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12-66:魔王の成り立ちについて 下

「さて、ブラッドベリを引き込めれば強力な味方になってくれることは分かっていただけたと思います。ただし、リスクも大きい……彼を起こすとなれば、逆に右京らにコントロールされ、敵対してしまう可能性も高いのです。そうなれば……」

「奴の生体チップを右京に干渉されないように書き換えるか、摘出するか……はたまた破壊するか、いずれかが必要になるということだな?」

「はい。一応、T2を着ていた時と同様にハッキングされないように電磁パルスを展開し、その間にいずれのかの施術を行うようにしようとは思いますが……」

「星右京ならJaUNTで接近して、電磁パルスを突破してくることもあり得るだろう。それに、他の戦力を瞬時に連れてくることも可能だ」

「えぇ、貴方の言う通りです。ですから、これはかなりリスクの高い行動です。その上に、仮にブラッドベリを仲間にできたとしても、直ちに我々の勝利が確定するわけでもない……そのためリスクリターンの合う行動とは断言できない所はあります。

 また、仮に上手く彼の生体チップの対処が出来たとしても、その後ブラッドベリ自身が我々に味方をしてくれるとは断言できません。そうなると、私自身もどうするべきか……」

「……珍しく弱気だな。らしくない」


 先ほどまで静かな怒気を浮かべていたT3は、珍しく視線を落としているチェン・ジュンダーに対して気を使う様に小さく声をあげる。普段は皮肉ばかり言うT3が殊勝な態度を取っているせいだろう、チェンも自嘲気味に笑って首を横に振った。


「ははは、すいません。ただ、ここまで戦い続けてきましたが、私の策は結局、星右京とダニエル・ゴードンを上回ることはありませんでしたから。そうなれば、次も上手くいかないのではないかと……少し卑屈になっていることは否定しません」


 あくまでも自分の意見としては、チェンはよくやっていると思う。それは恐らく全員そう思っているはずだ。確かにチェンの策は七柱の創造神を倒すには至っていないが、彼が戦い続けたからこそ、高次元存在は未だに彼らの手中に収まっていないのだから。


 もちろん、それはチェン一人で成しえたものではない。ここに至るまでに散っていった仲間達が――アラン・スミスが光の巨人に飛び込み、高次元存在に人の可能性を見せたからこそ、こうやって自分たちの首の皮が繋がっている部分はある。


 しかし、原初の虎を復活させようとレムが思い至ったのも、チェン・ジュンダーがその執念でここまで戦い続けてきたからに他ならない。そういう意味では、この戦いはチェン・ジュンダーを中心とした戦いという側面もある。


 同時に、彼はその戦いの中で多くの仲間を失ってきたのも確かだ。既に「必要な犠牲だった」という範疇を超えているのも間違いなく――ややもすると、彼としてもファラ・アシモフの死が堪えているのかもしれない。


 正確な所は自分にも分からないが――ともかく、皆一様に黙って糸目の軍師を見つめていた。ただ一人を除いて――他の者同様に軍師を見ていることには変わりないが、彼女は一歩前へ出て、大きく息を吸い込んで男の前に立った。


「……チェンさん、行きましょう! ブラッドベリさんを復活させに! 大丈夫です、きっと次こそは上手くいきますよ!」


 そう言うナナコの瞳には、一切の迷いも見えない。そんな彼女に感化されたのか、一人と一匹が互いに顔を見合わせ――ソフィアと肩に乗るグロリアとが軍師のそばに近寄った。


「それに、アナタの策が上手く行ってないのではなく、実行する私達が成功させきらなかった部分はあるし……」

「何より、アナタが二重三重に策略を巡らせているおかげで、私やグロリアも救われたんです。星右京やダニエル・ゴードンを上回れていないという点はその通りとも言えますが……それを言えば、この中で誰もあの人に迫る策を出せていないんですから、そう落胆しないでください」

「ははは、ソフィアはいつも一言多いですねぇ」


 一言多いというのは「上回れていないという点はその通り」という部分を指すのだろう、チェンは自嘲気味な笑みを浮かべた。


 ソフィアは元から稀に――恐らく普段は大人を不機嫌にしないように注意しているのだろうが――他人の図星を突いて相手を黙らせてしまうところがあった。しかしチェンの「いつも」という表現から、彼に対しては正論をぶつけるのが常と言うことなのだろう。


 逆を言えば、ソフィアはチェンに気を使っていないとも言えるのかもしれない。それは恐らく、チェンには正論をぶつけても問題ないと思っているのだろうし、事実チェンもぐぅの音もでないという調子ではあるものの、不機嫌になっている様子ではない。むしろ、気遣ってくれたことを感謝してしている様子ですらある。


 そんな風に思いながら静観していると、今度はT3が真顔のまま一歩前へ進み出た。


「貴様が柄にもなく悄気しょげているせいだろう」

「T3、貴方も賛成で?」

「あぁ。どの道、魔王城に向かう必要はあるのだろう? ブラッドベリのことはついでに回収しに行けばいい。

 何より、お前がいなければ、私達はここまで来れていない……一万年の時を超えてお前が戦い続けてきたからこそ、今のチャンスがあるのだ」

「ふっ……まさか貴方に気を使われてしまうとは。大方この一年間、勝手に拗らせて独りで行動していたのでしょうが、これでは貴方のことを笑えませんね」


 チェンが自虐風の反論を返すと、図星だったのだろう、今度はT3の方が押し黙った。とはいえ、あの二人が皮肉を言い合うのは――大方T3がチェンに言い負かされて終わるのだが――以前にもよく見たし、両者とも不機嫌になっている様子もない。どちらかと言えば、以前の調子が戻った感覚がしたのだろう、両者とも不敵に口角を吊り上げている。


「反対意見も無いようですし、日を跨いだら行動を開始しましょう。闇に紛れて行動といってもそんなに効果はないでしょうが、気休め程度のカモフラージュにはなるでしょう。

 シモン、貴方は基地に残ってノーチラス号の最終調整をしておいてください。古代人温モノリスさえあれば、飛行自体は可能なはずですから、万が一に備えておいて欲しいのです。

 そして完成次第……海と月の塔に攻め込みます」


 ここで会議は終了となり、翌日の作戦に向けてこの場は解散となった。とくに明日は深夜中からの作業になるため、みな少しでも休んでおくようにと言いつけられ、一人一人と部屋を去っていく中、自分がティアと共に出て行こうとするタイミングで――。


「海と月の塔を制圧出来たら、アランさんが帰ってくるね!」


 そうナナコがソフィアに声を掛けているのを聞いた時、ティアは眉を少し潜めているのが気になったのだった。

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