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12-76:怪物が生まれた理由 上

 ソフィアがルシフェルを引き付けてくれている間、とくに自分とアガタはルーナの相手を引き受けていた。ブラッドベリについてはチェン・ジュンダーとT3が上手く引き付けてくれており、同時にブラッドベリはルーナを攻撃できない様に命令されているはず――それ故、ある意味ではルーナの近くほど流れ弾が来る可能性は低い。


 また、急遽この場に転送されてきたという都合上、ルーナの護衛はジブリールのみ。それもイスラーフィールがこちらへ近づけさせないように対処してくれているおかげで、自分たちは因縁の相手に専念できると思っていたのだが――。


「くっ、いつも後ろで隠れているだけかと思っていたけど……!」


 アガタと波状攻撃を仕掛けても、どうにもルーナに上手くさばかれてしまう。アガタと同じくらい細身で小さな身体なのに――もちろん、そのアガタは凄まじい重さの武器を振り回しているのだから、見かけなど当てにならないのかもしれないが――見事な体捌きでこちらの攻撃をいなし、時にこちらの獲物をその細い手足で迎え撃ってくる。


 その拳や足先には、常に第六天結界クラスの斥力が働いているため、アガタの棍棒もこちらのビームトンファーも受け止められ、弾かれてしまう。まさしく今も両者攻撃が弾かれ、そのまま後ろへと跳び、間合いを離されてしまった形だ。


「ローザ・オールディスの転写先であるセレナという個体は、第六世代はもちろん、その素体だけで通常の第五世代型を遥かにしのぐ性能を持っています。その上に最高クラスの戦闘プログラムと、かつてデイビット・クラークが使用していた防御プログラムを備え、同時に枢機卿クラスの神聖魔法による補助魔法に、最後の世代しか使えない七星結界まで利用できる……殲滅力こそ控えめですが、その継戦能力と防御力は熾天使に並ぶほどです」


 自分とアガタの間をレムが浮遊しながらルーナの強さを説明してくれる一方で、その姿を見たルーナは怪訝そうに眉をひそめた。


「レム、この死にぞこないめが!」

「これで生きているというのもおかしな話ですが……あの人を止めるまでは、しぶとく抗い続けるつもりですよ」

「ふん! 従者のアクセサリにマイクロチップを忍ばせ、そこに人格のコピーを作っておったのじゃろうが……小賢しいペトラルカの娘と共に砕いてくれる!」


 ルーナは叫びながら一気にこちらへと攻め込んできた。その速度はADAMsを起動したアラン並とまでは流石にいかないものの、それでも人の身では本来出せないような速度だ。


 自分がギリギリ反応してアガタへ向けた攻撃を防げたのは、一応この一年の修練のおかげであったとは思う。ソフィアほど劇的な強さこそ得られなかったが、近頃妙に勘は冴えわたる――肉眼で追うことのできなかったルーナの動きに対し、ほとんど直感で攻撃の軌道を読み、チェンから渡されていた札を突き出す。七星結界に阻まれたとなれば、流石のルーナも攻撃を弾かれ、今度は長く美しい白髪が宙を舞った。


「ちっ……忌まわしき解離性人格障がい者が、妾の邪魔ばかりしおって……脆弱な主人格と共に消え去ればよかったものを!」

「……ボクの人格は望まれて生まれてきたわけじゃないけど、お前みたいな卑劣な奴に為されるがままにさせないためには、生じてよかったと思っているよ」


 憎々し気にこちらを見つめるルーナに対し、こちらも負けじと悪言を返す。解離性人格障害の成り立ちについては、レムから共有を受けている。クラウの幼少の頃の過剰なストレスがティアという人格を産んだのであれば、ある意味では自分は不幸の産物であると言えるだろう。


 しかし同時に、数奇な運命であったとも思う。もしクラウディア・アリギエーリの両親や生まれた村がもう少し全うであったのなら、ティアという人格は生まれず、クラウディアはこの悪神に良いように使われていたのだろうから。


 しかし、クラウのことを脆弱などと言うのはやはり許せない。そう思いながら相手を睨みつけていると、アガタとレムが横に並んだ。


「ティア……援護、ありがとうございます」

「それに、ローザの言うことを気にすることはありませんよ、クラウディア」

「……妾のことをローザと呼ぶな!」


 何が気に食わなかったのか、ローザと呼ばれたルーナは再び大地を強く蹴り、こちらへと肉薄してきた。冷静さを欠いているおかげか、動き自体は読みやすい。だが、怒りに任せた攻撃の重さは本物であり、自分とアガタは防戦一方という様相になってしまう。


 そしてやはり、ルーナの攻撃はアガタに、正確にはレムの宿るアンクへと向けられているようであった。

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