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12-36:対立する女神 上

 セブンスたちがレヴァルを発って翌日の午後、再びレヴァルは絶体絶命の危機に瀕していた。先日と同様に、空を飛ぶ新型の敵が要塞の壁を乗り越えて、街の上空を占拠してしまったのだ。


 自分には狂気山脈を超えた疲れが残っていたため、チェンの捜索隊には参加出来なかった。とはいえ、一人でレヴァルに居るのも肩身が狭いだろうということで、昼間はレアが気を使って執務室に呼んでくれていた。今はその執務室の窓から空を飛ぶ鋼の天使たちを見上げているところだ。


 敵も直ちに攻撃をしかけてくるわけではなかった。ただ威嚇をするように、不安を煽るように新型は上空を旋回している。下手に刺激をすれば向こうの攻撃が始まってしまうかもしれない。それ故にレアは攻撃命令を出さず、地で人々が天を見上げ、天で第五世代型が地を見下ろす――そんな構図が続いて三十分程度の時間が過ぎた。


 とくに、主力であるセブンスたちが居ない時に限っての襲撃になるとは――レアは「つい先日まではナナコもレムも居ない状態で防衛を続けていたのですから、大丈夫ですよ」と気丈に振舞ってはいた。


 確かにそれも事実なのだろうが、空を飛ぶ新型が出てきたのはつい先日のことだとも聞いている。そうなれば、敵の戦力がより増強されている状態に、こちらは強力な戦力を欠いた状態で立ち向かわなければならない訳だが――。


「……出てくるがいい、女神レアよ! 貴様が出てきてその命を差し出せば、レヴァルの包囲網を解いてやる」


 自分がアレコレ考えている間に、外から人を小ばかにしたような女の声が響き渡った。どこから声がしているのか、窓に張り付いて外を見て見るが、その姿は見えない――しかし、あの声は境界の総本山で聞いたことがある。セレナ、もといそれを依り代にしているルーナのモノだろう。


「レヴァルに残る小汚いゴミムシども、貴様らの状況を教えてやる……今、この城塞都市は神の炎によって狙われておる!

 このような石と煉瓦で出来た壁など粉微塵に砕き、都市全体を灰燼かいじんと帰すだけの威力のある代物じゃ……レア、セレスティアルバスターと言えば分かるじゃろう?」

「……ジブリールが、どこかに潜んでいるんですね」


 そう声を挙げたのは、レアに付き従う水色髪の少女――イスラーフィールというらしい――だった。そのジブリールというのを自分は知らないが、その神妙な様子から察するに、彼女とジブリールとやらには何か特別な因果があるのだろう。


 しかしそれより、重大なのは本当に街一つ消滅させられるだけの武器が存在するか、ということだ。レヴァルは魔王軍との戦争における最前線基地であり、有事以外にも北の大地との交易の要であるので、世界規模で見ても王都や海港に次ぐ規模の都市だ。それを跡形もなく消滅できるだけの兵器が存在するなど、にわかに信じがたい。


「レア、そのセレスティアルバスターと言うのは存在するの?」

「えぇ、残念ながら……実際に、セレスティアルバスターは一年前、一つの集落を跡形もなく吹き飛ばしています。イスラーフィールの対消滅バリアはある程度修復できたので、私の七聖結界と合わせれば、それで防ぐことは不可能ではありませんが……せいぜいこの執務室に集まっている四人の命しか護ることはできませんね」


 そう説明するレアの口調は淡々としたものだったが、逆にそれがそのような兵器が存在する証左のように感じられる。自分が緊張に固唾を呑む中、マリオン・オーウェルは冷静な様子で「レア様」と声を挙げた。


「ルーナの挑発に乗ることはありません。仮にそのような武器が本当に存在するとしても、彼らがそれを撃つことはあり得ないと思われます。この街に集まっている人口はかなり多い……彼らの目的が私たちレムリアの民たちの魂であるのならば、それを悪戯に消耗させることはしないはずです」

「そうでしょうか……いえ、アルファルドやアルジャーノンならばそのように判断するでしょうが、ルーナはそんなことは気にしないかもしれません。

 彼女の望みは、高次元存在を降ろさずとも、もはや半ば達成されているのですから」

「……どういうことですか?」

「彼女は旧世界において、差別無き世界を実現しようとしていた人物です。それは、大分ゆがんだ形ですが、この世界においてはある程度実現されています。

 その気になればレムリアの民たちの精神に一斉に干渉し、コントロールすることだって不可能ではないのです……管理者である彼女が平等であれと命令すれば、この世界の人々は差別を止めるでしょう。

 それが出来ていないのは、今は管理AIであるレムが居ないことと、他の七柱がそれをよしとしていないからに他なりません。また、アルファルドやアルジャーノンを出し抜くためには、ルーナも高次元存在に手を伸ばさなければならないというだけ。次元を超越する力を手に入れれば、自らが創り出す世界がより盤石になる程度にしか彼女は思っていないはずです」

「逆を言えば、私たちがここで全滅すれば、むしろ他の七柱らの計画を遅延することができる……そういうことですか。しかし、人々の心をコントロールしてまで得る平等が、果たして本当に平等と言えるモノでしょうか?」

「貴女の言う通りよ、マリオン。言語処理アルゴリズムを……いいえ、人の心や精神を完全にコントロールしてしまえば、それは人形遊びと変わらないわ。もし世界にルーナと制御されたアンドロイドしか残らなくなれば、それは平等という名のベールを被った管理社会であり、もはや世界にルーナの意思しか意味を為さなくなる。

 まぁ、自分の娘を道具扱いした私たちが、彼女のやっていることを一方的に糾弾するなんて、虫が良いかもしれないけれどね」


 自嘲気味に笑うレアに対し、マリオンは怪訝そうな表情を浮かべた。確かに、ルーナの傲慢さと同等等と言われていい気はしないだろうが――しかし強烈な皮肉だったからこそ腑に落ちた部分もあったのかもしれない、最終的には絞り出すような声で「そうかもしれません」と返答した。


 レアとマリオンの会話が終わったタイミングで、再び外から「レア!」と叫ぶルーナの声が窓を揺らした。

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