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12-80:第八代勇者の残滓と魔王 上

 ルーナが現れて直後、自分とゲンブ、セブンスの三人はブラッドベリと対峙していた。本来はブラッドベリを操っているであろうルーナを仕留めるのが最優先ではあるものの、魔王が放つ漆黒の衝撃波を無視して攻撃に転ずるのも難しい。


 何よりも――。


「くっ……ブラッドベリさん、正気に戻ってください!」


 衝撃波を大剣でいなしながらも、セブンスがブラッドベリを止めようと涙ぐましい努力を続けており、自分としてはそれを放っておくことが出来なかった。元より何名かはブラッドベリの足を止めるのに戦力を割く必要もある。いくら不死身の肉体を持つと言えども、ダメージを与えれば再生のため時間を稼ぐことはできるはず。


 何よりも、ブラッドベリは自分たちが一度倒したことのある相手でもある。今は戦力が分散しているため、トリニティ・バーストを利用できていないのは手痛いが、以前に対峙した時よりも自分も力をつけており、そう遅れを取ることも無い――そう思っていたのだが、事態はそう簡単でもなかった。


 まず、単純に漆黒の衝撃波が攻防一体であり、その威力が精霊弓の一撃を減退させてしまう。また、自分の記憶の中にある魔王よりも今のブラッドベリは反応速度が向上しているようであり、致命的な一撃は上手く躱しているようである。何とか隙間を縫って攻撃したところで、多少の受けた傷はすぐに修復してしまうので、相手の攻撃の手を止めることもできない――恐らく勇者と対峙する時には幾分かリミッターを掛けられているのであり、これこそが魔王ブラッドベリの真の実力と言うことなのだろう。


 同時に、ブラッドベリの乱雑な攻撃はこちらを仕留めるには足らない。あの暴風の中心に入っていくという危険さえ犯さなければやられることもないのだが、逆を言えば不毛な膠着状態が続いているとも言える。


 いや、向こうの方が無尽蔵な分、こちらの方が不利と言えるか――当たりはしていないだけで衝撃波の威力は本物であり、当たってしまえば致命傷になり得る。とくに自分の義肢は回復魔法で修復が出来ないので、長期戦に備えるのならば義肢を損傷させるような動きは控えなければならない。


「……こうなれば、一か八かですね」


 自分とセブンスに補助魔法を掛けて後、何やら策を考えているであろうチェンが、器用に衝撃波を避けながら自分とセブンスの方を向いて口を開いた。


「T3、セブンス! ブラッドベリを止めるためには荒療治が必要です! 彼の脳内にある生体チップを直接破壊してください!」

「え、えぇ!? それ、大丈夫なんですか!?」

「問題ありません。彼は細胞の一片からでもその身体を再生できますから。しかし、いたずらに頭部を破壊してもチップも同様に再生してしまいますから……T3、これを」


 ゲンブがこちらへ接近してきて、袖から何やら長い針のような物を持ち出してこちらへ差し出してきた。


「これは?」

「急ごしらえの一品ではありますが、レムに依頼して調整してもらった特殊な抗生物質です。これがあれば、ブラッドベリの体内にあるナノマシンの再生機能を部分的に停止させられます。ですが、狙いが狂えば……」

「奴の脳を完全に破壊してしまうことになる、か」


 こちらの言葉に対してゲンブは小さく頷いた。ブラッドベリに埋め込まれている生体チップは再生可能ということであるのなら、恐らく脳細胞と同質の組織で形成されている。つまり、この針はチップを破壊可能というよりも、ブラッドベリの不死身の体組織を破壊できる装置と言うことになるのだろう。


「脳の一部分を正確無比に貫くというのは、まさに針の穴に糸を通す様な精密な動きが必要になります。それどころか、相手はあのように暴れまわっているわけですから、その難易度は非常に高いものです……仮にトドメになってしまったとしても、彼をそのまま七柱に利用されるよりはマシと考えるしかありませんね」

「……私を侮るなよゲンブ。以前からブラッドベリを仲間に引き込むということには乗り気では無かったが、気が変わった。私が奴を止めて見せよう……必ずだ」


 奴もまた、七柱にその生を弄ばれた者の一人。何より、困難なミッションを自分にこなせないと思われるのも癪だ。そう思いながら受け取った針を強く握り、暴風の向こう側で猛り狂う魔王の姿を見据えていると、隣から静かな笑い声が聞こえた。


「ははは、心強い。皮肉でなしにですよ。今の貴方には、困難なミッションをやり遂げるという凄味がある」


 ゲンブは一度言葉を切って、自分と同じように黒い衝撃の奥を一度見つめ――しかしすぐに後方で苦戦しているレムとその従者達の方へと振り返った。


「ブラッドベリは強敵ではありますが、この場での優先度はルーナの方が高いです。私はレム達の援護に回ります」

「あぁ、こちらは任せておくがいい。七柱の首を貴様に譲るというのだ、しくじるなよ」

「そちらこそ……生体チップは通常、記憶を司る海馬に埋め込まれています。T3、任せましたよ」

 

 それだけ言い残し、チェンは凄まじい速さでルーナの方へと向かって行った。ADAMsを起動させていないのにあれだけの速度がだせるとは驚きだが――ともかく自分がチェンとやり取りをしている間に上手く攻撃を凌いでいてくれたセブンスが自分の元へと合流してきた。

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