12-70:魔王城再び 上
旧移民船アーク・レイ、現魔王城への移動は、予定通りに日付が跨ぐのと同時に開始された。移民船直通の地下道を移動し、専門知識の少なめな自分をT3がサポートしてくれる形になり、二人で資材の回収を担当し、それ以外のメンバーが魔王ブラッドベリ復活の準備へと向かった。
現在は縦に突き刺さった宇宙船の中層辺りで、T3がチェンより言いつけられていた部品を壁や機械の中から探しており、自分とティアが荷物を運ぶ役目を担っていた。とは言ってもそんなに重い荷物もないらしく、すべて回収しても鞄半分程度の分量で済む予定だった。
逆を言えば、自分としては軽い荷物を持つだけの仕事しかなく、かなり手持無沙汰な状態が続いていた。機材を探すのに集中しているT3の邪魔をするのも悪いし、何となく辺りの様子をボゥッと眺めている時間も多くなるのだが――移民船の中はまた異様な雰囲気に包まれている。
元々は三千年前に役割を終えた船なのであり、機械的な基幹部分はボロボロになっているのはもちろんなのだが、魔王の居城として再利用していたおかげで壁や床が継ぎ足されており、どこか未来的なスラム街の路地のような雰囲気がある。まだ電力は生きている様であり、所々照明が仄かに辺りを照らし――その灯りは神秘的というより、辺りの退廃的な様子をより鮮明にしているという方がしっくりくる。
朽ちた部分を雑多に継ぎはぎされている様子は、ここに長い歴史があることを暗示しているようでもある。三千年の間は魔族の居城として使われており、それよりも以前は旧世界の人たちがこの星に移り住んでくるのにこの場にいたのだから、実際に歴史があるのだが。
しかし過去に営みが行われたこの空間も、今はただ静寂が支配するのみ。そんな場所をしばらく眺めていても飽きなかったのだが、徐々に手持無沙汰の方が勝って来て、思い切って壁に向かって工具を動かしているT3に声を掛けることにした。
「あの、今更ですが……チェンさんはなんで魔王さんの味方をしていたんですか?」
質問することは何でもよかったのだが――これは先日ブラッドベリを蘇らせようという話が上がった時、何となく気になっていたことだった。こちらの質問に対し、T3は工具を動かすのを一瞬だけ止めてこちらを見た。
「今日は貴様にしては珍しく静かにしていると思ったが……まぁ良いだろう。こちらももう少しで終わるからな」
T3は視線を元に戻して作業を再開させながら話を続ける。
「チェンが魔族側に立った一番の理由は、ピークォド号を惑星レムに降ろすタイミングを調整するためだ。普段、この星に侵入しようとするものは、衛星兵器マルドゥークゲイザーによって迎撃されるようになっている……月より発射される超威力のエネルギーを衛星により位置調整し、さらに地上でも撃てるようにするのが魔剣レヴァンテインであり、ブラッドベリを封印するのに必ず一度は放たれる。ゲンブはそのタイミングをコントロールする必要があったんだ。
それだけなら勇者側にテコ入れするという選択肢もなくはないが……勇者側は魔族側と比べて七柱の影響が強いし、またその勇者やお供に七柱の監視を逃れるために二重思考をするだけの思考力があるとも限らない。
何より、魔王の七柱への恨みは本物だ。元々七柱の敵対者である邪神ティグリスを信奉させられていたのはその思考をコントロールされていたからに他ならないが……奴の立場上、七柱への怒りも同時に持たせられていた。元々その怒りは奴自身の物ではなく、矯正させられたものであったかもしれないが……事実さえ知れば、本物の怒りになるだけのことを七柱はしていたんだから、チェンは味方にはしやすいと考えた訳だ」
男は工具を動かす手を止め、立ち上がってこちらへ部品を投げてきた。こちらがそれをキャッチして鞄の中に入れる傍らで、T3の方は作業と話を続けている。
「ピークォド号を降ろした後にも、味方とするにはブラッドベリがこの星における最強の戦力だというのも理由だ。勇者の力はレヴァンテインに寄るもの大きい訳だが、敵対するとなれば当然、その剣の機能は封印されるからな。
そのお供に関しては、七柱の影響が強い者……教会や学院の関係者ともなれば、つまるところレムやルーナ、アルジャーノンの信奉者と考えられる。また、ハインラインの血族が選出されるとなれば、味方に引き込むのは難しい。
一方、ブラッドベリの再生能力と身体能力、思考力と超能力は奴本人のモノだ。生体チップによるコントロールさえ防げれば、強力な味方になり得る……そう言った判断があったんだ」
「でもそれなら、もっと早く生体チップを摘出していれば良かったんじゃないですか?」
「ピークォド号を降ろす前に生体チップの摘出などすれば、チェンが暗躍しているとアピールしているようなモノだ。そうなれば魔王討伐は中断させられ、即座に七柱と熾天使でもってチェン対策を取られていただろう。
そうすれば、ホークウィンドと母なる大地のモノリス、それにピークォド号内で生成されたその剣をこの星に降ろすことは敵わなかった訳だ」
そのうち二つは結局奴らに奪われてしまったが、T3はそう悔しそうに続けた。今の部品の回収で作業は完了したので、自分たちもレム達の元へと向かうことにした。




