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12-47:因縁の邂逅 下

「成程、魔術の打ち合いじゃ敵わないと踏んで、接近戦を鍛えてきたか……いちち!」


 斬撃を再びディスペルし、男は無理な姿勢で攻撃を避けて痛めたらしい腰をさすりながら、器用な空中機動でソフィアの攻撃を躱している。自分はソフィアとは別の方向から男に向けて炎の弾丸を撃ち込み続ける――本来ならフレンドリーファイアの危険性があるのだが、精神を同じくしている自分たちならエイムを共有できるので、このような無茶な攻撃も不可能ではない。


 ある意味で恐ろしいのはアルジャーノンの対応能力か。彼は思考を三つに分割しているらしいし、高速戦闘においても状況を把握する高速思考を兼ね揃えており、それで激しい戦況を把握し、対応する魔術やディスペル、結界を使いながらソフィアと自分の波状攻撃をいなしているのだから。


 とはいえ、状況的にはこちらが圧している様には感じられる。油断できる相手でないことは間違いないが――どれだけ思考が優れていても、彼が宿っているのは生身の体だ。それ故に電磁パルスによる妨害などは出来ないが、同時にADAMsのような超音速で動く相手なわけではない――そう思っていた矢先の出来事だった。


 アルジャーノンは杖から強烈な閃光を放ち、凄まじい速度で一度こちらから距離を取った。目くらましはソフィアには有効だが、自分には効かない――それを織り込んでの離脱だったのだろうが、驚くべきはその速度であり、自分とソフィアが空中で出せる限界値にかなり近い速度だった。


 生身では無茶な速度というのはもちろんだが、自分たちにできることなのだから彼にできない道理もない。原理的に言えば結界と補助魔法で無理やり音速の壁に耐えられるだけの耐久性を得ているというだけなのだから。全ての魔術を扱えるアルジャーノンには、とくに障害物のない空中での音速機動など造作もないことなのだろう。


 ともかく、急いで機械の体を杖の先端へと戻し、相手が遠方から放ってきた漆黒の稲妻を防ぐべく七枚の結界を紡ぎ出す。


『しかし……記録の中にはゴードンが音速で飛ぶなんてデータはなかったはずなのに……』

『多分、T3を警戒してのことだと思う。以前、ヘイムダルでADAMs相手に苦戦したみたいだからね……でも、空中の超音速戦闘なら……!』

『えぇ、こっちが上だということを教えてやりましょう!』


 相手から照射された魔術は、七星結界で防げないほどではない。結界を張っている腕を突き出しながら一気に前進を始め、魔術が途切れた瞬間に最高速度へと達し、魔術神との間合いを詰める。


 実際、距離が遠いほど相手が有利――こちらは反応速度も防御力も高いという自負はあるが、超遠距離からこちらが認識していない謎の魔術で応対されることは出来る限り避けたい。そのつもりで相手に追いつくよう速度を上げ、追尾性の高いレーザーを打ちながら相手との間合いを詰める。


 ドッグファイトは原則として、背後を突かれているほうが不利になる。そういう意味では、アルジャーノンは結構安易に距離を離したとも言える。確かに上手くこちらの攻撃はディスペルや魔術で避けているようだが、持てる力を防御に回している分で速度が出し切れていないのだから。


 何より、やはり器の丈夫さが違う。アレイスター・ディックの器は完全に魔術師のそれであり、いくら魔術で強化しても限界はある――最終的に身体に限界がきて観念したのか、相手は徐々に減速を始めた。


 しかし、相手もただ減速する訳でなく、デコイを巻き始める――自分たちが先ほどしたのと同じように、冷気の魔術で空気を凍結させて壁を作ってきたのだ。


『ちょこざいな!』


 即席で作った密度の薄い氷なら、パイロキネシスで溶かしながら進むことも可能だ。炎熱でデコイを溶かしながら突き進み、今度はディスペルされないように炎を杖に纏わせて肉薄し、すれ違いざまに一太刀を浴びせるが――それはアルジャーノンの七星結界で防がれてしまう。


「はは、随分マッチョな方法だが、やるじゃない!」

「……はぁ!」


 男の余裕綽綽な調子の声が聞こえ――ソフィアは空中で身を翻してターンし、自分は機械の体を改めて杖から離して再び二人での波状攻撃を仕掛ける。変わらず相手の対応力の高さから――炎には冷気や真空、魔術にはディスペル、物理攻撃には結界と、全てに対応してくる――こちらも決定打こそ撃てていないものの、確かに相手は防戦一方であり、確実にこちらが戦闘のペースを掴んでいる。


 しかし、自分が勝ちを確信できないのは、男がずっと不敵に笑い続けているところか。ソフィアの一挙一動を見逃すまいと少女を見続け、同時に何かを期待しているようでもあるのだが――。


「……これが君の限界かい?」


 ふと男の顔から笑顔が消え、その表情は氷のような無関心へと変貌し――同時に観察するような視線は鳴りを潜め、強烈な殺気が一気に噴き出してきたのだった。

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