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13-3:いつかの日に作ろうとしていた物 上

「私たちは、自分で自分の目標を規定する機能を持っていません。なので、命令を下してくれる主人が欲しいのです……そこで、ジブリールと話し合った結果、貴女が最もふさわしいのではという結論に至ったのです」

「えぇ? どうして私なんです? 最後の世代であるチェンさんとかレムとかの方がそれっぽくないですか?」

「それは……」


 首をかしげるクラウディアに対し、イスラーフィールは一度言葉を切り、僚機と目くばせをして互いに頷き合ってから正面の暫定主人に視線を戻す。


「貴女が居たから、私はルーナに破壊されずに生き残ることが出来ました」

「まぁ、私としては第六世代の命令を聞くなんて癪だけれど……一応、アナタはルーナを倒したみたいだし。力は認めてあげなくもないってことよ」


 生意気そうな声で高圧的なセリフを吐くジブリールに対し、イスラーフィールは「コラ」と小さく窘めた。クラウディアは微笑ましそうにその様子を眺めており、まったく怒った風もないのだが――イスラーフィールは再び正面へ向いて「失礼しました」と一言添えてから話を続ける。


「でも、ジブリールの言うことも一理あるのです。貴女は元の主人であるルーナを倒して見せましたから、その力を尊敬しているという部分もあります。

 何より、一度は貴女を苦しめた私たちを救ってくれたその度量に感服しまして……それで、貴女こそ新たな主人として相応しいと考えた次第です」

「うぅん、なるほど、なるほど……言いたいことは分かりました。ひとまず、おかわりを持ってきてもらっても良いですか?」


 クラウディアは両腕を胸の下で組みながら大げさにうんうんと頷いて後、満面の笑みで空いた皿をイスラーフィールの方へと差し出した。二人は「ただちに」とだけ言い残して休憩室を去り、戻って来た時にはジブリールが料理をこんもりと乗せた皿を持ってきてクラウディアの前へと置き、そして先ほどと同様に席についた。


「ありがとうございます。それで、私がアナタ達の新たな主人となる件ですが……丁重にお断りさせていただきます!」


 クラウディアは元気よくそう言って後、山盛りの料理に向けて食器を動かし始めた。熾天使たちも再び互いに目配せをしてから――最初は何を言われたか分からなかったのだろう、唖然とした様子であったのだが――すぐに抗議の意志を示すためなのか、ジブリールの両拳が机に叩き落とされた。


「何よ、アタシ達じゃ役に立たないってわけ!?」

「確かにパーツは間に合わせですし、以前のように戦うことは出来ないと思いますが……」

「いえいえ、そういう訳じゃないんです。というか、ある意味では自己保身のために断っているんです」

「……どういうことでしょうか?」

「単純に、私は主と慕われるような器ではないってことです。正確には、そうやって分不相応に誰かを従えてしまえば、きっと自己が肥大化してしまいますから……アナタ達が抵抗したローザ・オールディスのようになってしまうかもしれないって思ったんです。

 今なんか、アナタ達に言うこと聞いてもらって思わず気持ちよくなっちゃいましたからね。きっと私なんかが誰かを従えたら、簡単にダメ人間になっちゃいます」


 クラウディアはそうあっけらかんと笑って見せる。成程、彼女の言うことには一理あるだろう。悪い意味ではなく、確かに彼女は小間使いなど持たない方が良いに違いない。何者かを仕えさせるということにも向き不向きはある。状況の全体感を把握し、時に厳しく、冷静に指示を出せるタイプであれば問題ないのだが、彼女に関してはそういうタイプでもない。


 もちろん、仮に熾天使たちがクラウディアに服属するようになったとしても、彼女がローザ・オールディスのように自己を肥大化させるとも自分は思わないのだが。しかし長く主従関係が続けばどうなってしまうかも分からないし――それに、彼女としては折角自由になった二人を再び誰かに縛り付けたくなかったに違いない。


 ただし、それはクラウディア側の事情の話であり、熾天使達の心情に即した意見ではない。その証拠に、イスラーフィールとジブリールは視線を落としてふさぎ込んでしまっており――とりあえず、少し場を和ませるために一言添えることにする。


「確かに、優秀な熾天使が小間使いになったら、すぐに貴女など堕落してしまうでしょうね」

「ほほぉ……寮生活していた時にだらしなかった誰かさんのお話でもしましょうか?」

「止めてくださいクラウディア、その話は私に効きます」


 実際、寮生活をしている間はクラウの世話になることが多かった。彼女は性格こそいい加減に見える一方で家事をそつなくこなすのに対し、自分は一応名門の出であり――もちろん、寮生活を前提とするので早くから自立した生活をするように求められはするのだが――彼女ほど家事が得意でなかったのも確かである。


 今は自分の生活感も少し改善されていると思いたいが、一緒に生活をしていたころは大分世話をしてもらっていたと言っても過言ではなく――ともかくそれを思い返すと恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになる。かつての同居人はニヨニヨと口元をほころばせてこちらを見て後、熾天使の方へと視線を戻した。

 

「生活感皆無なお嬢様は置いておいてですね。そもそも、誰かがアナタ達に命令を下す必要もないと思うんです。

 その証拠に、アナタ達は自分で自分の行動を決めたじゃないですか。ルーナに抗い、友だちを救おうとした……キチンと自分のやりたいことがあるんですよ。それなら、その意志に従って、やりたいことをやればいいじゃないですか?」

「しかし、私はジブリールを取り戻すという目標を達してしまいました」

「ふむぅ……それなら、新しい目標を見つければ良いと思うんですが、どうでしょう?」


 熾天使の二人はクラウディアの提案に対し、言葉に詰まっているようだ。正確に言えば、優秀な人工知能を持つ彼女たちは答えを何通りも弾きだしているのだろうが、それが目の前の彼女を納得させるものかというのに確信を持てずに押し黙ってしまったということだろうか。


 肝心のクラウディアは、むしろ何でもいいから意見を出してほしかったのだろうと思うが――どうやら重症だと判断したのだろう、クラウディアは食事の手を止めて二人の熾天使を交互に見て、どこか大人びた表情を浮かべながら人差し指をピンとたてた。

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