13-2:ノーチラスの食堂にて 下
「本当に大丈夫なんですの?」
「えぇ、えぇ、大丈夫です……ただ、無理やり身体を治したので、やっぱり栄養は必要ですね!」
毎回ぶっ倒れていたアラン君と同じです、そう言いながら料理を口に運ぶクラウディアは、自然と肉も口にしていた。曰く、諸々と弱点を克服したのだとか。クラウとティアの記憶が統合されたおかげで全てを思い出し、同時にトラウマを克服したのだとか。また、方向音痴も克服したらしい。本人は迷いがなくなったが故に方向感覚が掴めたのだとか非合理的なことを言っていたが、今の彼女には異様な説得力があるので、あながち嘘でも無さそうな所が性質が悪い。
「……あまりにパーフェクト美少女で隙が無いと、親しみも出ないですかねぇ」
「何を真顔でくだらないことを言っているんですか」
「いえいえ、愛されキャラとしては結構重要なことなんですよ? 適度に抜けているところがあった方が、突っ込みやすいじゃないですか」
「大丈夫です、突っ込みどころだらけですよ、貴女は」
「えへへぇ、そうですか? 照れますねぇ」
「全く褒めていませんわ」
「そうやって突っ込んでくれるの、嬉しいですよアガタさん」
口調やジョークのノリはクラウのモノだが、同時に彼女特有の卑屈さが無くなっており、どことなく底知れない雰囲気を纏っているのは以前のティアと近い感じがする。そう思うと今の彼女はクラウでもありティアでもあり、同時に自分が知る彼女ではないような気がして――。
「……何となく、寂しいですわね」
思わずそうごちてしまう。自分の知るクラウディア・アリギエーリという少女は、確かに凄い力を持っている子だった。そういう意味では、彼女の努力が功を奏し、本来あるべき姿になったとも言えるのだが――そこには自分の知る彼女が、自分を置いて一気に大人になってしまったような寂しさがある。
しかし、それを口にするのはマズかったか。本来なら友の成長を喜ぶべきなのに。そう思って口を抑えると、クラウディアは紫色の綺麗な瞳を丸くしてしばらくこちらを眺めた後、食べ終わった食器を傍に避けて両の手をぽん、と叩いた。
「そうだ、まずはお礼を言うべきでした!」
叩いた両手をこちらへと差し出し、クラウディアは机の上に置いていたこちらの左手を優しく握ってきた。
「アガタさん、ありがとうございます。私が今、この場に居られるのはアナタのおかげです」
「そんな……貴女が頑張ったからこそです。こちらこそ、何度も命を救ってもらって……」
「そういうことじゃないんです。私が言いたいのは、物理的な面じゃなくて精神的な面と言いますか……私は何度もつんけん突っかかってしまったのに、アガタさんは嫌な顔一つせずに私に向き合い続けてくれました。
クラウが迷子になっている間も、ずっとアナタがティアを支えてくれたから……アナタが名前を呼び続けてくれたから、私も迷わずに現世に戻ってくることが出来たんです。だからありがとう、アガタさん」
そう言いながら、クラウディアは柔らかな笑顔をこちらへと向けてくる。その所作が美しく、同性ながらにドキリとしてしまうほどであり、手を握られてしまっていて逃げることも出来ずに困ってしまう。
それに、何より――真っすぐな視線から逃げるように顔をそむけると、その先には部屋の隅でこちらを見つめている二人の姿がある。
「あの、あんまり見られている所でそう真面目に言われると恥ずかしいのですが……」
「あぁ、何故だか先ほどからずっと私に着いてくるんですよね。イスラーフィール、ジブリール、どうしたんですか?」
クラウディアは握っていた手を離し、そのままこちらを凝視している二人の熾天使を手でこまねいた。イスラーフィールとジブリールに関しては、レムの指示の元でT3が簡易の修理を進めてくれた。
とくにジブリールの管理者権限に関しては、以前にアシモフがイスラフィールにしたように、ルーナからレムに書き換えたため、簡単に操られてしまう心配はなくなった。体の修理は間に合わせであり、元々特注品で作られていた二人は戦闘方面においては力を引き出せなくなってしまっているが、ひとまず動く分には問題はないようだ。
クラウディアに招かれた二人はおっかなびっくりといった調子で机の側まで歩いてきて、立ったまま話を始めようとしたところを座るよう促され、自分の左隣にイスラーフィール、ジブリールと並ぶように座った。




