13-6:黄金症の克服について 下
「あの、黄金症の克服については、もっと根本的な解決方法がありますよ」
議論の隙間を縫って自分が口を挟むと、頭脳陣は一挙にこちらへと振り返った。
「聞かせてください」
「はい。凄くすごく単純な解決方法……それは、第六世代型アンドロイドたちが進化の袋小路に立ってしまったという、高次元存在の認識を取り消すことです。
第六世代型アンドロイドの魂がこの星の海に囚われているのは、偏に私たちのこれ以上の進化が認められないと高次元存在が思ったからです。つまり……」
「……第六世代型達が社会的な閉塞感を破って進化の兆しを見せれば良いということですか? しかし、具体的にはどうすれば……」
「うぅん、そこまでは私にも分かりませんが……でも、一つ確実なことがあるんです。それは、アラン君が高次元存在に飛び込んだ時、世界に残った人々は強い意志を持った……だから、高次元存在は一時的に第六世代型が進化の袋小路にいるという認識を中断し、この世界は滅びずに今も存続しているんです。
もっと言えば、あちら側とこちら側は基本的には触れ合えないものの、確実にリンクをしています。たとえば、ナナコちゃんが雲を切り裂いてくれたから……現世にいる人々の心に希望が戻って来て、それがあちら側での光になったのです」
高次元存在の園が真っ暗だったことには知的生命体の心に闇が降りていたことが反映されていたように思う。ナナコが気象コントロールを破り、強烈な朝焼けを見た人々が心に希望を取り戻したから、あちらの世界でも夜が明けて、彼が自分を探し出してくれた――というのが先日の事の真相のはずだ。
「つまり、現世において何か強烈な意志の力を示すことができれば、高次元存在は第六世代たちに進化の兆しを認めて去っていく……そうすれば、海に囚われた魂は解放され、人々は黄金症を克服することができる、ということでしょうか?」
「そんな感じです。とはいえ、具体的に何をすれば良いかまでは私にも分かりませんが……」
感覚的にはチェンの考察は間違えてないはずなのだが、理論的に言えば突っ込み所はある。たとえば現世の人々が進化の兆しを見せて高次元存在が去ったとしても、それは既に海に囚われてしまっている人々が黄金症を克服する論拠にならないだとか――そうなると自分たちが迷わずに行動するための指針としては一押し足らない感じはする。
また、仮に自分たちが進化の兆しを見せれば高次元存在が去るとしても、具体的にどうすればそれが成せるのかのアイディアは自分にはない。そうすると、次に何をすべきなのか――提案するのに窮していると、ホログラムとして椅子に掛けているグロリア・アシモフとソフィアとが糸目の男性の方へと向き直った。
「どうするべきか分からないのだったら、やはり海と月の塔の攻略を進めるべきよ。モノリスのコントロールさえ取り返せれば、ひとまず七柱に好き勝手させられることも無くなるわけだし」
「私もグロリアの意見に賛成です、チェンさん。モノリスをレムに返せば、第五世代型達の襲撃もかなり抑えられるようになります。そうすれば、黄金症のこれ以上の進行を抑えることはできますし、あとは時間を掛ければ解決方法も見えてくるかもしれません。
それに……黄金症の進行を一時的に止めたのもアランさんですし、クラウさんやジャンヌさんを戻してくれたのもアランさんです。そうしたら、やはりアランさんが戻ってくれば、何とかなる気がしませんか?」
「どうですかねぇ。確かに原初の虎に異様な爆発力があることは認めますが……しかし、貴女にしては少々非合理なんじゃありませんか、ソフィア?」
「はい、それは自覚しています。でも、私がアランさんを信じてきて間違えたことはありませんでしたから……経験則も何度も当たるとなれば確度の保障になりますし、どの道方策が無いのなら、結局は運否天賦に任せることも必要になるのも間違いではないんじゃないでしょうか?」
二人の少女の説得に対してチェンはどうしたものかと思惑を巡らせているようであり――その傍らで、ただいまチェンを説得していた二人が一気に自分の方へと向き直った。
「そう、クラウさんに聞きたかったんだ! アランさんに会った時のこと、詳しく聞きたいなって!」
「それは私も興味があるわね……別に他人がどこで何をしていようか逐一確認するほど無粋じゃないつもりだけど、流石にあの世とこの世の境界で再会するだなんて、ちょっとロマンチックだもの」
二人の真剣な眼差しに対し、思わず少し噴き出しそうになってしまう。確かに自分が逆の立場なら、何があったのかを聞きたくなるだろう――自らのあずかり知らない所で、彼との関係性に変化があったのではないかと、気が気でないだろうから。
自分としてはより彼に対する想いはより強くなったとも言えるのだが、残念ながら彼からこちらに対する評価はあまり変わっていないというのが正確な所だろう。そうなれば、二人が懸念しているようなことは何一つないのだが――そう思っていると、チェンが呆れたように嘆息をひとつ吐き、両手を叩いて乾いた音を響かせた。




