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13-20:チェンの檄 上

「外での戦闘は、主に空での戦いが想定されます。特にヘイムダルの時と同様、接近する際に無敵艦隊と接触することになるでしょう。

 外での戦闘メンバーは、ナイチンゲイルとノーチラス号……ノーチラスの指揮と操縦に関しては、シモンとイスラーフィール、ジブリール、それに魔族たちに任せ、塔の攻略メンバーは途中で高速艇に乗り換えて海と月の塔へと向かいます」

「まぁ、身体パーツが万全じゃない私たちは戦闘には向かないし……」

「逆に、AIは万全な状態ですから、ノーチラスの操縦に関しては私たちが適任と言えるでしょう。貴方達が海と月の塔へと行けるようなサポートをします」

 

 チェンの作戦について、二人の熾天使も納得しているようだ。その後はチェンの背後のスクリーンに地図が映し出され、無敵艦隊との戦闘になることが予測されるポイントと戦略についてが語られていた。


 しかし、今では地図も理解できるようになったおかげで、実際の様子も何となく理解できるようになっている――そんな調子で空戦の作戦の様子を聞いている傍らで、シモンがどこかナイーブな様子で肩を揺らしているのが見えた。


「シモンさん。大丈夫ですか?」

「あぁ、フレデリック・キーツの無敵艦隊とノーチラスが戦うってことは、親父と僕との戦争を意味するからな。緊張が無いって言えば嘘になるが……でも、やれるだけやってみるよ」


 確かにシモンはノーチラス号作成にかなりの時間と労力を費やしたのだ。設計こそチェン・ジュンダーら旧世界の人々が行ったものと言えるのだろうが、実際にこの船を作ったのはシモンとも言える。そういう意味では、無敵艦隊とノーチラスの衝突は父と子の戦いという一面もあるのかもしれない。


 本来の気質がナイーブなシモンは、家父長制のもとに育ったが故に父親に対する苦手意識を払しょくしきっておらず、精神的に勝てないと思い込んでしまっているのかも――とも思ったのだが、なんとなくシモンが震えているのはネガティブな理由ではないように思われる。


 どちらかと言えば武者震いなのだろうか、確かにいつもの彼らしいナイーブさはまだ見えるものの、その眼には確かな闘志が宿っている。自分が知らない所で、彼もまた覚悟を決め、成長していたということなのだろう。


 視線をスクリーンの方へと戻すと、ちょうど空戦の予測についての共有は終わったようだった。スクリーンの映像が消えるのに代わって、フロントガラスの外の森林がそのまま視界に入って来て、その中心に再びチェン・ジュンダーが立った。


「最後に、海と月の塔においてレムが最下層へ向かうのにサポートするメンバー、これに関しては残り全員……つまり、私とT3、ブラッドベリとセブンスの四名で当たります。

 私たち四人が、最も柔軟に動かなければなりません。余力があればアガタ・ペトラルカとクラウディア・アリギエーリの両名のサポートをしますし、もしも残りの七柱が道を阻むというのなら、彼らとの戦闘行動を取るのは私たちの役目になります」

「必ず勝ってやると言う覚悟はあるが、ダニエル・ゴードンとリーゼロッテ・ハインラインを同時に相手にすることを想定すると、厳しい戦いにはなるな」

「正面突破をするのみです。ただし、今の我々なら健闘は可能と考えています。何故なら……」

「……まさか、アレを使う気か?」


 T3は少々渋い顔をしながらブラッドベリの方を覗き見る。魔王はその視線を流しながらも、不承不承といった雰囲気で嘆息を漏らした。


「納得いかないのは貴様だけではない。まさか、我を何度も阻んできた術を自ら使わざるを得ないというのだからな。しかし……」

「……あぁ、四の五の言っている場合でないからな。致し方あるまい」


 二人の言葉と態度から、トリニティ・バーストを使うつもりなのだということが読み取れた。確かに、先日見たチェンの実力やナナコのラグナロク、それにブラッドベリの不死性を考えれば、七柱の主力陣を正面突破とはいかずとも五分の戦いはできるだろう。


 それに、当日の自分の頑張り次第では、戦局を大きく変えることもできるだろう。そう決意を新たに拳を握りしめ、自分もチェンの方へと向き直った。


「それで、作戦開始はいつなんですか?」

「明日の朝にこの地を発ち、そのまま海と月の塔の攻略に乗り出ます。ノーチラス号の速度なら、数時間で接敵することになるでしょう。

 その他、何か質問がある人はいらっしゃいますか?」


 そう言いながら糸目の男が周囲を見回すが、手を挙げる者はいなかった。先ほどチェンの言っていたことから――JaUNTがある以上、あまり細かい作戦は意味をなさない――各々が変に取り決めをしておくのを避けているというのが正確な所だろうか。


「それでは、無いようなので解散します」

「チェン。折角だから、檄の一つでも入れたらどう?」


 そう横やりを入れてきたのは、ソフィアの隣で長い手足を組んでいるグロリア・アシモフだった。在りし日の姿をホログラムにしているのだろうが、それにしてもスレンダーで綺麗な子だ――その意地の悪い表情に対し、チェン・ジュンダーは「ふむ」と小さく頷いた。

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