13-19:塔の攻略作戦会議 下
「完成したノーチラス号で海と月の塔へと接近し、あとはよしなにする形ですね」
敵の戦力に関する考察を述べた後、チェン・ジュンダーがそうあっけらかんと言い放った。まぁ、確かにそんなものかもしれない――自分が納得しかけている反対側で、ナナコが驚いたように椅子から飛び上がっているのが視界に入ってきた。
「えぇ!? いや、ざっくりしすぎてませんか!?」
「いえいえ、ソフィアやグロリア、レムと長く時間を掛けて相談した結果でもありますし、ブラッドベリの了承も得ています。まぁもう少し詳細に語るとですね、結局何をするにしても星右京と彼のJaUNTが障害になるのですよ。
先日のレヴァル襲撃を見ればわかりますが、彼は一度に巨大な兵器すらも別の場所へと送り込むこともできる……逆に一気に退避し、戦力を別の場所へ移し替えることだってできるでしょう。そうなれば、相手も状況に合わせて戦力の配備を変えるでしょうし、こちらとしても状況のコントロールが非情に難しいというのが正直なところです」
チェンが語った内容は、先ほど自分がよしなにするしかないと納得した理由と完全に一致していた。普通の相手ならばもう少しコントロールもできるだろうが、瞬間移動をされればその限りではない――更に厄介なのは、右京の扱う瞬間移動は彼自身だけでなく、他の者だけを転送できる点だろう。
そんな能力を相手にするとなれば、あまりに緻密な作戦を立てていても無意味だろう。あまり作戦の筋書きを重視しすぎていると、それを崩された時に一気に瓦解してしまうリスクすらあり得るのだから。
ナナコも納得してくれたのか、「なるほど」と言って椅子に深く腰掛けた。
「我々の目標はただ一つ、レムの人格がコピーされているマイクロチップを海と月の塔の最下層へと運び、海の女神を復活させることです。先ほどはざっくりとお伝えしましたが、おおよそ戦力を三方へ分散させることになると思います。
まず、レムを最下層へと連れて行く者……これは海と月の塔の内部に精通している者が良いでしょう」
チェンは一度言葉を切り、自分の隣に座るアガタの方を見た。内部構造に詳しいのは勿論だが、主君であるレムをあるべき場所に戻すというのには彼女が最も相応しいだろう。とはいえ自分たちが攻め入るとなれば、海と月の塔の最下層はかなり厳重な防衛が敷かれることが想定される。そうなれば、彼女の行く道を支える者が必要――勿論迷わず自分が手を上げることにした。
「アガタさんと一緒には私が行きますよ」
こちらの挙手に対し、アガタは安心したように微笑みを浮かべ、同時にチェンはこちらに対して頷き返した。
「えぇ、それが良いでしょうね。とくに屋内に関する戦力としては、貴女が最も適任でしょう……実際にリーゼロッテ・ハインラインとも互角にやり合ったのですから、レムがシステムと同調している間の護衛もできるでしょうしね。
ナイチンゲイルやセブンスも強力ですが、全力を出されると海と月の塔を内部から破壊しかねないですから。力の取り回しの良さの点から言っても、貴女が内部の攻略に向いていると言えますから」
ソフィアとグロリアからなるユニットのコードネームは格好いいなと思っていると、チェンは「さて」と区切りながら件の小夜啼鳥の方を見た。
「次に、外での戦闘での戦闘に関して。フレデリック・キーツの無敵艦隊と飛行型の第五世代型による迎撃が予測されます。これらの戦力に対しては、ナイチンゲイルとノーチラス号が戦闘に当たります」
「貴様の考えた作戦にケチをつける訳ではないが……陸路で向かうという手段はないのか?」
空から攻めることで余分な戦闘が発生するのなら、陸路で強襲を掛けたほうが良いのではないか――T3が言いたかったのはそういうことだろう。
「貴方の意見ももっともです、T3。ただし、以下二つの理由から敢えてノーチラスによる強襲を決定しました。
一つは、我々にとってこの星で安全な場所など無いということ……海と月の塔へと向かうにも、結局一定の距離まではノーチラスで接近する必要があります。しかし、どこまで近づいても大丈夫なのか? という点に関しては……」
「成程……森から浮上したらすぐにでも居所を割られることを想定すれば、すぐにでも攻撃が開始されるかもしれないということか」
「えぇ。それに陸路で向かうとしても、ADAMsを使えるアナタや空を行けるナイチンゲイル以外のメンバーでは移動に時間が掛かりすぎますからね。それなら、ノーチラスで一気に接近したほうが、こちらも戦力をすぐに現地へと運べるというものです。
もう一つの理由として、海と月の塔の立地が挙げられます。陸から一キロメートルほどの距離とは言えど、海に浮かぶ孤島という立地には変わりありません。そうなれば、向こうとしては塔へと向かう橋に戦力を集め防衛に徹されると、その攻略は難しくなります。
また、向こうとしてはこちらに攻め込まれたくないのなら、橋を落とすという選択肢だってあり得ますからね」
チェンが一度言葉を切るのに合わせ、アガタの肩に座っていたレムが浮遊し、全員が見える位置で停止した。
「実際、有事の際を想定して、海と月の塔へと通じる橋は海底に沈めることが可能です」
「そうなれば、陸路で向かってそのままむざむざ引き返す事もあり得るわけか……成程、ノーチラスで接近するのが良いという判断には納得だ」
T3は頷き、レムはアガタの肩に戻ると、再び一同はチェンの方へと視線を集めた。




