12-43:悲しき再会 中
「懐かしの再会って、どういうことなんです?」
「……恐らく、あの巨大ロボットの戦闘制御には、レムの護衛であったミカエルや、散ったはずのウリエルやアズラエルの人工知能のコピーが使われているのでしょう。まだ残っているイスラーフィールとジブリールのものは入っていないはずですが。
もちろん、熾天使は人間サイズを前提としてつくられているが故に、コピーAIも勝手が違うと困惑しているかもしれませんが…彼らはアナタ達の戦闘データを持っているのは確かですし、すぐにAIを最適化してあの体のサイズにも適応してくるでしょう」
「あ、あの! 私が言いたいのはそういうことではなく……」
もしもあの巨人にレムの旧知が宿っているというのなら、撃破するのには抵抗がある――ナナコはそう言いたいのだろう。自分としては彼にはシンパシーを感じていた部分はあるので、アズラエルが宿っているというのなら戦うにも抵抗がある。
もちろん、そんな甘いことを言っている場合でもないのも確かだ。自分やナナコは巨体相手が不慣れという訳でもないのだが、先ほどルーナが強力なバリアを持っていると言ったことを想定すれば、自分たちの攻撃はあの巨人には届かないかもしれないのだから。
また、アズラエルの主であったアシモフの気持ちを考えれば、攻めるにしても護るにしてもやりにくい相手なことは間違いない。ナナコも同じように思っているのだろう、困ったような表情を老婆の方へとむけているが――アシモフは少し寂しげに俯きながら、しかし毅然とした様子で首を振った。
「ナナコ、迷うことはありません。確かにルーナの趣味が良いとは言えませんし、熾天使の学習アルゴリズムを搭載しているとなればあのユミルという巨人が強力なことは間違いありませんが……本物の彼は一年前に散っているのです。
あそこにいるのは、邪悪な意思によって蘇らせられた過去の残滓……むしろ、彼らを解放するために、貴女の力を貸してほしいのです」
「……分かりました。私も覚悟を決めます! ティアさんはアシモフさんを守ってください! 私が、あのロボットを止めてきますから!」
そう言いながら、ナナコは巨大な刀身で身体を隠す様にしながら巨人の方へと駆けだした。巨大な弾丸を真っ向から受け止めながらも、魔剣ミストルテインは確かに主を護っており――しかし度重なる銃撃により、表面はかなり抉られてしまっている。
とはいえ、機銃による攻撃は巨人自らの足元を狙うことはできない。ナナコは見事に巨人の下へと辿り着き、レーザーブレードで巨人の踵に切りかかった。しかし、やはり相手が巨大すぎるせいで、その一撃は鉄と鉄が打ち合う巨大な音を立てるのみで終わった。
「ナナコさん!」
そう声をあげたのはアガタだった。彼女も巨人の方へと接近しており、ナナコに対して手をこまねいている。ナナコの方もアガタの意志を察したのだろう、アガタの方へと走り出し、彼女の手前で跳躍し――そしてアガタが手をかざして展開した結界に乗っかって、大剣と共に一気に上へと跳躍した。
ナナコはそのまま巨人の一つ目に対して剣を振り下ろす。確かに生物であれば目が弱点になるのだろうが、アレは超科学で作られた人工物だ。自分の想像に違わず、剣はモノアイに振り下ろされる前に展開されたバリアによって弾かれてしまう。それでも空中で姿勢を崩さず綺麗に着地したのは、ナナコも流石の運動神経と言ったところか。
ともかく、ナナコが主にユミルと呼ばれた巨人の相手を、アガタはその援護に周り、自分とテレサは巨人の攻撃や他の第五世代型から護るためにアシモフの周りで立ち回る構図が出来上がった。そんな中、アシモフ自身も銃で応戦しつつ精霊魔法で回りを援護しながら近くに浮いているレムに声を掛け始める。
「確かに、あの巨体に通じるだけの火力が、今の我々にはありませんね。レム、力を貸してくれませんか?」
「私にできることなら構わないけれど……アズラエルの人工知能にハッキングを試みようというのですよね?」
「えぇ。私は彼らの生みの親ですから、右京がプロテクトをかけていたとしても干渉できると思います……しかし、電脳戦は得意ではありませんから、貴女にはそのサポートをして欲しいのです」
「ですが、右京がそれを許さないでしょう」
「そうでしょうね……しかし、動きを多少鈍らせることくらいはできるかもしれない。それに、時間稼ぎさえ出来れば良いのです。ソフィアが合流してくれれば、あの巨体に有効打になり得る攻撃もできるでしょう。
何より、以前のように皆が戦っているのを、手をこまねいているだけというのは耐えられませんから」
アシモフがそこまで言い切ったタイミングで、アガタとナナコが自分たちの方へと吹き飛ばされてきた。
「ナナコ、アガタ、ティア、テレサ。貴方達はユミルの動きに対して遊撃を仕掛け、周りへの被害を抑えてください」
「分かりました……」
アシモフに対して頷き返した直後、ナナコはハッとした表情で巨人の方を見上げた。それにつられて自分たちもそちらに目をやると、巨人の胸部装甲が開き――そこから長大な棒のような物が姿を現した。
「……荷電粒子砲!?」
アシモフがそう驚きの声をあげた時には、すでに棒には幾重にも稲妻が走っており――その正面に球体のエネルギーの塊が出来上がるのに合わせ、強烈な閃光が自分たちを襲ったのだった。




