて精神を集中させ、来るべき時に備える。スピーカーの奥からカウントダウンの声も聞こえるが、既に自分の魂が敵側の意志も感じ取っている。それは深い悲しみのような、迷いのような、攻撃をする側が抱くには何とも不思議な感情ではあるが――ともかく意識をレプリカに集中させ――。


「……ゼロ!」

「だらっしゃぁああああ!!」


 ジブリールの声に合わせて、艦の外に巨大な結界を展開する。別に掛け声は何でもよかったし、なんなら声など張り上げなくても良かったのだが、大切なのは気合だ。ともかく相手の主砲がノーチラスに直撃したのだろう、艦内は大きく揺れるが――これくらいの威力なら問題なく防ぎきれるはずだ。


 外の様子は、何となくだが認識できる。フレデリック・キーツの無敵艦隊、その中心にある旗艦から放たれた主砲は、八重の結界のうち六枚を破壊し、今は七枚目が止めている――神聖魔法による結界は、内側の強度の方が強力であり、仮に七枚目が破壊されたとしても八枚目を破るには更なる威力が必要になる。


 何より、やはり先ほど感じたように、敵側の攻撃に迷いがあるようだ。機械から発射された攻撃の威力が、意志の力で減退することなどはあり得ないが――しかし、自分が紡ぎ出す結界の方は決意と覚悟が上乗せされてより強固な壁となっているのだから、迷いのある攻撃に防がれる道理などない。


 顔を上げて瞼を開けると、目の前の黒い板が赤い警告灯の灯りを吸い込んでおり――今一度景気づけのために大きな声をあげると船を揺らしていた攻撃が止み、けたたましく鳴り響いていたブザーも鳴りやんだのだった。


 結果として、フレデリック・キーツの旗艦が誇る主砲は七枚目すら打ち破ることは無かった。もちろん、こちらとしては普段は人型を護る規格の結界を巨大な船全体に張ったのだから、普通に七星結界を出すよりも精神力を要したのは間違いないし、今の規格の攻撃が何発も連続で来たら精神力が持たないが、この程度だったらまだ余裕がある。


 それに、当初の予定なら、ここからが本番あ――そう思っていると、動力室のスピーカーから再び熾天使たちの声が聞こえ始める。


「戦艦の主砲は防ぎきりましたが……」

「これから最大戦速で敵陣を突っ切るわ! ここから巡洋艦、駆逐艦の砲撃に雑魚からの攻撃が来ることが予想されるから……」

「上等です! 何発でも防いでやりますよ!!」


 何発でも防ぐは少し、いやかなり盛ったのだが、やると決めたならやるしかない。何せ、今日の自分はやる気が違う。いや、いつもやる気は十分なのだが、今日は気合満点中の満点だ――改めて呼吸を大きく吸い込み、もう一度レプリカに両手を添えながら次の攻撃に備えるのだった。

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