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12-46:因縁の邂逅 中

「相手にもならなかったわね……しかし、アイツ何者だったのかしら?」

「多分、新手の熾天使だと思うけれど……ノンビリしている暇はないよ、グロリア。すぐにレヴァルに向かわなきゃ」


 そう言いながら杖を一回し、少女は再び氷炎の翼で空を舞い、彼女がかつて司令官を務めた城塞都市の方へと飛び立った。セレスティアルバスターは何者かが――あの光の一撃は恐らく精霊弓のものであり、ナナコの言うようにT3が生きていたということなのだろう――阻止し、暫定新型の熾天使は撃破できたのだから、後はあの巨人さえ倒せれば今回の襲撃に関してはこちらの勝利で締めることができそうだ。


「……ルシフェルを瞬殺したか。流石だよソフィア君」


 声の方へと振り返ると、先ほどまで何もいなかったはずの中空に亀裂が入っていた。聞き覚えのあるねっとりとした喋り方に反応したのか、ソフィアは亀裂に向けて左手から炎を放つ。魔術と違い、無詠唱で威力のある遠距離攻撃が出来るのはパイロキネシスの利点とも言えるが――声の主は空気の断層で炎を無力化しながら亀裂を乗り越え、杖のレバーを引きながらこちらと対峙したのだった。


「アルジャーノン……!」

「そんな、仇でも見るような眼で見ないでくれ給えよ。僕は別に、事を構えに来たわけじゃあないんだからさ。それに、こうやって君たちは存命な訳だしさ。そこまで恨まれる筋合いもないと思うけれどね。

 ともかく、君が無事でよかったよ……これは嘘偽らざる本心さ」


 品定めするようにこちらをじっと見つめてくる男に対し、ソフィアは険しい表情をしながら男の方を睨め付けている。アルジャーノンことダニエル・ゴードンは、旧世界において自分を倒した張本人であり、この星においてはソフィアの腕を飛ばした因縁の相手である。


 同時に、彼が宿っている身体の主はソフィアの師匠でもある。先ほど問答無用で攻撃を仕掛けたソフィアだが、それでも師を尊敬する気持ちと七柱に精神を支配されたことを悼む気持ちは確実に存在する。戦うことに迷いがある訳でもないのだが――しかし今はレヴァルが襲撃を受けており、早く救援に向かいたいという気持ちも少女の中に混在しており、珍しくどうするべきか決めあぐねているようだった。


『……ソフィア、どうする?』

『結論、倒すしかない。一刻も早くレヴァルへ増援に向かいたいけれどそうはさせてくれないだろうし、仮に無視できたとしてもレヴァルに恐ろしい敵を連れて行ってしまうことになるから。何より……』

『私たちはアイツを倒すために一つとなり、互いの力を束ねたのだから……それが今というだけの話よね』


 ソフィアは杖を回転させて魔術弾を装填し、自分は少女の肩から離れて敵を挟撃するための体制を取る。対する男は笑みを好戦的なモノへと変貌させた。


「……話すことなどない。そんな顔をしているね?」

「はい……アナタは仇を見るような眼で見るなと言いましたが、それは出来ません。何故なら、アナタはグロリアの身体と……!」

「ソフィアの左腕を奪ったんだから!」


 自分とソフィアが各々男の罪状を述べて啖呵を切るが、男はこちらの怒りなどどこ吹く風といった様子で失笑を浮かべた。


「肉の器にこだわるなんて、相変わらずつまらないことに固執しているようだね……ま、良かろう。君の可能性は極限の中で引き出されるというのなら、手荒にやるのが僕の研究にとっても一番の近道だろうさ!」


 アルジャーノンがレバーを引くのと同時に、ソフィアは追尾する稲妻の魔術を放ち、氷炎の翼を羽ばたかせながら前進を始める。併せて自分は上へと飛び、男に向けて炎熱を放つ。男は魔術をディスペルし、炎に対しては腕を突き出して結界を張っていなすが、逆を言えばそれは足を止めたということ――男はソフィアの接近を許す形になる。


 ソフィアは魔術杖に氷の刃を纏い、男に向けて鋭い斬撃を放つ。男は炎を防ぐのに残っていた結界でそれを受け止め、そのまま口で器用に魔術杖のレバーを引き――斬撃によって結界が砕けるのと同時にディスペルを仕込んだのだろう、アルジャーノンが刃を杖で受け止めると、氷は中空で霧散してしまった。


 しかし、そんなことは知らんと言わんばかりに――というよりディスペルされるなど予想済み、ソフィアは杖の先端を素早く男の方へと押し込んだ。アルジャーノンの方もそれを読んでいたのか、上半身を大きく逸らして――半ば空中でブリッジのような姿勢を取り――鳩尾に沈むはずだった杖を躱し、ふざけた姿勢のまま下へと急降下してソフィアから距離を取った。


 その退散を手をこまねいてみているだけの自分ではない。ソフィアが姿勢を戻して魔術弾を装填している間に――もっと言えば下から反撃のチャンスを狙っているアルジャーノンの出鼻を崩すために――炎の渦を下へと向けて射出する。


 ソフィアに向けて放つはずだった攻撃魔術を防御用に切り替えたのだろう、アルジャーノンの目の前に再び大気の断層が出現し、炎は防がれてしまうが、代わりにソフィアが急降下し、炎が晴れるのと同時に氷の刃を男に向けて振り下ろした。



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