12-61:古の集落の探索 下
レムが言うには、恐らく古代人は自分たちよりも――陸上で生活をしていた限りには――小さかったのではないかというのが旧世界の科学者の中では通説になっていたようだ。その理由は、そもそも七柱たちがもう一つの月を作るまではこの星の重力は旧世界よりも強く、その環境下では重心を低く保つ必要があることに起因する。もしかすると外骨格を持っていたのかもとすら推測されているらしい。
もう一つの可能性として、古代人は本来は水棲だったというのも考えられていたようだ。水中なら浮力の影響があるので身体を小さくする必要はないので、古の知的生命体はもしかしたら巨大な軟体生物だったのかもしれないとのこと。海底にモノリスがあるのがこの説の裏付けであるようだ。とはいえ、もし水棲生物であったとするのなら、この古代都市や外で見つかっている痕跡の説明がつかないとレムは付け加えた。
古代人の化石ないし、遺骨でも見つかれば古代人の生態の理解が進むのであるのだが、三千年の時間をかけてもこの星の上に痕跡を見つけることが出来なかったらしい。如何せん古代人が生息していた時代から億年の時が経過しており、風化や地層の体積が繰り返された結果、すでに地下資源と化してしまっており、その発見には至らなかったようだ。
ここならば、その最初の発見となるかも――ソフィアは知的好奇心を刺激されているのか、レムと熱心に討論を進めている。一方グロリアは議論に参加せずに、上から周囲を周囲の様子を見ており、そして自分のそばへと降りてきた。
「しかし、人っ子一人見当たらないわね」
「グロリアさん、当たり前じゃないですか! 何億年も前の遺跡なんですよ?」
「あのねぇ、私が言いたいのはそういうことじゃないわ。仮にここが高度な文明を築いていた先住民族の残した遺跡なら、旧世界と同等かそれ以上の技術が発達していたはず。それなら、防衛装置とか、機械類が動いていても良いんじゃない?」
「むむ、確かにそうかもですが……燃料切れなのでは?」
「いいえ、照明は生きている。つまり、どこかしらに動力があるのよ。晴子、これなら確かにノーチラスの課題を解決できる何かがあるかもしれない」
グロリアの声がけに対し、レムはソフィアの肩の上で振り返って頷き返した。
「しかし、それならどこにその動力はあるんでしょう?」
「まぁ、それが分かったら苦労しませんが……こういうのは中央にあるって相場が決まっているので、とりあえずは中心地を目指していってみましょうか」
「えぇと、そんなノリみたいな感じで大丈夫なんですか?」
肩に乗るレムの割と適当な言葉に対し、ソフィアがそう質問を返した。先ほどこの都市を自分たちの常識にあてはめて考えられないと考察していたのは他ならぬレムである訳で、そうなると彼女の言う「相場」というものも通用しないのではなかろうか――脳内でそんな風に突っ込んでいると、女神は微笑みを浮かべながら頷いた。
「全然根拠が無い訳じゃないのよ。一応、照明はこの地下都市全域で生きている……もし端に動力があるのなら、全域に行きわたらないか、ないしもう少し明るさがまばらになるんじゃないかしら?」
「成程、でも動力の出力やエネルギーを伝達させる導線次第では可能なんじゃないですか?」
「それは仰る通りね。古の叡智は私の創造など遥かに超えているかもしれない……そもそも、旧世界でも発電施設などは沿岸部や山間部に設置されていた訳だし。でもあまりに疑ってかかったら、どこから探せばいいか分からなくなるわ」
「確かに、それもそうですね……一旦レムの言う通り、中枢を調査してみるのが良いかもしれません」
「えぇ。それに、あまり長居もできないしね。色々と調査はしてみたいけれど」
長居が出来ないというのは、ここに居てはシモンやチェンと通信することが出来ないことに起因する。ここにどんな危険があるかもわからないので、半日ほどで戻らなければシモンたちは一度チェンのアジトに戻るようにとしているので、出来ればそれまでに退散したいというのが理由だ。
「グロリア、ナナコ、辺りの様子は?」
「さっきも言ったでしょう、人っ子一人いないって」
「私の方でも、生物の気配は感じないですね」
「それでは、先を急ぐとしましょう……ひとまずあすこへ」
手のひら大のレムが指し示す先は、古代都市の中心部に当たるドーム状の施設だった。そこからは足を速め――自分は道路を走り、ソフィアとグロリアは上から進むことにした。何かが襲撃してきた時に備え、互いにすぐに戦闘態勢に移れるようにするためだ。
とはいえ、そんな心配も杞憂だった。何物にもはばかられるわけでもなく、十分ほどの移動で目的地へと到着した。近くで見ると、その半球には光の筋が走っており、何やら神秘的な様相であるのだが、他の建物らしき物体と同様に入口が見当たらなかった。




