3-6:事情説明 下
「……凄い! エルさん、クラウさん、アランさんは本当に異世界から来たんだよ!」
「まぁ、私は異世界の情報とやらは知らないから何とも言えないけれど……でも、確かにこの世界の常識でないことをスラスラと答えていたのは確かね」
ソフィアはエルたちの反応を見てから、改めてこちらを振り返り、キラキラした目でこちらを見ている。
「凄いなぁ……でも、なんでレム神はアランさんを転生させたんだろう?」
「それはさっきも言ったが、何やらこの世界を見て回って欲しいらしいぞ」
一応、他の神々が決めたルールを判定する密偵、というのは言わないでおいた。政治と宗教についてはあまり話すなと言われるものだが、彼女らの信心次第では話がこじれると思ったからだ。
しかし、こちらの言い分が納得しなかったらしい、ソフィアは首を傾げている。
「そうなのかなぁ……もしかしたらレム神は第三勢力の存在に気付いていて、その対抗策としてアランさんを呼んだんじゃ……?」
「それならそうと依頼するだろうし、それにもっと強い能力を与えてくれるだろう。本当に好きに生きていいって放り出されただけで、なんだか知らないうちに魔王討伐に誘われるまでになったのは、ただの偶然さ」
「うーん……偶然にしては出来すぎているような……」
確かに、自分で言っておいて出来すぎではある。その疑念は自分よりソフィアの方が強いのか、目を瞑りながら考え込んでいるようだった。
「うん、そうだよ。疑問は何点かある。まず、レム神はどうしてもっと平和な時代に転生させなかったんだろう? それに、わざわざ暗黒大陸なんていう最前線に蘇らせることもないし……」
「な、俺ももうちょっと平和な場所で目覚めたかったよ」
「それはダメ!」
「えぇ……」
なぜか平和な場所に転生したかったというささやかな願いはソフィアに否定されてしまった。大きな声を出した後、ソフィアは再び口元に手をあてながら、推理をつらつらと並べ始める。
「それに、今までアランさんみたいな人は居なかったわけで……もちろん、私たちがそれを認識できていなかっただけかもしれないけれど、それでも勇者様以外に異世界の人をこの世界に呼ぶってことは、ただのレム神の気まぐれじゃないよね? 何か見て回ってほしいって言っても、それはレム神が異世界の住人であるアランさんの意見が欲しいっていうことになるから……」
先ほど密偵の話はしないと決めたのだが、この子は自力でその境地にたどり着いてしまいそうである。しかし、まだ意見は纏まらないようで、思考が少女の中でぐるぐる回っているらしい。そしてそれを待つのに飽きたのか、横のエルが口を開く。
「そう言えばアラン。どうして女神はアナタに前世の記憶を忘れさせたのかしら?」
「いや、忘れさせたんじゃなくて、死ぬときに頭打った衝撃で記憶が飛んだらしい」
その言葉に、普段はクールな雰囲気で通しているエルが噴き出した。クラウなんか二度目なのに噴き出している。ソフィアも推理を止め、ぽかん、とした表情でこちらを見ていた。
なんかこれ、もはや鉄板ネタとして芸に使えそうだ――いや、この三人以外には口外できないから、これで最後か。というかなんで自分の記憶喪失で笑いを取らなきゃならないんだ、そこからして謎だ。
まだツボっているのか、エルは顔を横に逸らして口元を抑えている。
「なんというか……アナタらしいわ……ぷっ……!」
「その言い方には凄まじい含みを感じるんだが?」
こちらのやっかみには、エルでなく、二度目だから少し耐性が出来ていたのだろう、すでに落ち着いた様子のクラウが応える。
「まぁいいじゃないですかアラン君。つまんない理由より、笑ってもらえる方がマシでしょう?」
「なぁ、本当は記憶がないって大ごとだよな?」
「でも実際、あんまり気にしてないでしょう?」
「まぁ、そうだなぁ……それで一応、このことは口外しないでもらえると助かる。俺たち四人だけの秘密だ……頼めるか?」
レムからも口止めされている旨を付け加えると、まずエルが頷いた。
「まぁ、私まで頭おかしい奴だと思われたくないしね」
次いで、クラウが悪い感じの笑みを浮かべながらこちらを見る。
「ふふ、いいですねぇ。アラン君の弱み、握りました」
エルとクラウ、この二人は本当に良い性格をしていると思う。もちろん、そのままの意味でもあり、こういった場面では憎まれ口や皮肉は叩くが、実際には絶対に口外しないタイプでもあるので安心だろう。
ソフィアも、もちろん口外するとは思っていないが――少女の方を見ると、改めて目を輝かせてこちらを見ている。
「うん、四人の秘密! それでね、アランさん」
「うん?」
聞き返すと、いつも快活なソフィアが少し口よどんでもじもじしている。少しすると、少女は照れたように笑った。
「……えへへ、私、アランさんのお役に立てるように頑張るね!」
「むしろ、俺がソフィアの足を引っ張らないように頑張らないとな」
「アランさんは頑張ってるよ!」
「ソフィアの方が頑張ってると思うんだがなぁ」
「むー……」
こちらとしては素直にソフィアを褒めているつもりなのだが、肝心の少女のご期待には応えられなかったようだ。
「まーったくアラン君なんですから」
クラウは手をやれやれ、という感じに上げてため息をついている。一方、エルもソフィアの情動がよく分からなかったようで、こちらと目を合わせて二人で頭に疑問符を浮かべた。




