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13-16:空席の会議室にて 中

「さっきのアナタの疑問についてだけれど……ローザはね、デイビット・クラークが居るころにはDAPA内に影響力はなかったのよ。恐らく、クラークはローザのことを認識すらしていなかったんじゃないかしら」

『そうなの?』

「えぇ。デイビット・クラークは彼女のようなタイプを嫌っていたからね……旧世界の彼女と今の彼女は全く別人のようだけれど、その本質はあまり変わっていないわ。

 元々、ルーナ派とやらの教義が人道的で博愛主義を採用しているのは、言ってしまえばクラークが言うところの『弱者が強者を自らがいる所まで貶める手段』に過ぎない。平等だとか優しさだとかいう抽象的でそれらしい物差しで人の在り方を説くのは、素質で勝てない者に対して優しさなら負けていないという弱者の理論であり、精神的な勝利で自分を慰めるための手段にしか過ぎないのだから。

 彼女は今も昔も、他人の目を気にして勝ち負けに執着している……そういう意味では、本質的な部分は何も変わっていないのよ」

『……アランとの決着に執着をしているアナタがそれを言うの?』

「ふふ、言うじゃない。でも良いのよ、私は自分のことを大したものじゃないと思っているし、それでいいとも思っている……ローザも言っていたでしょう? 自分勝手な奴だって」


 ちなみに、彼女の頭脳が素晴らしい物であったことも間違いと、リーゼロッテはローザに対して謎のフォローを付け加えた。曰く、優秀な成績で研究機関を卒業したのも事実だし、実際にAIを上手く活用しながらも巨大な月をほとんど一手で管理しているのだから、ローザ・オールディスが優秀なことには違いないのだろう。


『でも、彼女は優秀だったのでしょう? それなら、変に劣等感を覚えることも無いんじゃないの?』

「その辺りは本人にしか分からないこともあるし……そうね、アナタは誰かに劣っていると感じることは無い?」


 自分が誰かに劣っている――そういった類のことは何度か考えたことはある。たとえば、ソフィアと比べたら自分は持っている知識量だって頭の回転だって足らないし、クラウと比べたら家庭的な能力だって足りていない。もっと言えば、リーゼロッテと比較して、技も精神力も足りていない――そんなことを考えていると、身体の主はまた鼻で笑いながら首を振った。


「アナタはそんな風に思っているわけだけれど、アナタの知能指数はレムリアの民の中ではかなり高い方だし、家事ができるかどうかを重視するかはライフスタイルによるわ。アナタはごく一部の例外を切り取って、それと比べて自らが劣っていると感じているに過ぎない。

 要するに、ローザ・オールディスも同じってだけ。いいえ、ローザだけじゃない。多くの人間が、勝手に自分と誰かを……とくに凄まじく優秀な者と比較して、勝手な劣等感を覚えているに過ぎない。別に自身が最低ってわけじゃないのにね」

『アナタも、アランに戦闘力で劣っていると思っているから、それで執着しているの?』

「……そうだと思う?」


 こちらに質問を返してくるリーゼロッテの調子はどこかあっけらかんとしたものであり、明らかにコンプレックスがあるという雰囲気ではない。そうなると、リーゼロッテはコンプレックスの解消のためという訳でなく、何か他の事情でアラン・スミスとの決着を望んでいるということになるのだろうが――そう思っているうちに、とある一室へと到達した。


 薄暗い照明の照らし出す中心には、円形の机に対して六つの豪奢な椅子が並んでいる。恐らく、七柱の創造神たちが一同に介すために作られた専用の空間なのだろう。椅子が一つ足らないのは、オールディスの月が完成した時にはレムは――伊藤晴子は既にその身を海に捧げていたせいで、肉体を持ってして七人が介すことは無かったからだろうか。


 しかし、リーゼロッテの記憶の中に、他の六人すらこの場に集まった記憶はないようだ。揃わなかった主な理由は、今自分の体を操っている張本人がほとんど眠っていたせいのようだが――ともかく彼女は自分用の椅子に深くかけた。


「正直に言うとね、もはや自分が何故タイガーマスクに固執しているのか、その理由は自分にも思い出せないの……いくつも任務を失敗させられた借りを返したいのか、戦場に甘ちゃんが立っていることが気に食わなかったのか……はたまた、いつまでも私を見てくれなかったことが許せなかったのか。

 アナタが言ったように、単純に勝てなくて悔しいって気持ちだって無くはないわ。ただ……彼を意識した原因は、間違いなく初めて出会った時に見逃されたのが悔しかったからね」

『そういう意味じゃ一目惚れなのね』

「一目惚れ、そうね、そうかもしれない」


 こちらの言葉に対し、リーゼロッテは自虐的に笑った。結局アラン・スミスを強く意識したのは、出会いが鮮烈だったから――というのは、あながち間違いでもないのだろう。


 彼女がアラン・スミスと初めて会った時の記憶には、自分もアクセスができる。初めて出会ったのが鉄火場というのは自分とアランの出会いも共通しており、同時に彼のあり得なさを意識をし始めたという点では、自分もリーゼロッテも一緒なのかもしれない。


 そんな風に少しリーゼロッテに対する親近感を覚えていると、視界の端に何か動きがある――リーゼロッテも視線を上げると、シンイチにそっくりの少年のホログラムが椅子の一つに腰かけていた。

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