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12-94:武神襲来 上

「……来る!? 皆さん、気をつけて!」


 直感の通り、空には亀裂が走っていた。ほとんど条件反射で補助魔法を全員に掛けなおし、同時に自分の身を護る結界を張る。直後、亀裂から突き出された切っ先から漆黒の球体が現れ、ローザ・オールディスを目掛けて急速に落下してきた。


 地上に降りてきた球体が弾け、それを中心に強力な重力波が発生する。その威力は自分が知るものよりも遥かに強く、補助魔法による強化無しでこの場に居れば簡単に自分たちも肉塊にされてしまっていたに違いない。


 自分は八重の結界に護られており無事であるが、他の者たちはどうか――補助魔法を掛けたから皆無事であると思いたいが――重力並の中心に光が引き込まれているせいで視界が全く機能しておらず、周囲がどうなっているのかは確認できない。


 それだけでなく、猛烈な闘気を感じ、ほとんど反射で気配のする方へと手を伸ばした。掌に重い衝撃が走るのと同時に、結界を中心に翡翠色の剣戟が自分の体の左右を走っていき――結界を出していなければやられていた――そしてその光が重力波を両断し、辺りに正常な音と光とが戻ってきた。


 改めて周囲を見回すと、今の強力な重力波によって自分以外は倒れてしまったようだった。とはいえ、みな呼吸はあるようであり、回復魔法を掛ければすぐに立て直すこともできるだろう。


 だが、そんな安易な行動をあの人が許してくれるとも思えない。ローザの臥している場所のすぐ近くで、赤みがかった黒い髪を風になびかせ、こちらを興味深そうに見つめている美しい剣士。狼にも似たその気配に、銀の双眸でこちらを興味深そうに見つめてきている。


「へぇ、完全に油断しているのかと思ったけれど……アナタ、やるわね」

「エルさん……いいえ、リーゼロッテ・ハインラインですか」

「でも、丁度良かった。一番おもしろそうと思っていた相手が残ってくれたのだから」


 こちらの言葉を無視し、武神ハインラインは二対の剣を構えなおした。その背後では、ローザが顔を上げてハインラインを見つめている。重力波の中心にいたのに平然としているということは、リーゼロッテがわざわざ彼女を神剣による加護で重力波のダメージを与えないようしていたということなのだろう。


「リーズ、妾を助けに来てくれたのか……?」

「半分はその通り。月の管理なんて面倒くさいことはアナタに押し付けたいしね。残り半分はACOの連中がどんなふうに動くか観察させてもらうのに利用させてもらったのだけれど。でも、まぁ……」


 そこで言葉を切り、ハインラインは神剣の切っ先で倒れている仲間たちがいる所をなぞっている。


「こんな大勢で一人を寄ってたかって虐めるなんて、何だか不憫だったっていうのもあるわね」

「ルーナの策を私達全員で打ち破った結果として、最後に残ったのがローザ・オールディス一人だっただけですよ」

「えぇ、アナタの言う通り……でも、私達も一応協力関係なの。それなら、ピンチを互いにフォローくらいはするし、何よりアナタ達の力は無視できないほどに成長した……何せ、熾天使級を複数体相手にして勝利するグロリアとの融合体に、気象コントロールを破壊するほどの威力を撃ちだす勇者のクローン。何より……」


 ハインラインは倒れているソフィアとナナコを見ながらそう言って後、最後には自分の方へと神剣の切っ先を向けた。


「第八階層魔術を防ぐだけの結界を操り、誰かさんに近い程の未来視を扱うアナタ……下手をすれば、私達を滅ぼしかねないほどに強力よ。そうなれば、一人でも多く味方はいたほうがいいもの」

「かの武神ハインラインに評価いただけている様で恐縮ですね」

「そういう軽口も、誰かさんの真似かしら? ともかく、私の奇襲を防いだのが偶然なのか、それとも彼と同じような直感を持っているのか……試してみたいっていうのが本音よ」


 一度言葉を切り、ハインラインは首だけ回して背後で臥しているセレナとだったものを見下ろす。


「さ、ローザ。あの火口に出来ている亀裂まで辿り着ければ、海と月の塔へと帰れるわ。アナタが退避している間は、私が時間を稼いであげる……さっさと行きなさい」

「ひ、ひぃぃ……!」


 確かに、いつの間にか火口付近に亀裂が生じている――アルファルド神、星右京が繋げているということなのだろう。ローザはハインラインに言われた通りに火口を目指し、ほとんど機能していないであろう折れ曲がった四肢を何とか動かしながらその亀裂へと這い出した。


「やらせません! 皆さん、回復を……」

「やらせないはこっちのセリフ!」


 ダウンしている味方を復活させようとするが、それは神剣アウローラから放たれた光波によって阻まれた。受け止めること自体は七星結界級の結界を持ってすれば十分に可能なのだが、手がふさがってしまうので回復魔法を発動させることができない。


 誰かが自然と復活してくれれば――とくにチェン・ジュンダーが復活してくれれば、彼が回復魔法を使うことで立て直せるだろう。実際、ローザを倒すために執念を見せているのか、チェンにT3、ブラッドベリは地に手を下ろして起き上がろうとしている。


 しかし、それを見逃してくれる武神ハインラインではない。再び巨大な重力波が叩きつけられ、同時に辺りの様子も見えなくなってしまった。こちらとしても、迫りくる相手の気配に向けて対応せざるを得ない――あの怪我ゆえにローザ・オールディスが亀裂に辿り着くまでには時間も掛かるだろうが、あまりうかうかしていられないのも確かだ。


 そもそも、重力波に巻き込まれていれば味方もダメージが蓄積され、助からなくなってしまうかもしれない。何にしても、この重力の発生源を止める必要がある――そう覚悟を決めて、漆黒の中から現れる鋭い殺気に向けて反撃を始めることにする。

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