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3-1:女神の警告 上

 気が付くと、ほの暗い場所にいた。


「……いい加減、この感じも慣れてきたな」


 そう言いながら振り返ると、黒髪の女神、レムがこちらを笑顔で見つめているのが見えた。


「アランさん、お疲れ様です。まさか、魔将軍とやり合うことになるとは、驚きですよ」


 眠りにつく前のことをほんのりと思い出す。レヴァルの地下迷宮でジャンヌ――魔将軍ネストリウスの遺志を継いで、レヴァルを魔族に襲わせた――と、タルタロスと遭遇し、勇者パーティーと合流してなんとか撃破したのが今日の出来事。


 その後は、結局軍の駐屯地で寝泊まりすることになった。駐屯地のある入口付近は、敵の攻撃も激しかったものの、冒険者や兵も多かったおかげで損傷も少なかった。レヴァル襲撃の爪痕で、他の宿もしばらくは使えそうにないし、レヴァル防衛の立役者であるソフィアやエル、クラウが評価され、結局すぐに軍や勇者達と連携をとれるようにしたためでもある。


「まぁ、別に俺は見てただけだが……」

「しかし、行方の分からなかったタルタロスがレヴァルの地下にいることは、私も想定外でした。ジャンヌ・ロペタがネストリウスの遺志を継いでいたことも……あの地下空間は、神々の目を欺くために出来ていたようです」


 神々の目を欺く。そう言えば、ジャンヌが思考を覗き見るとかなんとか言っていた気がする。あの地下の文様は、それを防ぐためにあったのか。


「なぁ、ジャンヌの言っていたことだが……」

「……えぇ、事実、と言うべきでしょうね。私は、この世界の様子や、人々が何を考えているのか、見通すことができる……しかし、それこそ何億もの魂があるので、逐一確認はしていません。そのため、こちらとしても意識的に見なければ見落としますし、全てを把握できているわけではありません」

「それでも、ジャンヌの暗躍を見抜けなかったのか?」


 彼女は、レヴァルという大きな街の重職なのだから、神々が監視していてもおかしくはない。


「彼女は、二重思考【ダブルシンク】をしていたようですね。地上で、我々の目が届いている時には、本心からルーナ神を信仰しているように自分すらも欺いていたのです。だから、彼女の本心は、我々が表面から見る分には問題ないように見えていたんですよ」


 良く分からないが、神々の監視のある地上では、ジャンヌは邪神を信仰していることを思考しないようにしていた――いやどちらかと言えば、彼女の本心は表に出さず、外向けの思考を普段はしていたという感じだろうか。



「……それにしても、今日はイヤに饒舌じゃないか。普段なら、もっと煙に巻く癖に」

「まぁ、あまり疑念を持たれた状態も本意ではないと言いますか。恐らく、前世の倫理観からすれば、思考が覗き見られているのは気になる部分だと思いまして」

「あぁ、正直、それは神様であっても、やってはいけないことだと思う」


 今までもレムに対しては思考が読まれていたはずなのに、改めて全世界の人間が思考を読まれているとなると、なんとなくイヤな感じがする。監視されているのも気持ちいいものではないし、人の尊厳を損なっているように思われる。


 何より、人間を超越した存在に思考を読まれてしまうのはダメなんじゃないか。上手く言葉には出来ないが――そうだ、いつまでも子供をコントロールしようとする親のような、そんな違和感があるのだろう。


「……悪人が相手だとしても?」

「悪人が相手だとしてもだ……心の中なんて、自由であっていいんじゃないか? 言うほど立派な奴なんていないだろう。どんな良い奴だって、その日の気分では、世界なんて滅びれば良いって思うだろ……。

 ただ、心の闇が外に出るか、内にとどまるかだけの差だと思うぜ。そして外に出しちまった奴は、法律によって裁かれればいい」


 自分の意見を述べると、女神は嬉しそうに目を細める。しかし、それは一瞬で、今度は目をつぶって、小さい子を窘めるような表情に変わる。


「えぇ、アナタのいう事もまた真理、しかし理は魂の数だけ存在する……ひとまず、私とアナタの一存だけで、今の世界の在り方は変えられません」

「……それもそうか。犯罪や悲劇が起きる前に、止められるに越したこともないしな」

「はい、そういうことです。でも、アナタの意見は、しっかりと受け止めていきたいと思っています……そのために、アナタをこの世界に招いたのですから」


 そこまで言って、レムは顔の横で人差し指をピン、と立てる。


「あともう一つ、アナタをここに招いた理由があります。出来れば勇者やその仲間たちには……そうですね、エル、ソフィア、クラウディア以外には、アナタが転生したことを言わないで欲しいと、それを言いたかったのです」


 そう言えば、地下でクラウがレムの祝福を受けられないことを、彼女のせいでないと伝えたいがために転生の話をしたのだった。


「えぇ、クラウディアには私の目が届かない時に言ってしまいましたからね。そして、アナタは他の二人に言わないのはフェアでないと思っている。なので、特別にその二人だけは許可します……ですが、それ以上は認められません」

「理由は聞かせてくれるのか?」

「当然、みだりに転生者という存在を世に広めることは、混乱を招くと想像されるのが一つ。本来、異世界からの来訪者は勇者だけですからね。もう一つは……そうですね、これも正直にお答えします。アナタという存在を、他の創造神たちに悟られたくないからです」


 女神の言う事の真意が分からない。だが、相手はこちらの思考を読むのだ、勝手に話を続けてくれる。

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