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12-65:魔王の成り立ちについて 中

「それで、次はどうするんですの?」

「今一度アーク・レイに向かうのが良いかと。ノーチラス号用のパーツを回収してきたいのもありますが……その上で一か八か、ブラッドベリを起こそうと思います」

「……理由を聞こう」


 横から割り込んできたのはT3だ。どうやらあまり納得いっていない様子のようだが――アルフレッド・セオメイルとしての彼は魔王と対峙していたのであり、その反応もむべなるかなと言ったところか。しかし以前の彼なら、もっと食って掛かっていたようにも思うのだが、一応チェンの真意を確認しようという落ち着きはあるようだった。


「以前にも言ったように、今度こそ敗北は許されません。そうなれば、打てる手は全て打っておきたい……ともなれば、一人でも強力な仲間が欲しいのは確かです」


 チェンはそこで言葉を切り、レムの方を見た。するとレムが頷き返し、主にT3を見ながら口を開く。


「魔王ブラッドベリは、DAPAの能力開発と生体開発の粋を集めて作られた第六世代型のアンドロイドです。パイロキネシスやエネルギー衝撃波、透視やサイオニックなど、開発可能だった全ての超能力を持っている上、強力な再生機能を持っています。体内のナノマシンが細胞を高速で自己修復させるため、その生命力は塵一つからでも再生できるほどです。

 魔王を倒すのに聖剣レヴァンテインが必須であったのは、マルドゥークゲイザーから放たれる一撃に、ブラッドベリのナノマシンを休眠させる効果があったからに他なりません。

 単純な攻撃力だけで言えば熾天使にこそ劣るものの、その防御力と生存能力を加味すれば熾天使と並ぶか、それ以上の戦力になってくれると言えるでしょう」

「成程……しかし、そこまで強力にする意味はあったのか?」

「ブラッドベリにこれだけの力を注ぎこんだのには理由が二つあります。一つは、レムリアの民が倒すべき存在が強大であるほど、人々の心をコントロールしやすかったから……その存在を見た者たちは後世までその恐ろしさを語り継ぎ、それ故に魔王を打倒できる勇者と、勇者に力を授ける七柱への信心を強化することができる。

 そして、もう一つは……」

「その気になれば、勝敗は貴様らの方で如何様にもコントロールできるから、だろう?」


 T3が差し込んできた言葉に対し、レムは無表情のまま頷き返した。


「はい。ブラッドベリにも生体チップが組み込まれていますから、彼の行動を私たちの側でコントロールすることは可能でした。

 もちろん、最初から八百長では人心の掌握に寄与しませんし、勇者のお供となる実力のある者なら、下手な手心があれば微細な違和感に気付くかもしれません。それ故、魔王の行動を制限することは最後の手段でしたし、実際に戦闘において一度も彼の行動を制限したことはありません。

 直近の征伐時には右京が一度畏敬を出しましたが、それは最後の世代としての権限を行使しただけで、ブラッドベリをコントロールしたことにはなりません」

「戦闘において、というのは含みがあるな」

「思考のコントロールの方は逐次していましたからね……彼は魔族を率いるカリスマとして創造された存在であり、もちろん高い知能指数を兼ね揃えています。三千年の時があれば、必ず我々の欺瞞に気付きますから……この世界の虚構に気付きそうになった時や、またレムリアの民たちが絶対に覆せな程の謀略を張り巡らせそうになった時には、事前にそれを防ぐように調整はしていたのです」

「……奴の怒りこそむべなるかな、だな」

 

 淡々と話すレムに対し、T3はどこか吐き捨てるように返答した。自分としては、今の話はレムより事情は共有されていたのであり――そもそも彼女はこの世界の虚構に疑問を持っていたのであり、魔族に対して同情の気持ちもあったことも自分は知っている。


 レムが事情を冷静に話したのは、彼女達がしたことの罪を受け入れているからに他ならない。下手に悪びれた所で、何かが解消されるわけでもないのだから。


 一方で、T3が義憤に駆られるのも自然なことだろう。魔王ブラッドベリはその聡明な知能を制限され、滅びることも許されず、三千年ものあいだ偽りの戦争をやらされ続けたのだから。もちろん、多くの期間は封印されていると言っても、彼の王としての気質は本物であり――魔族という一族もろとも利用されていたと知れば、ブラッドベリの立場を考えれば怒りを覚えるというのも頷ける。


 そしてその感情は、エルフの男のみならず、周囲にも伝播しつつあるようだ。それを止めるようにチェンが咳ばらいを一つして雰囲気を仕切り直した。

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