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13-7:第八階層魔術の可能性 上

「はいはい、そういう話は後にしてください。今は重大な作戦会議中なんですから」

「いいえ、チェンさん。クラウさんに聞きたいことは他にもあります。第八階層に相当する魔術の使役……それについて聞いておきたいんです」

「ですが、それについては何度も協議したでしょう? 演算処理の問題、触媒の問題……何より、開発期間の問題。問題が山積みな上、別に彼を倒すのに第八階層は必要ない……人一人を倒すのに、天変地異を起こすほどの威力は過剰なのですから」

「しかし、クラウさんの使役していた第八階層は、そこまで危険なものではありませんでした。もちろん、危険度が低かったのは結界か回復など、攻撃的な魔術でなかったという要因は大きいと思いますが……それでもクラウさんから話を聞いておくことで、何かしらの応用はできるかもしれませんから」


 ソフィアの意見にチェンも「一理ありますね」と頷き、扇子を取り出して椅子に深く腰掛けた。次いで、ソフィアとグロリアの真剣な視線がこちらへ注がれる。自分のアドバイスが彼女たちの役に立つかは分からないが、その真剣さに報いるため、言える範囲のことは伝えることにしよう。


「私の場合、本能的に使えてしまったというのが正直な所なので、ソフィアちゃんの役に立つかは分かりませんが……一応、以下二点については言えるかと思います。

 まず第一に、演算処理の問題について。こちらについては、既存の魔術に馴染みのある要素を足すことで、比較的演算処理が簡単にできるようになるんじゃないか、ということです。

 私も第八階層を自由自在に使えるっていう訳ではなく、使えることができた第七階層相当の神聖魔法をワンランクアップさせるに留まりますから」


 そう伝えると、金髪の少女とホログラムの少女は「成程」と頷き、こちらから視線を外して二人で議論を始める。


「つまり、シルヴァリオン・ゼロに馴染みの深い構成要素を一つ足せば、第八階層魔術にできるってことかしら。でも、それなら何を足す?」

「シルヴァリオン・ゼロの演算は私が担当するから、グロリアに馴染みの深い要素を足すのが良いと思うんだけど……炎は冷気と相反するから構成できないし、飛翔は着弾点をずらせるけれど威力自体は変わらないから、処理の難易度が飛躍的に上がるのに対してメリットが薄いかな」

「そうね……まぁ、そこはおいおい考えましょうか。それで、もう一つは?」


 グロリアのホログラムがこちらへ視線を戻してそう問うてきたのに対し、自分は頷き返す。


「もう一つは、触媒の問題についてですね。第八階層魔術弾に相当する触媒が存在しないということなのでしょうが……魔術そのものは高次元存在を通して事象の境界面に干渉し、並行世界の可能性を引き出す行為です。

 私は直接主神に祈りを捧げ、神聖魔法の応用として第八階層に相当する事象を引き起こしているので……それに近いことが出来れば、触媒の代わりとすることが出来るんじゃないかと」

「そうは言っても、私やソフィアは高次元存在に直接的に干渉することは出来ないし……」

「そうですね。なので、あまり具体的な解決策は提示できないのですが……ただ、全ての魂は高次元存在に繋がっています。私たちの魂は、普通は超次元的なことを認識できないだけで、それでも超次元的なものは目の前に存在している。

 そこで何かしらの手段を用いれば、一時的に高次元存在に干渉すること自体は、不可能ではないと思うんです」


 かなり抽象的な話をしてしまったという自覚はあるのだが、自分から二人に言えることはそれだけだ。実は、もう少し踏み込んだ話を出来ない訳ではない。魂が高次元存在と繋がりがあるのならば、それ自体を触媒にすることも不可能ではないはず。たとえば、魂を燃やし尽くす瞬間、超次元の存在が迎えに来たその一瞬を掴み、奇跡を顕在させる――そういったことも不可能ではないとは思う。


 しかし、この発想はかなり物騒だし、とくに小夜啼鳥の二人は自分の命を掛けることも厭わないペアなので、早まったことをしてしまいかねないことが懸念される。なので、敢えて抽象的に伝えることにしたのだが――言えないのならそもそも言うべきではなかったのかもしれない。実際に、こちらの言葉の曖昧さに困惑している様で、二人は首を傾げてしまっている。


「難しいね……グロリア、何かアイディアはある?」

「アナタほど賢くない私が、そうほいほいと意見を出せるわけ無いでしょう? でも、そうね……もしかしたら……」

「……グロリア?」


 真剣な面持ちで思考を巡らせているグロリアに対し、ソフィアは不思議そうに相方の名を呼んだ。あの二人は思考を共有しているはずであり、わざわざ聞き返さなくてもグロリアの意図するところは認識できると思うのだが――そう不思議に思っていると、グロリアの方が突然あっけらかんとした表情で笑い、静かに首を振った。


「何でもないわ。さ、チェン。私たちが確認したかったことは聞けたから、アナタにバトンを返すわ」


 グロリアに促され、チェンは扇子を閉じて袖に仕舞い、再び椅子から少し身を乗り出した。

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