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幕間:ハインラインという血族 中

「いいわね、その反抗的な目。暇つぶしには丁度良さそうだわ」


 リーゼロッテは嬉しそうに目を細めてこちらを見ており――しかし油断も隙も無い。どうする、こちらから仕掛けるか――緊張の中で判断に迷っていると、リーゼロッテが前進してきた。


 喉元を目掛けてきた相手の突きをギリギリで身を引いて躱し、接近してきた相手に対して右手の神剣で斬撃を繰り出す。しかし、それは相手の宝剣によって止められてしまう。その後は互いに剣戟を繰り出し、刃で打ち合った。


 互いに剣の力を引き出すことはしていない。というのも、引き出したところで無駄だからだ。重力波は神剣の加護で――神剣も宝剣と同じく特殊な鉱石を用い、重力に指向性を与える能力があるらしい――無効化できるし、神剣の強化が掛かれば同じだけ身体能力が増すだけだからだ。


 そもそも、精神世界で重力波が発生させられるかということすら不明だが――恐らく出せると言えば出せるし、無意味と言えば無意味だ。ここは精神世界であり、勝負を分けるのは、やはり精神力のみなのだから。


 とはいえ、今のところは互角にやり合えている。その事実に対してリーゼロッテは楽しみを見出しているのか、銀色の双眸は輝きを増し、微笑みを浮かべていた口元は攻撃的に釣りあがっている。


「戦闘において、型など不要……状況に合わせて常に柔軟に自身を適応させ、対応しなければならない。強いて一つの正解があるとするのなら……!」


 語尾が強くなったのと同時に、リーゼロッテの強力な斬撃がこちらの神剣を吹き飛ばしてしまった。そしてすぐさま宝剣の切っ先をこちらの喉元に突きつけ、ぴたり、と綺麗に制止してみせた。


「ただ最速で相手の急所を突き、勝利すること。それが私の流儀。それは私の子孫たちにも継承されていたようだけれど……迷いがあるようじゃ、私を超えられないわよ」


 言いながらリーゼロッテは宝剣を引き、神剣を握った右の拳でこちらの肩を叩いてきた。その衝撃で自分は後ろへ吹き飛ばされた。


 存外にやり合えていると思い込んでいたのはこちらだけで、彼女は手加減をしていたのだ。単純に、本当に暇つぶしの相手として加減して遊んで、少し力を出しただけ。もし加減などしていないのだとしても、死線を潜り抜けてきた数の違いなのか、それとも戦士としての資質の違いなのか――やはり彼女の方が一枚も二枚も上手か。


 だが、もう一度――剣を握って立ち上がり、今度はこちら側から仕掛けることにする。リーゼロッテは微笑みを浮かべながらこちらの攻撃を躱し、打ち合い、いなし――やはり届かないのか、そう焦りが生まれた刹那、相手のアウローラがこちらの胸に突き刺さっていた。


 心臓を貫かれ、本当に息の止まる心地がする。肉体的な痛みこそないのだが、これが現実なら自分は二回は死んでいる。この戦いは精神の勝負であり、どれだけ剣で傷つけられた所で死には――実際に刺された箇所はすぐに粒子をあげて復元している――しないのだが、やはり精神力でも彼女に敵わないのだと思い知らされる。


 その事実を突きつけられるほど、剣の鋭さも鈍る。腕にも段々重みを感じ、足は鉛のように重くなり――もう一度打ち合って、今度は眉間を刺されて後、次こそは立ち上がれなくなってしまった。


「……あら、諦めるの? アナタの反骨心ってそんなものなのかしら?」


 そうは言われても、彼我の差は歴然、今のまま戦ったところで彼女を超えることはできない。再び心が折れてその場にへたりこんでしまう。しばらく無言が続くと、上から一つ小さくため息が漏れ――リーゼロッテは再び自分の隣に腰かけたようだ。


「そうだ、丁度いいから昔話でもしましょうか……アナタとはある程度の記憶を共有しているけれど、知識としてはまだ知らせていないこともある。何故アナタの父が不義を働き、王の妻を寝とったのか……気にならない?」


 思いもよらない言葉に、釣られた魚のように顔を上げて彼女の方を見てしまう。


「気になるって顔をしているわね。それじゃ、暇つぶしに少し話をしましょう。ハインライン辺境伯は代々私の子孫が継いでいる訳だけれど……元々、この星に着いた時には私の身体は、超長期間の冷凍保存で母体としては機能しなかった……それに既に高齢だったから、普通の出産は出来なかったでしょうけれどね。

 それ故に、私のDNAから人工子宮を培養し、適当な第六世代型アンドロイドと交配したのが初代ハインライン辺境伯。

 辺境伯を作った理由は二つ。一つはハインラインの血脈が魔王征伐というシステムに組み込まれることで、七柱の創造神に箔をつけること。レムリアの民に敵対するものと戦う武家として機能させることで、七柱の名声と信仰を強めるのが目的の一つだった。

 そしてもう一つが、有事の際に私が人格を転写できる器として機能すること。その場合、なるべく遺伝子情報はオリジナルに近い方が身体を操作するのに違和感も無くなる……つまり、どういうことか分かる?」


 他所の血を入れれば入れるほど、遺伝子情報は変容していく。一族としての純血を守るのならば、その逆をすればいい。つまり――。

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