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12-71:魔王城再び 中

 宇宙船の内部を登って最上階へと抜けても、まだ外は真っ暗だった。そのまま火口の方へと向かって行くと、チェンを中心としてイスラーフィール、ソフィアらが石像らしきものの前で何某かの作業を続けていた。三人に対して労いの言葉を掛けつつ、自分もその石像の前へと立ち、その長身を見上げてみることにする。


「この人が、魔王ブラッドベリ……」


 ホークウィンドと並ぶかそれ以上の巨躯に、頭部には立派な角を生やしたその出で立ちは、なんだか魔王と呼ぶには相応しいように思われた。印象的なのはその表情で、驚きに瞼を見開き、何かを叫ぼうと口を大きく開いている。


 初めて見たはずなのに何となく見覚えがあるのは、自分が夢野七瀬のクローンだからだろうか――もしくは、自分がそう思い込んでしまっているだけなのか。しかし何となくだが、彼を見ていると申し訳ないような心地がしてくる。


 魔族とレムリアの民との共存を頼むという夢野七瀬の願い、それをブラッドベリが望んでいた訳ではないとは聞いている。彼は同族と敵対関係にあったレムリアの民も恨んでおり、この星を魔族の楽園にしようと考えていた――そうなれば、共存というのを受け入れられないという事情は理解できる。


 しかし、ただ迫害されるよりは、共存の方がまだマシであるとは考えてくれていたように思う。そういう意味では、彼は夢野七瀬に期待もしてくれていたのだろう――自身が第八代勇者に敗れても、もしかしたら魔族たちはもう住むところを追いやられずに済むかもしれない、そんな期待を抱いて三百年後に目覚めた彼の失望を考えると、胸が締め付けられるような心地がする。


 視線を落とすと、石像の腹部に見おぼえるのある剣の柄が刺さっていた。ミストルテインに似ているそれは、恐らく聖剣レヴァンテインなのだろう。武器が刺さったままというのも、また何とも痛ましい感じがするが――そこに関しては戦士たちが己が信念を掛けて戦った結果であり、致し方ない部分であるだろう。


 そんな調子で一通り石像の観察が終わって振り返ると、丁度チェンがレムに対して声を掛けているところだった。


「封印の解除はできそうですか?」

「えぇ、解析してみたところ、どうやら解除コードは変わっていないようです。まさか我々が、魔王を改めて味方に引き込もうとするなど右京も考えなかったのかもしれません」

「どうでしょうね。我々を油断させる星右京の罠の可能性もある」

「貴方はあの人を過大評価していますよ、チェン。彼にも案外抜けているところもあるんです……何か予想外のことがあったら雲隠れして対策を練って、解決できそうになったら『全てお見通しだったよ』というドヤ顔で出てくるだけなんですから」

「ははは、彼を一番よく知る貴女がそう言うのならそうなのでしょうが……」

「実際、この場で貴方が居た時やピークォド号が落ちてきたときは、彼は内心かなりビビってましたよ。アランさんが居たからこそ、あの人はアナタの策を切り抜けられたと言ってもいいでしょう」

「つまり、貴女がアラン・スミスを蘇らせていなかったのなら、私の策は通用していた訳ですね? この場で勇者シンイチを倒していれば、結果として星右京を眠らせることに成功し、彼が復活の権限を持つハインラインの復活もありませんでした。あとは手筈通りにアルジャーノンを奇襲にて封印さえしていれば、ルーナさえ倒せれば予定通りに我々の勝利が確定していたと……」

「……チェンさん」


 チェンが淡々とそう話していると、ソフィアが遠慮のない睨みを利かせた。責められているレムやその従者のアガタではなく、真っ先に反応したのがソフィアというのが気に掛かったが――少し考えて理由を理解できた。


 恐らくソフィアはアラン・スミスと出会わなかった世界を考えられないということなのだろう。だから、アランが蘇らない世界を考えたくもないに違いない。対して少女の凄味に反省したのか、チェンも咳ばらいを一つしてからレムの方へと向き直った。


「そうですね、私も意地が悪かったです。たらればの話をしても仕方ありませんし……半年間も星右京を封印できれば大きなアドバンテージになっていたでしょうが、直ちに我々の勝ちが確約されていた訳でもありませんからね」

「そう言ってもらえると助かります」


 レムは胸を撫でおろして作業に戻ったようだ。しかし、チェン・ジュンダーすらすくませるソフィアの凄味もというのも流石と言うか――そんな風に思っていると、レムの作業の方も終わったようで、改めてこちらへと向き直った。

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