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12-67:倉庫の片隅で 上

 会議が終わった後、ティアは足早に部屋を離れて行った。自分はその後を追いかけ――誰もいない物置のような一室に落ち着き、ティアは部屋の隅で膝を抱えて小さくうずくまっていた。


「他の人たちが頑張っているのに、自分はあまり役に立ててないな……などと思っているのではありませんか?」


 こちらの言葉に対してティアはハッとしたように膝で隠していた顔を上げた後、苦笑いを浮かべて首を横に振る。


「ボクって君に簡単に思考を言い当てられるほど単純だったかな?」

「そこは私の他人を慮る能力を賞賛して欲しい所ですわね」


 実際の所、ティアが以前から考えられないくらい単純になっているのは事実だった。より正確に言えば、口調以外がクラウに似てきている。確かに以前のティアは、どこか余裕綽綽よゆうしゃくしゃくといった様子であり、付き合いの長い自分ですらその思考を推し量るのは難しかったのだが――今の彼女は繊細な年頃の少女そのものであるので、クラウを相手にしていると思えばその思考を言い当てるのは容易になっていた。


 以前にも同じようなことを考えたが、恐らくこのようになったのは役割分担が無くなってしまったせいだろう。おかしな因果関係に思えるかもしれないが、人として悩むのはクラウの役割であり、困難の打破こそティアの仕事だった――身体に二つの精神があるからこそ担保されていて彼女の役割は、精神が一つになってしまったことでクラウが担っていた「悩める自己」まで請け負うことになってしまったように見える。自己の在り方に悩むというのは、ある意味ではクラウもティアも持つ――クラウディア・アリギエーリという少女の本質とも言えるのかもしれない。


 とはいえ、今回の件に関しては彼女が思い悩むことも無いだろう。確かに先ほどの会議など自分とティアは蚊帳の外感があったが、自分たちには専門的な知識がある訳ではないので、解析の場にいたところで邪魔になるだけなのだから。


「貴女だけが焦ることはありませんわ。こんなことを言っても慰めになるかは分かりませんが、私だって大差はありませんし……」

「……やっぱり、ソフィアちゃんかな」


 こちらの言葉を遮って、ティアは予想外の一言を呟いた。見ると、ティアは膝から僅かに顔を離し、自虐的な笑みを浮かべて首を振っている。


「彼女はたったの一年で、ボクらが使っていた枢機卿級の神聖魔法を体得しただけに飽き足らず、七聖結界やナナコと渡り合えるだけの近接戦闘の訓練をしたうえで……旧世界の知識をレムやチェンと渡り合える程度に会得しているんだ。

 それと比べると、ボクはこの一年間、何をしていたんだろうって……」

「でもその半分は、グロリア・アシモフの助力があってのことでしょう?」

「いいや、仮にグロリアとの融合が無かったとしても、彼女独りでもある程度の所までいったと思う。ソフィア・オーウェルはそういう子だよ。単純にあの子の努力は凄い物だし、なんとか彼女の前ではその努力を称賛して、何でもない顔をしているつもりだけど……」

「嫉妬しているのですか?」

「どちらかと言えば、申し訳ない、かな。皆にも、何よりホークウィンドにもさ……ソフィアちゃんは急成長したのに対して、結局ボクはまだ、自分の可能性とやらを信じ切ることが出来ていないんだから」


 そこまで言って、ティアは膝に顔をうずくめてしまった。彼女の言うように、この一年間でのソフィアの急成長ぶりは目を見張るものがある。彼女の才覚はもちろんだが、それよりティアが圧倒されたのはソフィア・オーウェルの執念なのだろう。それと比較して、ティアは師匠の遺言を実践しきれていない自らの不甲斐なさを嘆いているのだ。


 しかし、ティアの資質だって素晴らしいものだ。元来の彼女は、クラウが望んだことを実行するという力を持っていた。悩める繊細な点が彼女の本質であるのと同時に、可能性に手を伸ばして実現させることも、また彼女の本質であるのだから――確かにソフィアと比べてたら至らない点もあるのかもしれないが、どちらかというとあの子が重大な例外という方が正しい。


 とはいえ、そんなことはティアも承知の上だろう。今更こちらが何かを言って簡単に納得してくれるものでもあるまい。そこに友人として歯がゆさを感じるのだが――自分としては、ただ彼女が沈み込んでいかないよう、必要な時にその手を取って引いていくだけである。


 そう思いながら見つめていると、ややあってからティアはまた膝から顔を離して話し始める。


「それに、それだけじゃないんだ。アラン君のことなんだけど……」

「あら、戻ってきてほしくないんですの?」


 そう言えば先ほど、ナナコがアランの名前を出したときに浮かない顔をしていた。この一年間、自分たちはレムと一緒にクラウやアラン復活の術を探していたはずだし、彼女もアランに戻って来てほしいという願望は持っているはずだ。


「いいや、戻ってきてほしいさ。切実にね……ただ、ボクはもう、アラン君に戦って欲しくないのかもしれない。元々、一刻も早く帰って来てほしいと思っていたし、アラン君自身が過去の因縁に決着をつけたいと思っているのは分かっている。それは尊重してあげたいよ。ただ……そうだね……」


 ティアは一度そこで姿勢を正し、また卑屈そうに笑いながら口を開いた。

【連絡事項】

書き溜めも大分進んできたので、投稿頻度を増やします。

ひとまず明日から、今後も日曜日も1話投稿を追加しようと思っています。


また変更をする場合はあとがき、ないし近況報告で連絡します。

引き続きよろしくお願いします!

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