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12-96:ノーチラス号発進 上

「くっ……エルさん! いつまで体を好き勝手にさせちゃってるんですか!? そんな恥ずかしい恰好をしてないで、早く目を覚ましてください!」


 目の前にいる身体の主に対して声をかけたのは、ほとんど無意識だった。とはいえ、実際にエルが武神ハインラインに打ち勝ってくれれば事態は丸く収まるのも間違いない。


 もちろん、身体のコントロールを取り戻すことは容易でないことも理解している。かつてエルフの集落で自分が抗えなかったように、第六世代型アンドロイドは七柱の創造神に対して絶対の服従を強いられる。脳内に埋め込まれている生体チップによる指令は根性や精神力で覆せるようなものではないのだから、エルがリーゼロッテから身体のコントロールを奪い返すことはほとんど不可能に近いはずだ。


 こちらの声掛けに対し、リーゼロッテは無表情のまま鋭い突きを繰り出してくる。それを七星結界級で受け止め――八重桜は負担も大きい――少し場が膠着している間に、リーゼロッテはどことなく寂しげに口を開いた。


「無駄よ……あの子が身体のコントロールを取り戻すことは無い」

「それは、アナタが奪っているから! エルさんは眠っているだけで……」

「いいえ、エリザベートは目覚めているわ」


 なんとなくだが、リーゼロッテは嘘をつくタイプではないように見える――雰囲気を見るに、事実エルは目覚めており、しかしリーゼロッテから自らの身体を取り返そうとしていないのかもしれない。要するに――。


「……エリザベートの心は、アラン・スミスを死地に送り込んでしまったことで折れてしまった。いいえ、それだけではない……この子は自らの力に怯え、何度も仲間に刃を向けてしまったことを悔い、もはや戦う心を失ってしまっている。

 今だって、おっかなびっくりに私にアナタを傷つけないでと懇願するだけで、身体のコントロールを奪い返す様な気力は見せられていないの。そんな弱い精神力で、私から身体のコントロールを奪い返すなんて不可能よ」


 そう淡々と語るリーゼロッテは、心の奥底ではつまらないと感じているようにすら見える。もしかすると、遠い子孫に対して、自らの支配に抗うくらいの気骨を見せて欲しいというのが彼女の本音なのかもしれない。


 しかし――彼女の言うことが事実としてだが――何ともエルらしい話だとも思う。よく言えば優しく控えめなのだが、悪く言えば優柔不断で、我を貫き通す強さが無い。


 もちろん、確かにエルはエルフの旧集落でアランの心臓を貫き、その後に光の巨人の元へと飛ばしたのだから、ある意味では二回も彼が死地を彷徨う原因を作ったとも言えるのだし、へこむ理由は理解できなくもない。しかし、当のアラン・スミスはまったく気にしていないのだから、彼女の心配など杞憂にしかならないのだ。


「エルさん、聞いてください! アラン君なら大丈夫です! ピンピンしています!」

「……何? どういうこと?」


 本来はエルを元気づけるためにアランの名を出したのだが、むしろリーゼロッテの方が食いついてきた。彼女はこちらから間合いを離し、話の続きを待っている――周囲を回復させるチャンスとも一瞬思ったが、恐らく話の続き以外には翡翠色の太刀が飛んでくるだろう。


 それに、へこんでしまっているエルのことも元気づけたいという気持ちもある。それならば、身体の奥に引っ込んでしまっている彼女に向けてメッセージを届けることにしよう。


「私は……クラウディア・アリギエーリの分かたれた魂は、高次元存在の元へと送られていました。そこで、彼に会ったんです。彼が私を探し出してくれたからこそ、私は自分を取り戻すことができ、こちらへ戻ってくることができました。

 彼の魂はいまだ健在で、現世に戻るチャンスを待っています……魂が宿る器さえ修復できれば、彼をこの世に蘇らせることができるんです」


 あまり細かく彼と打ち合わせしたわけではないが、原理原則的にはそういうことのはずだ。自分やジャンヌは還るべき器があったから戻ってこれたのに対し、アラン・スミスにはそれがない――既に自我を取り戻している彼がこちら側に戻ってこれないのは、偏に肉の器が魂が戻れないほど破損してしまっているからのはずだ。


「そういう意味では、エルさん。アナタがやったことは絶対に間違えてなかったんです。アラン君があの時に身を挺して光の巨人に突貫しなければ、私たち第六世代アンドロイドたちは絶望に心を落とし、惑星レムの歴史は終わりを告げていたでしょう。

 それに、仲間に刃を向けたのが何だっていうんですか! 私だってアラン君やアガタさんとやり合いましたし、ソフィアちゃんなんか無駄にナナコちゃんに突っかかってるんですから!」


 思わず流れ弾に当たったせいか、ソフィアが肩を動かした。話しているうちに段々とテンションが上がってきて余計なことまで言ってしまったようだ。ただ、元々はソフィアの方が一言多い性質ではあるし、そもそも味方に刃を向けてしまったことを気にすることもないと思う。ふっかけられたアランやアガタ、ナナコらは事情を理解してくれているし、まったく気にしていないのだから。

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