12-37:対立する女神 中
「言っておくがなぁ、妾は本気じゃぞ! あと五分以内に一人で出て来なければセレスティアルバスターを発射して、貴様の子供たちを殺しつくしてやる!」
ルーナの脅しに対し、レアは少しだけ考え込むように眼を閉じて、おもむろに椅子から立ち上がった。実際に街を壊滅させる武器があるとなれば穏かでは居られないが、安易にレアを外に出しても碌な事にならないのは見えている――そうなれば引き止めるべきだろう。
「……私たちのことを虫扱いしてくる奴が平等を語るなんて、片腹痛いわね。しかし、アレはブラフの可能性も高いんじゃない?
何より、ルーナが他の七柱の邪魔をしたいのならば、最初から宣言せずに私たちを全滅させればいいだけじゃない。それなら、わざわざ貴女の身を危険にさらすこともないわ」
「えぇ……ですが、アレがルーナの独断専行と言う可能性が拭いきれない以上、出ない訳にはいきません。私を慕ってくれている者たちの命を徒に散らすわけにはいきませんから」
レアはこちらの言葉を制止に首を振り、扉へと向かって歩みを進める。しかし今度はイスラーフィールが「待ってください」と老婆の背に声を掛けた。
「ルーナの狙いは貴女の命です。もしこの場で貴女を失えば、第六世代型達の心に絶望が降り、黄金症が一気に進行してしまいます。そうなれば……」
「えぇ、彼女の狙いは分かっています。ですが……仮に私が今日に潰えたとしても、私はきっと子供たちは希望を捨てず、前へと進んでくれると信じています。
それで、貴女はここで待機し、有事の際に備えておいてください。もし戦闘が始まったら、一人でも多くの第六世代を護るために戦ってください」
「ですが、私はアズラエルより貴女を護るように言われています」
「ふふ、律儀ね……でも、私も全く無策という訳ではありませんよ」
「その策と言うのは?」
「三番目の虎が、きっとこの状況を打破してくれると信じていますから」
「……彼が来ているのですか?」
イスラーフィールは珍しくどこか驚いたような表情を浮かべ――対するレアは力強く少女に頷き返し、扉を開けて廊下へと出ていった。事の成り行きを見守るため、自分とイスラーフィール、マリオンはそれぞれ窓に張り付き外の様子を見つめていると、閑散とした路地にエルフの老婆が歩み出たのが確認できた。
「さぁ、言われた通りに一人で来ましたよ。貴女も姿を現わしたらどうですか、ルーナ……いいえ、ローザ・オールディス」
「ははは! 良かろう、貴様が死にゆくさまを特等席で見てやろうではないか!」
下卑た笑い声が辺りに響くと、再建された大聖堂の上空に亀裂が走り、そこから白い髪の少女が姿を現した。それに合わせて空を飛んでいた何体かの第五世代型が少女を取り囲むように降りてきて、すぐに主を護るように少女を取り囲んだ。
たった一人で対峙しているレアに対し、ルーナはまたぞろと機械の兵士を引きつれ――また、彼女が偉そうにふんぞり返っているあの場所は、確かに彼女を祀る聖堂であるのだが、同時に偽りと言えども自分が司教を務めた場所――なんだか複雑な心地がする。
しかし、この場に出て来れば、ルーナも街ごと崩壊させる攻撃に巻き込まれてしまうはずだ。つまり、やはりレアをあぶり出すための威嚇であったという説が濃厚か。そうでなくとも、七柱の創造神やゲンブが扱う七聖結界ならばギリギリ防げる程度の威力があるのか、そうでなくとも瞬間移動してきたあの背後の亀裂に戻ろうというのか――成程、様々に可能性は考えられるが、恐らくルーナは自らの安全はキチンと確保していることは間違いないだろう。
ルーナはその華奢で神聖な外見にそぐわない横暴な調子で聖堂の屋根を踏みつけ、腕を組みながら眼下の老婆を見下ろした。
「むざむざと出てくるとは……貴様一人なら生き残ることも出来たじゃろうに、そんなに第六世代共の命が大切か?」
「えぇ。貴女と違って、私には護るべきものがありますからね」
レアの皮肉に対し、ルーナは柳眉を逆立てて怒りを顕わにする。しかし余裕を見せたいためか、笑顔を取り繕って――怒りが抜けきっていないせいかただの引き笑いにしか見えないが――優雅な調子で続ける。
「まぁ良い……貴様の讒謗なぞ痛くもかゆくもない。それどころか、よくやったと誉めてやろう。貴様が生半可に人々を纏め上げたおかげで、あとは貴様が死ねば一気に黄金症の進行を進められるようになったのじゃ。
貴様がやったことは、妾によって利用される運命だった……ははは! 皮肉なことじゃな!」
文字通りに皮肉を返してレアを怒らせようとしたのだろうが、それは失敗したのだろう。こちらからはレアの背中しか見えないが、彼女は微動だにせず――対するルーナの方が、再び露骨に不機嫌そうな表情を浮かべているのだから。
「一応、アルファルドからの伝言を伝えるぞ。もし貴様がこの場で第六世代共を見限り、こちら側へ合流するというのならば、命ばかりは許してやってもいいとな」
「もはや私が貴女達に合流することはありません」
「……ふん! 愚か者めが!」
ルーナが大仰に腕を天に掲げてそれを一気に振り下ろすと、彼女を取り囲んでいる兵士たちが武器をレアへと向けた。一人で出て来いと言って有利な立場を作っただけの癖に、ルーナは勝ち誇ったかのように攻撃的な笑みを浮かべながら眼下のエルフを見下ろしている。




