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12-44:悲しき再会 下


 ◆


 ルシフェルと名乗った第五世代型との戦闘は一進一退の攻防が続いた。基本的なスペックでは向こうが上回っているのだろうが、こちらは精霊魔法で身体強化と行動の隙を消すことができる。アシモフから受け取った精霊のイヤリングのおかげで何とか対応できるという形だ。


 しかし、相手も徐々にこちらの動きに対応してきている。ADAMsと魔法を掛け合わせた複合戦術を取った者が歴史上存在しなかったが故に最初こそ向こうも遅れを取っていただけだろう。


 だが――。


「そこですね」


 こちらのADAMsが切れた瞬間を上手く狙ったのだろうが――相手の実弾による攻撃は生成した土の壁で相殺した。再び奥歯を噛み、音速の壁を超えて接近して至近距離で光の矢を放つ――防がれこそしたものの思ったようにこちらを追い詰められていないせいだろう、優男風の第五世代型は何やら驚いたように目を見開いていた。


 奴には熾天使を凌ぐレベルで最高性能の学習AIが積まれているというおごりがある。そこに隙がある。確かに以前戦ったジブリールと比較すれば、ルシフェルの対応速度は早いと言える。しかし、言ってしまえばそれだけ――ルシフェルからは揺らぎというか、不気味さというか、そう言ったものを一切感じられない。


 ヴェアヴォルフエアヴァッフェン起動下のエリザベート・フォン・ハインラインやジブリールと戦っていた時が今の状況に近いのだが、あの時の方が遥かに追い詰められていたように思う――より正確に言えば、もしあの二人と戦っている時に精霊魔法があったとて、そこまで有利に働いたとも思えない。


 恐らく、彼女らには僅かにだが揺らぎがあったが故だろう。その揺らぎとは、不合理性、不確かさ――同時に、確かにこちらを上回ろうという意志の力が持つ凄味があった。


 対するルシフェルにはそれが無い。ルーナとしては絶対に裏切らないようにルシフェルを調整したのだろうが、それ故にこの優男風の第五世代型は本物の人形へとなり下がった。一言で言えば、コイツにはこちらを撃ち滅ぼそうとする意志の力がない。ただ命令のままに敵と対峙し、スペックにものを言わせて相手を蹂躙しようとしていたのだろうが――。


(己を持たぬ人形如きに負けるわけにはいかん!)


 敵を上回ろうという覚悟の強さを知っている自分が、たかだか自動学習を繰り返すだけの人形に――勝とうという意思を持たぬものに負けるわけにはいかない。


 一度距離を離して体勢を立て直そうとする男に向けて矢を放つ。精霊弓の一撃をバリアで防がれるが――世界に音が戻ってくるのと同時に、波動砲が周辺の大気と木々を激しく揺らす轟音が響き渡った。


「解せません……そのイヤリングで精霊魔法を制御しているまでは分かるのですが、その程度で私と渡り合えているのが……」

「……まだ本気を出していないと言い訳でもする気か? 御託を言っていないで、全力を出したらどうなのだ?」


 こちらの挑発に対し、ルシフェルは落ち着き払って薄ら笑いを浮かべている。この辺りは主人と違って精神的な余裕があるのか、もしくはまだ実力を隠しているのか――恐らくは両方だ。


 実際の所、ルシフェルはまだ全力を出していないというのは確かだろう。先ほど考察したようにあまり凄味を感じないのは確かだが、この程度で第五世代を統べる者と言われるのも違和感がある。


 それに、今の所ジブリールが沈黙しているのも気になる。挟撃されないように距離は取ったが、もし挟み撃ちにされたら敗北は必須だ。以前は飛行形態ではADAMsを利用できなかったようだし、恐らくは音速戦闘が出来ないから潜ませているのだろうが――ふと、先ほどジブリールが潜伏していた地点で何者かが飛び立ち、西の方へと飛び去って行った。セレスティアルバスターが使えなくなり、こちらに回収されるのを恐れてジブリールを退かせたのだろう。


 本来ならこの場で何とかジブリールをイスラーフィールに引き合わせてやりたかったが、流石にそこまで悠長なことをしている場合ではない。むしろ、挟撃の危険性が無くなったことを喜ぶべきか――そう思っていると、ルシフェルの方も赤い粒子を放つ翼をはためかせて上空へと飛び立った。こちらから距離を取って上から攻撃を仕掛けようという感じではない――城塞都市の方角を見据えているのを見るに、恐らくルーナに合流するつもりなのだろう。


「逃げるのか!?」

「逃げるなどというのは人聞きが悪い。より合理的に、より確実に勝てる選択肢を取るだけです。今回の作戦の目的は、女神レアの暗殺です……つまり、貴方など知ったことではないのですよ」


 こちらが放った光の矢をバリアで防ぎ、ルシフェルはそのまま向いていた方の方角へと凄まじい速度で飛び去って行った。ADAMsを起動すれば同等の速さは出せるだろうが、こちらは起伏の激しい未開の道を通らねばならないため、すぐに追いつくことは難しい。


 しかし、敵はあちらへ集結しつつあるのだから、自分も戻らねばなるまい。ルシフェルの後を追うために奥歯を噛み、レヴァルへと向かう機影を追うことにした。

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