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12-68:倉庫の片隅で 中

「脱線するけどさ、クラウは一年前に王都を発ってから、ずっとカリカリしてたと思う。その理由、今ならわかるんだ」

「あら、なんでですの?」

「クラウ自身……またボク自身も、その感情の原因はアラン君が何かを隠しているから、ということに起因していると思っていた。でも、正確な所は少し違ったのかもしれないと思ってね」

「もったいぶりますわね……つまり?」

「ボク達にとって、アラン君はアラン君だってことさ。初めて出会った時の彼は、どこにでもいるような普通の男の子だったから……その時の印象が強いのかもしれない。

 いや、スカウトとしての能力がずば抜けてたのはもちろんだけどさ。ボク達にとって大切なのはそこじゃなかった。互いに冗談を言い合ったり、悩みを聞いてくれたり……本当は結構年上だったわけだけど、ボクとクラウにとってアラン君は、普通の男の子だったんだ。

 なのに、第十代勇者だとか、原初の虎だとか、邪神ティグリスだとか……大仰な肩書を押し付けられている。それなのに不平不満の一つも言わないで、彼はたった一人でその秘密を胸に秘めて、ボクらを護るために戦い続けていた……それが納得いかなかったんだと思う」


 成程、そんな風に思っていたのか。自分は最初からレムにアランの正体を聞いていたのであり、彼を最初から特別な色眼鏡をつけて見てしまっていたのは否めない。逆にティアの言うよう、そう言った色眼鏡無しに視れば、確かにアランはただの気さくな青年ではあるし――むしろクラウはアランのそう言った部分に惹かれていたのかもしれない。


「あの人はそういう人でした。色々と背負いこんで、独りで走り続ける……」


 割って入ってきたレムの言葉を聞いて、ティアは一瞬瞳に怒りを浮かべた。ティアが聞きたかったのはそういうことではないはずだ。誰もがアラン・スミスと言う人物の性質は理解している。その上で、ティアはアランが一人で戦わなければならないことに納得いっていない、だからこそ戦いの残るこの星に蘇らせることに疑問があったということのはずだ。


 しかし、ティアはすぐに怒りを潜めて、また諦めたように首を振った。


「いいや、分かっているよ……アナタや旧世界の人々、それにソフィアちゃん達だって、僕と同じように思っているのはさ。本当は皆だって、彼に無茶をして欲しい訳じゃない……でも、ボクらがいつだって至らないから、彼は皆の分を背負って走り続けるしかないんだって。そういう意味では、一番納得できないのは……彼に頼りにしてもらえなかった自分の無力さだ。

 それで……本当はすぐにでもアラン君に帰ってきて欲しいんだけれど、できれば平和になった世界に帰って来てほしいなって思ってしまうんだよ。

 いいや、ちょっと違うかな……すぐにでも戻って来てほしいけれど、皆に大仰な肩書を押し付けられて、誰かのために走り続けるんじゃなくてさ。ただ一人の男の子として……ゆっくりと自分の人生を歩んで欲しいって……」


 そんな状況じゃないっていうのは重々承知だけれどさ、ティアはそう続けて諦観のため息を吐いた。対するレムはティアの正面まで浮遊していき、深々と綺麗なお辞儀をした。


「まず、貴女の優しさをを有難く思いますよ、クラウディア。あの人の縁者として、代わってお礼を述べさせてください。

 それで、こんなことを言って慰めになるかは分かりませんが、私もこの世界ではあの人に自分の人生を歩んで欲しいと思っていました。だから、あの人に記憶を与えませんでしたし……きっとあの人の本能が絵を描きたいという夢を思い出させ、この世界でこそ好きに生きられるようにしたかったのです。

 ただ、もうアランさんは全てを知ってしまいました。そうなったら、あの人の性格上……もしも平和になってから蘇らせられたら、それはそれで気に病むと思うんです」

「それは……そうかもしれないね。何となく想像できるよ」

「ですから、逆に考えてください。過去の因縁に決着をつけるのは、あの人自身が望んでいることでもある……そんなあの人のことを支えることを考えて欲しいんです」


 レムが再び頭を大きく下げると、ティアは困惑したような表情を浮かべ、膝から離した自らの手を見つめて押し黙ってしまった。おおよそ、自分なんぞがアランの支えになるのかという不安があるのだろうが――大切なのは実力ではなく、支えるという姿勢だろう。実際、自分も知っているアラン・スミスならば、それだけでも十分に喜んでくれると思う。


 とはいえ、今の彼女にはそんなやわな言葉は届きそうにない。何より、唯一無二の親友であり、同時に切磋琢磨したライバルがあまりに自らを卑下しているのを見るのも面白くない。それなら、少し発破をかけるような言い方の方が彼女に響くかもしれない。そう思い少し意地の悪い言葉をかけてみることにする。

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