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12-39:天使長ルシフェル 上

 レヴァルの様子を城壁の外から観察していたのは僥倖だったと言える。そのおかげで、音を気にせずADAMsを起動することが出来るのだから。


 上空から街に向かっている新型たちを視認してからすぐに救援に向かおうかとも思ったが、敵の動きが何やらきな臭いことにはすぐに気が付いていた。以前の襲撃ではすぐに攻撃を開始したのに、今回は威嚇するように上空を飛び回るのみだったからだ。


 ルーナがセレスティアルバスターの名を上げた瞬間、自分はすぐに赫焉の熾天使を探すために移動を開始した。有事の際に備え、この辺りの地形は把握している――あの武器ならかなり遠距離からも狙えるはずではあるが、荷電粒子砲は重力や磁場の影響を受けるし、今日は風も強く銃身もぶれやすく、百キロメートル以上の距離からの狙撃は難しいはずだ。そうなれば、自然と狙える距離から潜伏している場所は限られる。


 結果、レヴァルより数十キロ離れた小高い丘の上、レヴァルまでの遮蔽物のない見下ろせる場所で、身を伏せながら銃身を構える熾天使の姿を発見することに成功した。以前破壊したはずの脚部には新たなパーツが付けられており――しかし、彼女は自分の接近にも気付かず、ただスコープに目を当てて遠い城塞を見つめているようだった。


「……良いのかジブリール。あそこにはイスラーフィールがいるんだぞ?」


 すぐにでも破壊してやればよかったのに、気が付けばそんな風に声を掛けている自分が居た。ヘイムダルで見せたジブリールとイスラーフィールとのやり取りが脳裏に浮かび――彼女はルーナの命令を跳ねのけて、僚機を攻撃する手を止めて見せた。もし言葉が届くのならば、攻撃の手を止めてくれるかもしれない。そんな淡い期待から、思わず声をかけてしまったのだ。


 しかし、ジブリールはこちらの声など意に介さず、ただじっとスコープを見つめている。そもそも、何者かが近づいてきたのに無反応と言うこと自体がおかしい。そんな風に思っていると、岩陰の奥から何者かが近づいてくる気配を感じ、精霊弓を取り出していつでも放てるように矢を放てるように構える。


「……無駄ですよ、アルフレッド・セオメイル。ジブリールにはもう声も聞こえないし、周りの姿も見えていません。彼女にあるのは、女神ルーナ様の命令のみです」


 声と共に現れたのは、白い髪に目鼻立ちの整った青年だった。同じ優男風と言えばアズラエルに近い物もあるのだが、この男からはどこか浅薄な印象を受ける。無意識にアズラエルと比較していたが、それは彼の気配はレムリアの民のものでないからこそ、自然とそのような比較が生まれたのだろう。要するに――。


「貴様、第五世代だな」

「型番からすればその通りではありますが、私はこの星で生み出された至高のアンドロイド……本来ならば第五世代も第六世代も超えた、真の第七世代とも言えるべき存在です。貴方たちが創り上げた偽りの第七世代などと比較にならないほど高性能なね」


 青年はそこで一度言葉を切って、片手を仰々しく身体の前に添えて頭を下げてきた。こちらが矢をつがえているというのに大した余裕だが、その気になればこの距離でも躱すことが出来るという余裕の表れか。


「自己紹介が遅れました。私はルシフェル、天使長ルシフェルです。女神レムのAIに変わり、全ての天使を束ねるために生み出された究極のアンドロイド。アシモフ製のアンドロイドと異なり、私には揺らぎが存在しない。女神ルーナ様の最強の僕です」

「貴様になぞ興味はないが……成程、創造主にこだわりが無ければ子供もつまらない存在になるのだな。熾天使はもちろん、他の第五世代達は自らの任務に忠実であり、そこに誇りを持っている……貴様が無駄口をベラベラと叩くのは、虚栄心の塊であるルーナにそっくりだ」


 こちらの皮肉に対し、ルシフェルと名乗った第五世代アンドロイドは無表情のまま押し黙った。意外と冷静な様子を見ると、主よりは余裕があるのかもしれないが――ともかく、すぐにでも攻撃に移るのは容易いが、ジブリールの状況は確認しておきたい。

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