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13-11:魔王と虎と板挟みの彼女 下

「そうか、まさか奴が邪神ティグリスだったとはな……」

「あ、えと、なんだか神妙な感じですけど、大丈夫ですか?」

「いや、何……思考を操作されていたとはいえ、名目上はティグリスの復活を企む者として私は存在していた訳だからな。アレが我が信奉者であったとは思うと、中々に複雑怪奇だが……しかし成程、妙な力強さがあったことも頷けるというものだ」


 ブラッドベリは皮肉気に笑いながら、またどこか遠くを見つめた。しかしすぐに首を横に振り、再び神妙な表情を浮かべながらこちらを見た。


「だが、奴を我が主として認めるつもりはないぞ」

「あ、あははぁ……まぁ、アランさんも嫌がりそうですけど」

「それに奴がいなければ、我は封印されずにゲンブに合流できていた訳だからな。戦士として打ち合い、負かされた結果にとやかく言う気もないし、奴を復活させることに異論はないが……進んで手を組むつもりもない」


 そう語るブラッドベリの雰囲気は、T3がアランのことを語る時に似ているように思う。恐らく、実力や信条は認めているのだが、性格的な部分で反りが合わないと言った調子なのだろう。


 しかし、名目上はティグリスの復活を目論むべく魔族を統べていた魔王が、真に邪神復活のために尽力することになるとは不思議な様にも感じるが――しばらくブラッドベリが押し黙っているので、先ほどの不安が戻ってきてしまう。彼は本当に、再びレムリアの民と戦争を引き起こすつもりなのだろうか。


「……安心しろ、別にすぐさまレムリアの民どもと戦争を起こす気など無い。荒廃しきってしまったこの世情において戦争などけしかけたら、それこそ互いの種族が絶滅してしまうだろう」

「ほっ……でも、後々戦うつもりなんですか?」

「それは、貴様やアラン・スミスの言っていた通り、一度距離を取ってみて……細かいことはその後に決めることにする。今はともかく、我らの運命を好き勝手に操る偽りの神々を滅することが先決だからな」


 男が言葉を切ったタイミングでシモン達も食事を終えたようであり、遠くからブラッドベリを呼ぶ声があがった。


「長話をしてしまったな。最後に言っておくが、私はアルフレッド・セオメイルのことは一人の戦士として認めている。彼奴きゃつが生体チップを破壊してくれなければ、私は未だに七柱の呪縛にとらわれたままだっただろう。そういう意味では感謝もしているのだ。

 しかし、まだ感情に振り回されているようだからな……そういった甘い部分は、決戦に向けて克服しておけと伝えておいてくれるとありがたい」


 ブラッドベリはそれだけ言い残し、シモンたちの方へと戻っていった。しかし、ブラッドベリの言葉は幾分か自分の心を軽くしてくれた。表面上ではいがみ合っているように見えるけれど、ブラッドベリ側はT3に歩み寄ってくれる態度を見せているのだから。


 さて、みんな仕事に戻ったので、自分も仕事に戻ることにしよう。空いた皿をカートに載せて運び、洗い物を済ませてしまおう――そう思ってキッチンの扉を開くと、武器の整備をしているはずのT3がコーヒーを呑みながら待っていた。


「あれ、T3さん。武器の調整をしているんじゃなかったんですか?」

「そろそろ貴様が食器を戻しに来ると思って待っていたんだ」


 T3はやおら立ち上がって食器をシンクへと持っていき、黙々と洗い物を始めた。自分も彼の隣に並び、彼の手伝いをすることにする。


「あのぉ……なかなか仲良くするのは難しいというのは分かるのですが、ブラッドベリさんのこと……」

「……大丈夫だ。別に本気で奴のことをいがんでいるわけではない。ただ、三百年前には互いの種の存続を掛けて戦った間柄だからな。友好的に接するのが難しいだけだ」

「それなら良いんですけど……でも、ブラッドベリさんも、T3さんに感謝してましたよ。生体チップを破壊してくれてありがとうって」

「……恐らく、ありがとうまでは言っていないな」


 確かにありがとうとは言っていなかったが、感謝していると言っていたことは事実だ――ともかく、顔を合わせれば険悪だが、T3とブラッドベリが互いにいがみ合っているわけでないことは分かったので、やっと自分も胸を撫でおろすことができた。


「……戦いが終わるまで、待ってくれるとありがたい」

「……ほぇ?」

「お前の中には、間違いなくナナセがいる……それは、分かっているのだ。だが……それを認めるのには、心の整理をつけたい」


 洗い物が終わり、T3は手元の布巾を眺めながらそう呟いた。もしかすると、先ほどのブラッドベリの言葉を気にして、こちらに対して気を使ってくれているのかもしれない。


「T3さん、あんまり気にしたらダメですよ。というか、私の存在がアナタを迷わせているのなら心苦しいですし……私など、その辺に転がる石ころぐらいに思ってもらえれば!」

「そうだな、そう思うことにする」

「え、自分で言っておいてなんですけど、それは酷くないですか!?」


 まさか本当に石ころ扱いされるとなれば、いくら自分でも少々傷つく。声を荒げて反論する自分に対し、T3は何も言い返さずに淡々と洗い物を進める――ただ、その口元には微笑みが浮かんでいたのを自分は見逃さなかった。

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