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12-41:天使長ルシフェル 下


 ◆


 チェン・ジュンダーの秘密基地を後にし、ヘリコプターで襲撃をされているレヴァルの救援へと向かう。途中の攻撃に備えて飛行できる自分は外に出て遊撃の体制を取り、通信機によって――正確にはグロリアが仮に使っている機械の身体が受信する通信を又聞きしているのだが――シモンたちと連携を取っている形だ。


 途中でこちらに対する攻撃は無く、一直線にレヴァル付近まで辿り着く。すでに視界には先日のように城塞の上を舞う天使たちと、地上の舞台も外壁に向けて進軍しているのが確認できた。


「すでに襲撃は始まっているな……」

「えぇ、推測通りですね」


 ヘリ内でシモンとレムのそんなやり取りが聞こえた。そしてレムは咳ばらいを一つ、恐らく外にいる自分たちにも聞いてほしいという合図だろう。


「それでは、先ほどの打ち合わせ通りに行きましょう。アガタ、クラウディア、テレサ、ナナコの四名はレヴァル上空で飛び降り、すぐに現地へと合流。ソフィアとグロリアは高速艇を安全圏内まで護衛し、すぐにレヴァルへ来てください」

「えぇ、了解よ……しかし、あの病院のベッドに臥していた晴子と一緒に任務に当たるなんて、不思議な感じね」


 自分の翼があるのに、横着して自分の肩に乗っているグロリアがレムに対してそう返答した。グロリアの記憶は余すところなく自分にも共有されている――だから、女神レムのオリジナルが病床に臥し、世を儚んでいた姿を脳裏に思い浮かべることも可能だ。


「そうね……でも私は、オリジナルの記憶を継承した人工知能に過ぎません。ですから、厳密にはアナタの知る伊藤晴子では……」

「ややこしいことはなし。一緒に頑張りましょう、晴子」

「……そうですね。今の私はこうやって口を動かすことくらいしか出来ませんが、頼みますよ、グロリア。アラン・スミスのために……兄さんのために、力を貸してください」

「この戦い自体はアランの復活に寄与しないけれど……あの人が護ろうとした人々があの城塞都市に集結しているのなら、やぶさかじゃないわ」


 口では悪態をついているが自分には分かる。グロリアは伊藤晴子と協力することに関してポジティブな感情を抱いている。確かに彼女も創造神の一柱ではあるものの、その生い立ちと背景、何よりも彼女がアラン・スミスをこの星に一度蘇らせてくれたから、クローンと言えどもグロリアはアランに再会できた訳だから。


 自分としても、アランと出会えたことで再び生きる意味を見出すことが出来た。そういう意味では、自分もレムのために――いや、兄のために戦おうという伊藤晴子の人格に力を貸すことには賛成だ。


 そうでなくても、あそこは自分の想いでの場所である。自分を慕ってくれていた兵たちに、冒険者の人たち、領民――何よりも、あそこはアラン・スミスと出会った自分にとっての思い出の場所だ。だから、今回の戦いに関して自分たちの士気は高いと言えるだろう。


「グロリア、張り切ってるね」

「そういうアナタもね……それじゃあ、皆に良い所を見せましょうか!」


 グロリアは肩から離れて魔術杖の先端に張り付き、自分もレバーを操作して第六階層強化段を装填し、演算を始める――術を編み終わると目の前に煌々と光る魔法陣が浮かび上がり、左腕を突き出して陣を叩いた。


「ディザスター・ボルト!」


 叩かれた魔法陣から紅蓮の熱線が走り、城塞都市を舞う天使たちを撃ち貫く。先日見せた技だから対策されている可能性もあったのだが、恐らく完全に防ぐことは出来ないと読んでいた。魔術ならばディスペルも可能だが、この魔術は炎の魔人グロリアの怒りの炎熱もである――特に追尾部分は魔術に依拠しているが、威力部分はパイロキネシスに依拠している超高速の一撃なのだ。


 そう、これが自分とグロリアが編み出した答え。最強の一柱、魔術神アルジャーノンを倒すための戦術だ。彼は超高速演算でこちらの魔術をディスペルして無力化してしまうが、グロリアの能力はその限りではない。また、テレサ姫との近接戦闘において、アルジャーノンは対応こそしていたものの圧倒的な力を見せていなかった――ともなれば、無効化出来ない新しい魔術と彼の苦手とする近接戦闘のコンビネーションでの戦闘を仕掛ける、これが魔術神を倒すために編み出した戦術だった。


 それで腕試しにナナコに戦闘をけしかけてみたのだ。単純な接近戦の腕前に関しては、ナナコは自分が見た中でも最高位に位置する。そういう意味で力試しにもってこいの相手だったのだ。


 もちろん、多分に私情が含まれていたのも否定はしない。アランを支えてという約束を反故にされた怒りは間違いなくあり――逆の立場だったとして自分でも何も出来なかったと思うし、ナナコ自身も気に病んでいることは分かっていた――彼女が大事そうに髪を結っている赤い外套の切れ端を見て、情動を抑えられなくなっていたのだ。


「ソフィア、凄い!」


 先日と同じように空を飛んでいる個体のある程度の撃退は済み、魔術杖から廃莢をしている傍らで、こちらから怒りを向けられた少女は全く意に介した様子もなく、開け放たれたヘリの扉から賞賛をこちらへ向けてくれるのだった。正直、こういうところも苦手だ――彼女の寛大さは、自分が狭量な人間だという事実を突きつけてくるようだから。


 しかしそれ以上に、自分のように冷たい人間を見捨てないという安心感もあるから、つい甘えてしまっている部分もあるかもしれない。ある意味では、自分はナナコのことを信頼している。それは間違いない事実なのだ。


 ともかく、自分は移動を止めて、西の空から来襲する敵の援軍と戦うために魔術杖のレバーを引き直した。


「無駄口は後だよナナコ。そろそろ降下地点に着くんだから」

「了解! また後でね!」


 ナナコが元気にこちらに手を振り返すのを見送り、ヘリは城壁を超えていき――そしてナナコを先頭に四人の少女達がヘリから飛び降りてレヴァルの旧聖堂前へと着地した。


『本当は褒められてまんざらでもないくせに、クールぶっちゃって』

『うぅん、私一人の力じゃないから……アナタの力があってこそだよ、グロリア』

『……そう素直に褒められると調子が狂うわね。ともかく、私たちは私たちの仕事をこなすわよ、ソフィア!』


 頭の中でやり取りを済ませてすぐにもう一度杖を振り回し、こちらへ戻ってくるヘリを援護するため、自分は飛来する敵の増援を撃ち倒すために再び魔術を編み始めたのだった。

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