13-18:塔の攻略作戦会議 上
目を覚ましてから数日、二人の熾天使と議論を重ね、構想していた武器の作成を続けていた。初期構想では連射性能や携行性などを重視していたものの、これから戦う敵の強さを考えたら魔王城に行く途中で渡したの試作品ですら火力が足らないということで、最終的には主に火力と、強力な火薬に耐えられるフレームをどう作るかという部分に焦点が絞られた。
しかし、自分があれやこれやと意見を出すと、こちらより遥かに知識のある二人が客観的な立場から助言やアドバイスをくれるこの状況は何ともありがたい。以前のように一人で書物を漁りながら手探りで物を作るのも楽しくはあったのだが、こうやって誰かと一緒に一つの目的に向かって物を作ることが楽しくもある。
逆に、こんな風に自分よりも圧倒的に優秀な助手に甘えてしまえば、自分自身の知識や技術の研鑽という点から見れば微妙なのだろうが――彼女たちからもらう助言も勉強にはなるし、何よりこれを作って彼を喜ばせたいと欲することは自分の願いだ。その辺りは彼女たちに代替されるものではないので、良い意見をもらえることにはしっかりと甘えることにする。
ともかく、最終的に作る武器の目的と規格が決定し、あとは作るだけだ。艦内の施設を利用して前腕全体を覆うほどの長い手甲と、それに見合うだけの火薬の詰まった弾丸が作り、今は三人で机の上に置かれている試作品何本かと、その完成品とを眺めているところだった。
「一応完成しましたが……」
「これ、大丈夫なの? 一応、新型の装甲を打ち抜けるくらいの威力にはなったけれど……こんなものを生身で撃ったら間接が外れるどころか、衝撃で内臓がやられちゃうと思うけれど」
完成品を見た途端、二人の熾天使はなんだか神妙な表情を浮かべた。
「なんですかなんですか、アナタ達だって作ってる途中はいったれいったれって結構テンション上がってたじゃないですか?」
まるでこちらが悪いかのような雰囲気を醸し出しているが、最終的には熾天使の二人とも積極的に作成にいそしんでいたのも確かだ。最初の頃こそあまり表情が動かないと――とくにイスラーフィールが顕著だ――思っていたが、自分とやり取りをしているうちに少し感情が動くようになってきているように思う。それは概ね、滅茶苦茶なことを言う自分に対する呆れとか、驚きとか、そういった方向性の感情に思われるのだが、なんにしても情緒が豊かになるというのは良いことだろう。
二人の方も思うところはあったのか、イスラーフィールとジブリールは互いに顔を合わせて目くばせをし、今度は気まずそうにこちらへと振り返った。
「それは否定しないと言いますか……」
「効率を無視して威力を追い求めるなんてやったことがなかったから、興味深くてつい、ね。でも、新型どころか巨大魔獣も一撃で葬れそうな量の火薬を人型サイズが使うなんて、あんまり想像できなくって」
「まぁ、確かに私もちょっとはしゃいじゃったのは認めますが、大丈夫ですよ! それに無茶苦茶度合いで言うなら、ナナコちゃんの機構剣とかソフィアちゃんの魔術杖の方が上じゃないですか?」
「まぁ、そうかもしれませんが……」
「何より、これを使うのは私たち以上に無茶苦茶な人なんですから。これくらいの方が景気が良いって喜んでくれますよ、きっと」
「はぁ……これで喜ぶって言うの? 肉の器にある者のことは、やっぱり理解不能だわ」
ジブリールが呆れたような表情で完成品をつついたタイミングで、室内のスピーカーから艦内放送が聞こえ始めた。一同ブリッジに集まるようにという内容であり、自分は二人と熾天使を連れて移動を始めた。
ブリッジに到着すると、自分たち以外のメンバーは既に集合していたようだった。よくよく見れば、内装や椅子の数などもピークォド号に似ている――以前によくアシモフが掛けていた場所には、今はホログラムのグロリアが腰かけている。
ともかく、自分たちも空いている椅子に適当に――奇遇にもアガタの隣が空いていた――腰かけると、いつものようにチェン・ジュンダーが一番奥で周囲を見回した。
「さて、集まりましたね……それでは、海と月の塔の攻略、並びにアラン・スミスの復活作戦についてお話します」
チェンから語られた作戦の概要としては次のようになる。作戦の大目標は、レムが深海のモノリスのコントロールを取り戻すこと――そうすればこの星をコントロールするシステムを取り戻すことができて、海底にいるアランの身体の治癒もできるようになる。
その具体的な障壁として想定されるのは、星右京、ダニエル・ゴードン、リーゼロッテ・ハインラインの三名。また、ローザ・オールディスもトドメをさせなかったので、他の器へと移って立ちはだかる可能性を考慮しなければならない。
また、ルシフェルという熾天使級の第五世代型アンドロイドの配備も考えられ――最後に、ヘイムダル攻略時に撃墜できなかったフレデリック・キーツの無敵艦隊による妨害も想定される。一言で言えば、敵もこちらも総力戦ということになるという予測が立てられていた。
それに対してこちらができることと言えば――。




